愉悦を求める神の遊び
黒幕は愉悦を求む
とうとう出会いを果たした事件の犯人。それは天界にいた時に出会い、再開を約束した神族の友人。ハウザーだった。
まさか、こんなドラマみたいなことが起こってしまうとは予想外過ぎる。神様に罰を食らった後だというのにも関わらず、ここまで運命に微笑まれないなんてな……。
「全部、お前がやってたのか……!?」
「うん。レイエックスの人たちをこの森に閉じこめたのも、君の仲間をさらって要求に応じるよう焚きつけたのも僕。全てはシンヤ君、君と出逢うためさ」
「俺と……?」
俺の問いかけにハウザーは肯定だけを返しながら近付いてくる。本人が認めた以上、どうやら本当に全部あいつがしていたことらしい。
そして、それらを起こした目的は俺と出逢うためだという。そんなことのためにこの事件を起こしたのかよ……!
「何で……他人に迷惑かけるような方法を取ったんだ? 会うだけが目的ならギルドに来るなりさっきみたいにテレパシーで連絡しあったりすれば……」
「──そんなのつまらないじゃないか」
俺の言葉を遮った相手の発言。それを聞いた時、ぞくりと背中に悪寒が走った。
今、何て言ったんだ……? 人が死んだかも知れないのに、つまらないだって……?
「僕は人が慌てている姿を見るのが好きでね、天界にいた頃も色んな神族に悪戯を仕掛けてはその様子を見て笑ってたよ。いやぁ、特に上位神族の大慌てぶりは本当に面白かったなぁ」
「いた……ずら……?」
「そうだよぉ。君と初めて出逢った時もそうさ。ハウゼッテの姿で君と接触をしたり、君を追いかけたりしたのもわざと。君の
そう語るハウザーの表情はとてもにこやかで、まるで子供の様な無邪気ささえ感じられた。だが、それ以上に俺が一番に感じたのは『狂気』だった。
あの男の行動理由は他人に悪戯を仕掛け、それにかかる様子を見て笑うこと。とてもじゃないが稚拙極まりなさ過ぎる。そんなことのためにザインが犠牲になったなんて……。
衝撃的な話の前にやるせなさで棒立ちだった俺は、とある感情がふつふつと湧いてくるのを感じていた。
それは怒り。あまりにも下らなさすぎる理由に巻き込まれた仲間やレイエックスのギルド員のことを考えただけで、目の前の男に対する感情が大きくなり、そしていつの間にか持っていた剣を抜いて切っ先をハウザーに向けていた。
「剣、震えてるよ。慣れてないなら無理しないほうがいい」
「……うるさい」
自分に向けられているのにも関わらず、ハウザーは動揺を見せるどころか逆に指摘を返してきた。
剣を取るのが初めてだというのもそうだが、一度でも友人と思った人物にこうして敵対心を剥き出しにすることがとても心に来ている。
何せ天界で触れ合ってきた神族の中で一番俺に種族や差別感を感じさせずに接触してきた人物。前の人生で他者に優しくされた記憶が僅かしかない俺にとって、あのたった十数分間は少なからず俺自身を変えたと言ってもいい。
そんな相手を敵にしている俺。確かにやっていることは正しいのかもしれない。だが、俺の中の甘さが自分でも抑えられずに剣先の震えとなって現れていたのだ。
「……僕を殺す? また君は殺しをするのかな?」
「っ……」
「そのつもりなら僕は抵抗しないよ。最高神を殺した経験のある君に殺されるのも悪くない」
小刻みに震える剣に触れ、その切っ先を自身の左胸の位置へと修正させるハウザー。
ここにきてあの時のことを思い出させられるとはな……。俺が初めて人を殺した瞬間が脳裏を過ぎった。
仮の姿の最高神を殺し、次は友人を殺めるのか。今ならそれは簡単だろう。こうして本人が急所のある位置に剣先を近づけさせているんだから、剣を一押しすれば全てが終わる。
これ以上の被害者は増えないし、行方不明者の居場所は護衛の二人に教えているはずだから、見つかるのは時間の問題。それどころか今ここでやらなければ、また今後このようなことを起こされずに済む。だが──
「なんで、そんなことを平気で言えるんだよ……」
でも無理だ。俺にはこれ以上の殺しは受け入れられない。受け入れるわけにはいかなかった。
ゆっくりと下がる剣。地面に切っ先が沈み、重さで疲弊していた俺の腕は軽くなる。
「優しいなぁ。君のそういうところが僕は好きだよ」
「なぁ、最後に聞かせてくれ。何で俺に会いたいって思ったんだ。何か目的でもあるのか?」
ほぼ意気阻喪した状態で、ハウザーに最後の質問をする。
何故俺に会いたいと思ったのか。そして、何をしたいのか。その理由を知りたい。そのためにここに来たんだからな。
「ああ、そうだった。本題のことをすっかり忘れてたね。じゃあ、早速本題に入ろう」
この問いかけに本題とやらを思い出したらしいハウザー。俺から何歩分か距離をおくと、着ていた上着を振り払って姿を一瞬隠すと、その姿に変化が。
