追記
追記。
噂が広がるのはまさに光の速さだった。
そんな彼が急遽学校を自主退学することになった。理由は家庭の事情ということだけれど、実際のところは件の万引き事件が原因だ――ということが全校に知られるまでは、本当に速かった。
僕やツバキは誓って噂の出どころではないけれど、やはり人が集まるというのはそういうことなのだろう。そしてその犯人像というのは、奇しくも町子さんの言う通りのものだった。
けれども本人不在の噂がそう長続きするわけもなく、一週間も経過すればその件について語る者はいなくなった。僕とツバキがこの件について回想したのは、そんな風に半ば噂が風化してからである。
「ね? 言ったでしょ、町子さんは名探偵だって」
得意になった僕は思わず自分のことのように、ツバキにそう告げた。彼女は渋々といったようだったが頷く。
「確かにね。シロタロウがあの人を頼りにするのが分かった気がする。あの人頭おかしいよ」
「いや、頭おかしいって……」
多分良い意味なのだろうけれど、人聞きは良くない。とはいえ、あの髪色のセンスを見るに、普通の思考回路とは違うものを持っているということは認めざるを得ない。
「頼ると言えば、あの時どうして僕に連絡してきたの?」
「あの時?」
「ほら、僕と町子さんが図書室に呼び出された時。シンジを頼れば良かったじゃないか。アイツなら、謎を解けるかどうかは分からないけれど、少なくとも僕たちより早く駆け付けたと思うよ」
それに、シンジと話す良いチャンスになったかもしれないのに。
「理由はあるよ。シンジはシロタロウなんかよりも頭は良いけれど、私としては謎を解いてもらわなきゃ困るから。シロタロウなら名探偵の連絡先も知っているし」
「で、本当のところは?」
「……シンジと二人きりになるのは緊張するから」
ツバキは今にも消え入りそうな声でそう言ったかと思うと、照れくさそうに頬を紅く染め、俯いた。
そんな彼女の様子を見て、僕は溜め息と共に小さく肩を落とす。
やれやれ、消えた本の謎は解決できたけれど、ツバキの恋愛に関する問題が解決するまではまだまだ時間がかかりそうだ。恋する乙女の精神はどんな謎よりも複雑極まれるものなのだろう。
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