アイドルと結婚しようとした男のはなし
美紀竹男
第1話 団体はズルい
「最近のアイドルって、団体ばっかでズルいな」
テレビの歌番組を観ていた子どもたちの横で、真山梅次はそう呟いた。
ジャニーズ、AKBグループ、EXILE TRIBEなどの団体さんが歌番組を席巻し、ワンショットでは出演者全員が入りきらないくらいの出演者数だ。無理に全員を画面に収めた場面が放送されたところで、もはや老眼の始まった梅次には全員同じ格好に見えるのはもちろん、顔の判別などできるわけもない。テレビは4K、8K時代だというのに、大量の出演者で埋められたテレビの画面は、梅次にとって点描画を見てるのとかわらず、逆に解像度が下がったんじゃないかと錯覚してしまう。
梅次は1960年代に生まれ、現在は関西の町で歯科医院を開業している。梅次が父親の後を継いで診療しており、こじんまりとした地元にねざした歯科医院だ。妻との間には、高校一年生の息子と、中学一年生の娘がいる。
「夜ヒットのひな壇やったら、全員のりきれんわ」
「よるひっとって、なんなん?」
「夜のヒットスタジオやん。知らんの!? そら知らんわな、生まれてないし。お父さんの時代にやってた、ミュージックステーションみたいな音楽番組や」
梅次の長男である瑛太郎は高校一年生で、今時の子どもらしく、K-PopやAKBグループの歌を聴いている。平成生まれの彼らにとって、大勢でダンスをしながら歌を歌う(実際に歌ってるのかどうかはしらないが)のは当たり前のことで、梅次の呟きの意図がわからなかった。
「ズルいって、なんでズルいん?」
「アイドルっちゅうのは、一人で頑張るもんやねん。徒党を組んでやるなんてズルいやん。おとうさんの時代は、アイドルはソロが当たり前で、多くても4人までや」
瑛太郎はテレビで歌っている乃木坂46を見ながら、梅次の返答を聞き流した。もっとも、iPadでYouTubeを見ながらテレビも見てたので、乃木坂46すら聞き流してるのだが。
梅次が青春時代を過ごした昭和のアイドル歌手といえば一人売りが大多数で、多くて3~4人グループであった。ところが、おニャン子クラブ以降、モーニング娘。、AKBと、アイドル大量消費時代が到来し、今となっては一人で活動するアイドルは絶滅危惧種となりつつある。グラビアアイドルというジャンルで存在しているものの、歌手としては、どこかのグループに所属していることがテレビに使ってもらえる必須条件のような時代であることは間違いない。
昭和時代のアイドルは、芸能事務所が人材を吟味し、売り出すためのプロジェクトに時間とお金をかけていた。しかし、おニャン子以降は「素人さ」が売りのひとつとなり、猫も杓子もアイドル時代がやってきて、だれもがアイドルになれる可能性が広がったことも、グループが増えた要因の一つであろう。
となりのあの子がアイドルになるのが普通の時代だし、なんなら、ネットを使って自分自身をアイドルとしてプロデュースできる時代だ。
あの頃はよかったなぁ……おじさんとしては、アイドルはソロで頑張ってほしい、そう思ってるのは自分だけなのだろうか⋯⋯そんなことを考えながら、梅次は高校時代の自分を思い出していた。
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