衣服の上から見えていた体格は若干小さくなって胸部と腰回りの厚さが増し、服の露出部分から覗く輪郭もさっきの姿と比べて細さが顕著に出る。
まるで入れ替わりのマジックのような変貌。さっきまで男の姿だったハウザーは俺としてもいろいろ因縁のある
「シンヤ君は僕との『遊び』に付き合ってもらうよ。ルールは単純明快。僕が作ったコースをこれから来る予定のゲストと一緒に協力してゴールするだけ。ね、簡単でしょ?」
「コース……? ってかゲストって誰のことだよ」
「それは来てからのお楽しみさ。まぁ、絶対に来てくれるとは限らないけども」
声まで変わったハウザーもといハウゼッテの説明に、俺は頭を悩ませるばかりだ。何だよコースって。
遊びに付き合ってもらうとか、やっぱり稚拙極まり理由だ。しかい、相手は最高神の目も誤魔化せる相手。先例がある以上油断は出来ない。
「勿論拒否権はない! ……っていうわけじゃないけど、仮にここで断ったら君はこの森を彷徨うことになる。だから、ここは大人しく参加するのが吉だよ」
なるほど。参加は実質強制。舞台にこの森を選んだのもただ大勢の人質を取るためだけじゃなかったってことか。
コースとやらもただの道のりで終わるとは思えないな。ハウゼッテの性格を考えると障害物は避けられまい。面倒だが、覚悟を決めるしかないみたいだな。
「あ、そうだ。もしゲストが来る前に君一人で森を抜け出せたら、特別に僕に出来ることなら何でもしてあげちゃうよ」
「何でも……って。それにはどういう意味が含まれてんだよ」
「本当に何でもだよ。望むのならそういう意味で身体を差し出したって構わない。相手にだけ我が儘を押しつけておいて自分が何もしないのは不公平だろう?」
あいつ、本気で言ってんのか? 一人でゴールまで辿り着いたら何でもしてくれるのか……。べっ、別に期待なんてしてねぇけど……ちょっとアレだな。正直気になるところではある。
多分、ハウゼッテにとっては対等な条件なんだろうな。何せ神族の身体だ。それを人間に差し出すのを覚悟で来ているのだから、ある意味強い信念を持っているんだと分かる。
いいだろう。どのみちこのままじゃ拠点に帰れないからな。その覚悟に免じて挑戦を受けてやる。ゴールしたら本当に何でもするというのなら、その罪を償ってもらう!
べ、別に無事に帰るのが目的なのであって、ハウゼッテの身体が目的なんかじゃないんだからなっ!
「なんだか急に顔つきが変わったねぇ。そんなに僕の身体に興味が……」
「べっ、別に変わってなんかねぇよ! それにお前中身は男だろうが! やるなら早くしろよ!」
「そう分かりやすく照れないでよ。もしゲストと一緒にゴールしてもチューくらいなら喜んでしてあげるからさ」
からかいやがってこの野郎……。おかげでさっきまでのシリアスがどこかに行ってしまったではないか。
ほんと、あいつといれば調子が狂う。改めて実感したぜ。
「それじゃあ、ルールの説明だ。
いよいよハウゼッテの『遊び』とやらが始まる。スタート前の説明を聞く限り、どうやらバラエティー番組の特番でするような大がかりな内容らしい。俺でもそれくらい分かる。
気になるのは障害物とサブターゲットとやら。この狂気の女神様が作ったコースだ。絶対にろくな物ではないはず。とりあえず無視して行けるだけマシか。
「ちなみにサブターゲットや障害を突破して手に入った物は特別にプレゼント♪ 僕が頑張って集めた高級品もあるから、ぜひとも挑んで欲しい」
マジで特番の企画みてぇだな。相手は俺を物で釣ろうとしているようだが、生憎その手に乗るつもりはない。
俺の目的は生きて帰ること、ただそれだけ。確かに高級品を得られるチャンスかもしれないが、無謀は出来ない。
「準備はいいかな? あ、それともし困ったことや聞きたいことがあったら大声で僕の名前を叫んでね。三回までならヘルプしてあげるよ」
「お前……もしかしてテレビ好きか?」
「えっ!? な、何のことかな~? 僕、テレビなんて存在知らないも~ん……」
……確信した。こいつ、たぶん何かのテレビ番組の内容を模倣してるんだ。だからこんな特番めいた内容の『遊び』になってるんだな。子供かっての。
「と、とにかく、もう『遊び』の賽は投げられた! そのまま真っ直ぐ進んだ先にこの森の全体図を示した地図を置いてある。それに従ってゴールを目指してね! それじゃ!」
「あっ、おい! あいつ、逃げやがった……」
図星を突かれたのか、ハウゼッテは早口で説明を終わらせるとパッとどこかへ消えた。おいおい、それは主催がしていい態度じゃないぞ。
なにはともあれ、ゲームは始まっている。まずは説明通り真っ直ぐ行った先にある地図とやらを回収しよう。
はてさて、この『遊び』には一体どんな罠が仕掛けられていることやら。不安要素は絶えないな。
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