出会いはいつも唐突に

 依頼書に記されていた集合場所は、依頼者の名義から察してた通りレイエックスのギルドだった。

 俺からしてみれば一週間とちょっとぶり。こうして中に入って確認してみても、別にそう変化はない様に見えるけど……。

 まぁ、変化と言える変化というならば、ここに集まってる人たちの多くが別のギルドから召集を受けた人たちだってことくらいか。


「……シンヤ、ここのリーダーが来たぞ」


 と、周囲を見渡していた俺にザインが耳打ちで教えてくれる。

 言われた通り前を向き直すと、一人の男がカウンターの奥からやってきた。マジかよ……、思ったより若いってか俺やザインとほぼ変わらんぞ!?


「皆様、ようこそおいでくださいました。私、レイエックスのギルドリーダーを勤めておりますセヴォル・ウェインと言う者です。この度は総合マスターギルドからのご指命、及び召集に応えていただき誠に感謝申し上げます」


 たまげたなぁ、まさか俺らとほぼ同年代の奴が支部とはいえ大手ギルドのリーダーをしてるとは。まぁ、こっちも他人のことは言えないのだけども。

 しかし、他のギルドから人を集めてまで何をしようというのか。まったく予想がつかないな。


「皆様に集まって頂いたのは他でもありません。最近、我々の活動が低下していると耳に挟んでいるかとは思います。何故そうなってしまったのは今回の依頼と直接関係があるのです」


 ふむ、やっぱりか。ここは予想通りってとこだな。

 活動率が落ちたのは人員過多が原因じゃないってことは薄々感付いてた。外回りや派遣員すら見かけないのだから当たり前か。


「本当は今回の出来事については隠密に済ますつもりではありました。しかし、それが愚策でありました。我々が送り出した討伐部隊の多くは未だに帰ってきていないのです」


 何と……! 派遣隊が帰ってきてないだと!? マジか……。

 ギルドリーダーの告白にホールに集まってる人たちからどよめきが生まれる。そりゃそうなるよな。何せこの町の最高戦力を誇るギルドの討伐専門の部隊が帰ってこないってことは、それほどのレベルを持つ依頼になってる可能性が高い。

 俺ですらそれを理解してるんだから、他の奴らが懸念するのも訳ないことだ。


「我々もこれ以上の被害は頂けません。そこで皆様のご協力を仰ぐことに決定いたしました。何とぞ、ご協力の方をお願い致します」


 最後に深々と一礼をするギルドリーダー。礼儀正しいなぁ。リーダーがこうなのに、何で人員はあんなのばっかりなのやら。

 それはさておき、レイエックスでも手こずる相手に、俺らエヴァーテイルはどこまでやれるかだな。戦力なんて実質ザインだけだし。


「では今から組分けを行います。呼ばれたグループは先遣隊として先に現場へと向かって頂きます。装備に関してはこちらから支給致しますのでご安心ください」


 何やら唐突に組分けとやらを始めた。ギルド名と参加人数を次々と呼んで、先に現場へと行かせる部隊を作るみたいだ。

 ま、ほぼ戦力にならない俺らは除外みたいなもんだろう。装備も貸してくれるっていうから、向かうまでに自分に合った武器でもゆっくり選──


「エヴァーテイル。二名」


 何でだよおおおおおおお!?

 いや何で!? 普通に考えておかしいだろうが! 一体これはどういう基準なんだよ!?

