(惰)女神様を更生させられるのはホームレスの俺だけかよ!?

角鹿冬斗

神殺しの瞬間

プロローグ

 俺は訳合って都心の外れでホームレス当然の暮らしをしている。金も家も人脈すらもない、社会の敗北者というやつだ。


 食べるものにありつけないこともしばしばあるし、普段食べるものとして上げられる物といえば、雑草か酷いときは段ボールくらい。少なくともここ数年は人間らしい食事をした覚えはない。それくらいに貧乏な男である。


 借金はないが自己破産した故に金も借りられずにいる。人間、社会的地位を失うと何も出来なくなるって実感した。

 こんな俺でも、実はまだ犯罪らしいことは犯してはいない。万引きとか強盗とか、そんな物騒なことを出来る勇気なんて今まで一切湧き出ることはなかった。


 失う物が何もない俺が今まで犯罪に手を染めなかったのは勇気が無かっただけじゃない。今のつらい時期を乗り越えられれば必ず報われる日が来ると心のどこかで信じてたのも一因。

 ……だが、それももう限界にまで達していた。


 ここ数日はろくに物を食べていない。おかげでここまで首の皮一枚で繋がっていた道徳と希望を放棄せざる終えなくなった。

 このままでは餓死してしまう、と。ある日思ったのだ。




 都内某所にて、俺は覚悟を決めることにした。

 もう空腹で死にそうなんだ。道徳やら背徳心やらはどうでも良くなっている。


 相手はすでに決定済み。あの妙に荷物の多い初老らしき男だ。両手に持っている紙袋の絵柄はマンガがアニメのキャラ。このことから察するにあの男はオタクで何かしらのイベントの帰り、あるいは移動中といったところか。


 ……うらやましいものだ。趣味に使える金があるのは裕福の証。今の俺にとっては絶好の獲物だ。

 まずいな、見てたらちょっとだけイラつきと虚しさが沸き起こってきた。これ以上はいけない。すぐに実行に移してさっさと消えよう。


 様子を窺いつつ尾行をしていると、男が公園近くの公衆トイレに入っていくのを目撃。どうやら用を足しに行くらしい。

 ここだ。あそこは人通りは多いが古びた建物の雰囲気から利用する者はごく少ない。あの中で隠密に事を進めればすぐにはバレずに済むだろう。


 どのみち罪を犯すと決めた以上、失敗した時のリスクは覚悟している。恐れることはない、逮捕からの刑務所行き。それもいいじゃないか。

 例え中は寒かろうが外よりはマシだろうし、一日に出る飯も今まで食べてきた物の中では一番美味いはず。失敗しても俺の勝ちみたいなもんだ。


 なるべく自然にトイレに入り、男の位置を確認。少々タイミングを逃したらしく小便器の前から立ち去る寸前だ。

 もうチャンスはここしかない──! 咄嗟にそう思った俺は男の背後に迫る。


 心臓が大きく脈打つ感覚が嫌に分かる。身体の強ばりが全身に走っているのも、今、目の前にある者の存在がどこまでか弱いのかさえも見えていなかった。


 ──その頸を絞める。


「──悪いなじいさん、ちょっとだけ俺の都合に巻き込まれてくんねぇか?」

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