セカンド・コンタクト
おおよそ全ての準備を終えたところで、デュリンと最高神が監神館に戻ってきた。
どうやら最高神の説明に納得したご様子。心なしか表情は暗く感じるが、まぁ気のせいだろう。
「イレリスよ。私は仕事に戻る。二人のことは頼んだぞ」
「かしこまりました」
そう言い残して最高神は監神館から出て行った。神々の長なんだから仕事で忙しくて当然か。
「……では、デュリン様、晋也様。私は昼食の用意を致します。準備が出来次第お呼び致しますので、その間は自由時間とさせて頂きます。では」
召使いのイレリスさんは昼食の準備をするために俺たちの所から離れていき、ついに俺とデュリンだけになる。
ようやくか。ファーストコンタクトからすでに五時間以上経過して、ようやく第一段階に登れたな。
「…………」
しかし、女神様は何だか不機嫌そう。他の二人がいた時と比べると表情がより暗くなっているのが分かる。
ふむ、これは危ないな。これから二人で異世界で生きていくというのに、これ以上邪険な関係になってしまうのは頂けない。
俺に話術で人を和ませられる力はないが、ここはやむ終えまい。
「ではデュリン様。改めて私からの自己紹介とさせて頂きます。私は久保倉晋也。現世生まれ現世育ちのただの人間です」
軽い咳払いの後、俺がは自己紹介の再開をする。あの時はデュリンが暴れ出して中断という形になってしまったからだ。
「……知ってる。おじいさまから聞いた」
「……左様でございますか。ということは私の犯した罪に関しても……」
そのことについても、デュリンは無言で首を縦に振る。
どうやら俺自身についての話は最高神から聞かされたようだな。神殺しの罪についても。
やっぱ内容が内容だからか、引かれて気まずくなりつつあるな……。場を和ませるつもりだったのにどうしてこうなった?
……いや、今は最高神の神殺しについての弁明をして俺の内心を知ってもらおう。そこからの方が後々楽になるかもしれん。
「いくら生きるためとはいえ、貴女様の祖父である最高神様を人間の姿であったとはいえ殺めてしまったこと。心の奥から反省しております」
「……そう、なの」
むう、余計暗くしてしまったような気が。
でもこうなるのは当たり前か。何せ肉親を殺した人物が自分の教育者として付くのだ。普通なら気が気でなくなってもおかしくはない。
相手からは一体どう思われているのやら。ま、好印象は抱かれてないだろうな。これは確実と言える。
「罪は決して消えませんが、償うことは出来ます。引き受けたこの役目、しっかりと果たさせて頂きます。なのでデュリン様。今後ともよろしくお願い致します」
俺は記憶の中から礼儀正しいっぽい感じの動きをトレースしつつ、デュリンの前に立って一礼をする。
これで少しは好印象を得られればいいのだがな。全ての事実を知った彼女はどう出るのだろうか。
「……分かった。おじいさまを殺した罪について私は咎めません。その代わりに条件を一つ」
「条件、ですか」
何やら条件とやらを突きつけてきたな。一体何を要求される……?
「異世界では私のことを様付けで呼ばないで。それと、口調もその変な感じのじゃなくて、もっと普通の……友達みたいな感じにして」
「何故ですか?」
これは意外や意外。デュリンの申し出の内容とは呼び方の変更だった。
怠惰だの面倒くさがりだのと呼ばれている彼女のことだから、働きたくないとか家事は全部任せるとかの内容になるのかと思ってた。まじでか。
「ただの気まぐれよ。あと堅っくるしいのはあんまり好きじゃないから」
「……分かりました。では異世界に到着次第にこのしゃべり方を止めましょう。呼び方も『デュリン』と名前の方だけでよろしいですか?」
「うん。私もあなたのことは好きなように呼ぶから」
まぁ、俺にとってもいちいち今みたいなしゃべり方をするのは面倒な上に、内心では最高神ともども様付けで呼んでないしな。そっちの方がありがたい。
イレリスさん? あの人は『様』付けとか呼び捨てより『さん』呼びの方がしっくりくるから。
「と、とりあえず、よろしくね。シンヤ」
「はい。早めに帰還出来るよう、私も尽力致しますので、そのところはお願いいたします」
うん、これでようやく俺とデュリンとの初会話は終了だ。うん、長かった。
女神デュリン。相当な面倒くさがり屋だとは聞いてはいたが、意外にもちゃんとしてるっていうか、想像よりもだいぶ素直な子だった。まぁ、朝のことを考えると不安要素はまだまだ多いがな。
「……デュリン様、晋也様。昼食のご用意が出来ました。こちらの食堂にてお召し上がりください」
と、ここで昼食の準備を終えてイレリスさんが戻ってきた。わりと早かったな。
そういえば、天界の食事は初。昨日から妙に腹が減らなかったから、今まで何も口にしていない。一体どんなものが提供されるのだろう。
てか、人間の俺が食べても大丈夫かな? バチとか当たらないのだろうか。
「やった! ご飯だー!」
デュリンは食事にテンションが上がっている。ついさっきまで暗い顔をしてたのに、今は見た目相応の無邪気な笑顔。暢気なものだな。しかし──
「……デュリン様はまず、
「げっ!?」
イレリスさんはどこに隠していたのか、朝の格闘時に持っていた着替えを取り出してデュリンの食堂行きを阻み始める。
そういえばまだ寝間着だったな。もうすっかり馴染んで忘れてたわ。
「どうしても?」
「……どうしても、です」
ああ、また両者の間に火花が。こりゃあ、第二回戦の雰囲気。
僅かずつ近付いて来る召使い。それに対し、じりじりと後ずさる元
「……ッ!」
「……逃げないでください!」
何が合図となったのか、デュリンは無言で自室のある方へと走り去り、イレリスさんはその後を追いかけていった。
うん、これで食事が遅れてしまうな。というか、デュリンはどんだけ服を着替えるのがイヤなんだよ。
少しずつではあるが不安が募っていくなぁ。異世界でもあんな我が儘は言わないでくれるといいんだけども。
……無理な願いか。はぁ。
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