 内心のツッコミも虚しく、俺らは言われた通り前へと進み出る。ちくしょう、人数の少なさも相まって他の人たちからの目線が痛い。


 しかし、本当にこれはどういう基準で選んでるんだ? ギルドリーダーに任命される人物なら多少なり人を見る目があるはず。見るからに戦力不足な俺らを先遣対に選ぶ真意は何だろうか。


 しばらくして組分けは終了。俺らエヴァーテイル含む五組のギルドはミーティングの名目で別の部屋へと移動になった。

 ミーティングに異論は無いが、やっぱり気になるのは設立間もない弱小ギルドを先遣隊に選んだ理由だろうな。


「ザイン。お前はどう思う? 俺らが選ばれた理由」

「……分からん」

「だよな」


 ザインが分からないなら俺が考えても無駄か。それにしてもレイエックスのギルドリーダーはいったい何を考えているのやら。

 またもうしばらく歩くと、第二ホールに到着。ここで先遣隊のミーティングが行われるようだ。


「先遣隊の皆様にやって頂きたいことは三つ。拠点の準備、行方不明のレイエックス派遣隊の捜索、そして今回の目標である謎のモンスターの正確な姿の確認と調査です」

「謎のモンスター?」


 なんだそりゃ? 他の二つはともかくとして、最後の不安要素の塊みたいなことを言うのは止めてくれよ……。ただでさえ戦力に劣るのに。

 他の先輩ギルドらも、最後のミッションに困惑を隠せない様子。まぁ、元々隠密に事を済まそうとしてたんだから、いきなり未知のモンスターの調査をしろなんて言われたら当然困るよな。


「調査と言っても、詳細に調べ上げろとは言いません。少しでも何か分かることがあれば、すぐに戻って報告をしていただければ十分です。なるべく無理はしないようお願いします」


 無理はするなって言われてもなぁ……。俺らのような弱小を先遣隊に採用した人の言う台詞とは思えんな。

 何はともあれ、力のない俺は拠点準備の班に割り当てられるはず。今度こそ正しい選択をしてくれると信じよう。


「では先遣隊の皆様は三日後にここに集合。必要物資はこちら側で用意致しますので、各自必要な物の準備をお願いいたします」


 と最後に説明をされてミーティングは終了。リーダーも戻り、他のギルドもさっさと帰宅の準備をしている。

 周りがそうしてるから、俺たちも帰ろうか。出発は明明後日しあさってとはいえ、なるべく今日の内に必要な物を揃えようか……と考え始めた時だ。


「そこの二人組、ちょいと」


 ん? 誰かに呼び止められた? 声の聞こえた方向を振り向いてみると、そこには軽装甲の装備を着込んだ男。

 ええ……誰? この今すぐにでも討伐依頼に向かえれそうな人は。


「ザイン、この人知ってる?」

「知らん。あんた、何者だ」

「おっと、これは失敬。俺は冒険者のライバン。そちらさん、確かエヴァーテイルってとこの人らだよな?」

「そうだけど……」


 まだ設立から一週間程しか経ってないのに、見知らぬ冒険者に知られる程度までは知名度が上がったのは嬉しい限りである。

 ちなみに冒険者とはギルドなどの組織には属さずに依頼をこなして生計を立てる自由業の人のことを指す。つまり俺らギルドの客に相当する人だ。

 それにしてもこのライバンとかいう男、俺らがエヴァーテイルのギルド員だってことで話しかけてきたようだが、いったい何用だ? 依頼なら直接いけばいいのに。


「それで、何の用だ。依頼なら直接ギルドに行けばいいだろう」

「依頼を受けるつもりじゃないんだ。……いや、少しは合ってるか。とにかく、俺は今そっちのギルドに用事があってね。ちょっと着いて行ってもいいかな?」


 なるほど、依頼を受注する気ではないと。それなのに用事があるか。ふむふむ。


「……ザイン。あの人、めっちゃ怪しくない? どうする?」

「……ああ、同感だ。しかし、用事というのも気になる所だ」


 本人の目の前でササッと身体を縮こめ、あのあからさまに怪しい冒険者をどうするべきかの話し合いを始める。

 いやだって不審者極まれりだもん。事によっては客になるが絶対何か怪しいこと目論んでそうだから、先手は打っておくべきではなかろうか。


「あー、警戒するのはいいけど、本当に怪しい者じゃない。レンズに用があるって言えば少しは警戒は解いてくれるかな?」

「あんた……ギルドリーダーのことを知ってるのか?」

「ちょっと昔な。ってなわけでこの俺を会わせてやってくれないか?」


 なんと、この男は俺らのギルドリーダーの名を出してきた。もしかして知り合い?

 もしそうなら話を聞くだけでもしておくべきか。いやでも、ギルドの要であるレンズさんにもしものことが起きたらと考えたら──


「分かった。レンズの知り合いなら問題ないだろう。好きにするといい」

「えっ、いいの!?」

「やっと信じてもらえたか」


 俺の思案を余所にザインは相手の話を了承した。おいおい、勝手に決めていいのかよ。


「ただし、少しでも変なことをしようものなら覚悟はしておくんだな。場合によっては総合ギルドの世話になってもらう」

「おー、怖い怖い。へへ、安心しろよ」


 そんな脅しに怖じ気付くことなく、ライバンは飄々とした感じで受け流す。こういった言われ方には慣れてるのだろうか?

 ともかく、若干腑に落ちないが謎の冒険者ライバンは俺たちの帰路に同行することに。一体何が目的なのやら。


「戻った」

「お帰りなさい、ザインさんにシンヤさん。……って」

「やあ、久しぶりだな、リアンちゃん。てことで邪魔するぜ」


 偶然にもギルドにいたリアンは、俺たちの後ろから着いてきたライバンを見て挨拶途中に硬直。おまけにライバン自身もリアンに面識がある模様。

 沈黙で静かになる店内。ちょっとー? おーい。


「…………っ!」

「あっ、リアン!?」


 すると、突如として沈黙を破り、駆け足で二階へと駆け上がって行くリアン。急にどうしたんだよ!?

 ……まさかとは思うが、このライバンとかいう男。昔のリアンとレンズさんに何か酷いことをしたのではなかろうか? あの人見知りしないリアンが一目見た瞬間に固まって逃げ出すなんて考えられないし。

 同じことを考えてるのか、ザインも睨みを効かせてライバンを見やる。


「……おいおい、俺は女の子に手を出したことねぇぞ。あっちが過剰反応してるだけだっての」

「悪いが少しばかり信用に欠ける。二人に何をしたか聞かせてもらおうか」

「本当に何もしてないって……」


 ザインの意見に同感である。俺の経験上でも金銭と信用は対人関係に支障を来しやすい要素だと結論は出てるしな。

 もうこれ以上の言い訳も無駄だ。さぁ、お前の罪を数え──


「ライバン!」


 ろ──っと心の中の決め台詞も途中でかき消された。この声はレンズさんか?

 後ろを振り返ってみると案の定階段から降りる途中で止まっているギルドリーダーの姿が。あとその奥にリアンとデュリンも顔をちらっと覗かせてる。


「おお、レンズ! 久しぶりだなー元気してた──」


 と、ライバンは早歩きで俺とザインの拘束を抜け出してリーダーの元へと歩いて行く。対するレンズさんも早歩きで進んで行った次の瞬間、俺は初めてレンズさんの知らない一面を目撃することに。


「かッ……!?」


 正確に顎を打つ拳。からのアッパーカット。あの軽装甲の男が一瞬とはいえ浮き上がる。

 それをくり出したのは見間違えでも錯覚でもなく、まごうことなくレンズさん。天井へ拳を着けんばかりに伸ばしきった腕が何よりの証拠だ。


「申し訳ありませんが、あなたを歓迎することは出来ません。お引き取りください」


 最後に突き放すかのような言葉を床で伸びる冒険者に言い捨て、二階へと戻る。その後ろ姿から怒りが見えるのは言うまででもなかろう。

 ライバン……やっぱり昔に何かしでかしたんだな。あんなギルドリーダーを見るのは初めてだぞ。

 ま、何かする前に鉄槌が下ったのはざまーみろとしか言いようがないな。俺もなるべくリーダーに怒られないようにしようっと。


「ザイン、これどうする?」

「外に出すのが良いんじゃないか」


 うん、満場一致の良案だな。何をしでかした人なのかは分からんが、不吉な物はポイしちゃおうね。

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