#54 作製方法を議論する


 魔法陣を新たに生み出すことはかなり困難なことであり、それを実現出来る人に会うことすら困難であるので、作製の方向性を変えることにした。


 魔法をシステムとするならば魔結晶はハードであり、そのハードを上手く加工することでシステム面の不都合を補おうということだ。


 ハヤトはどうすべきかのアイデアを固めるも、自分では魔結晶を作ることは出来ないので、急遽エルラーに聖都市まで来てもらい、打ち合わせをすることにした。


■■■


 エルラーはアプレルの町で魔結晶の作製方法について、色々と実験をしていてくれたらしく、幾つかその試作品を見せてくれる。


「色々と試したんだがな、今のところは単一の魔物の魔石で作るのが一番、質が良くなるな」


「へぇー、でもこんなに大きなのは使い道を探せば何とかできそうだけど、小さいのは加工が出来ないだろ」


 魔石一つからつくった魔結晶は、本当に米粒サイズしかない。


「まぁ実験してるだけだからな。お金にならないで費用を食い潰すだけだから、日に日にアダムスの顔が険しくなったが……」


「ハハハ、なら早く魔道具を完成させないとな」


「そうそう、俺を呼び出したということは何かアイデアがあるんだろ?」


「ああ、そうだ。魔法陣を新しく生み出すことが難しいのは分かっていると思うが、それなら複数の魔法陣を組み合わせて一つの魔道具にしようと思うんだ」


「まぁ、確かに組み合わせで再現は可能か……」


 やはりエルラーも複数の魔結晶でかさばることを懸念しているようで、しっくりとは来ていないみたいである。


「問題点は分かっているみたいだけど、単に複数の魔結晶を用意するだけでは持ち運べるようにはならないことで、それは加工を工夫することで何とかしようかと思うんだ」


「工夫って……このでかいやつに何個か魔法陣を刻むのか?」


「いやいやそうでは無いが、それは制御出来るのか?」


「まぁ多分無理だよな……それこそ複雑な魔法陣が必要になりそうだ。なら、一体どうするんだ?」


「魔結晶の形状を変えるんだよ」


「ん? それは……本当に出来るのか?」


「ああ、どうやって加工するかはさておき、砕いた魔結晶も容量が減るだけで十分に機能することは確認したから可能だと思う」


「へぇー、ならどんな形にするんだよ?」


「やっぱり、板状かな。それを重ねていけばいいんじゃないかなと思ってるんだが、どう思う?」


 魔法陣を刻む最小限の面積を持った板で、厚みを限りなく薄くし重ねることで、大きさはかなり小さくすることが出来るはずだ。


「なるほど! 確かにそれならかなり小さくなるな。しかしどうやってその形にしていくかか……」


「ああ、やっぱり難しいよな……ちなみに加工する道具とかないよな?」


「加工って言ってもな……のこぎりで切るつもりか?」


「やっぱりそこに行き着くよな……出来れば、それも自動で回転させるようなやつを作りたいな」


 量産するのであれば手動ではなく、回転のこぎり、それともまた別の方法で自動でカットしていく方法をとりたい。


「まぁ、加工する道具は良いとしても、本当に切断できるかだな。簡単に砕けてしまいそうだし」


 確かに結晶を切断していく過程で、割れて使い物にならなくなってしまえば意味がない。


「ああ、割れないで加工出来るように、どうにかして固いけど柔軟性も持ち合わせた魔結晶を生み出す必要があるから、それをエルラーに頼みたい」


「なんだか剣をつくるのにも似てるな……」


「そうだな、金属の特性を引き出すのも同じなのかもしれないな。とりあえずはその方向性で試作品を作っていってみてくれ」


「そうだな。とりあえずはやってみないことにはどうなるか分からないしな」


「僕は加工装置の方を何とかしてみるから、追加で作って貰いたいものがあればまた連絡するよ」


 魔結晶や装置の部品を試作していくにしても、聖都市で出来ることは限られている。なのでエルラーにはアプレルの町で素材の開発をしてもらい、自分は加工するための装置の機構を考えつつ部品をエルラーに発注していくことにした。


■■■


 刃物はエルラーなら作製出来るとして、まずはどのような装置の機構にするのかを考える。持ち運ぶ予定は無い装置であり小型である必要はないので、まずは魔結晶の量も惜しみ無く使うことにした。


 固定、魔力供給、回転、そして切削粉の処理。これらを軸に機構を考えていく。


 まずは固定だが、これは万力みたいな構造を作りたい。新たに作る魔結晶の形は四角にしたいとエルラーに伝えたので、挟み込んでチャッキング出来る方法でまず思い付いたのが万力だ。

 工業が発展していないので、この世界には無いかとも思ったが、市場を探してみると普通にあった。

 ただ強度や固定するのには不安があるものなので、一つ購入して機構を調べ、より強度の高い素材を使ってエルラーに作ってもらうことにした。


 次に魔力供給だが、これはウェルギリウスの家で見せて貰ったミスリルの配線を用いることにする。まだバッテリーで装置を制御することは怖いので、安全性を考慮してだ。

 しかしバッテリーで供給量を制御出来るようになれば、そちらの方が動作が安定するので切り替えも考慮する予定である。


 そして肝心の回転機構だが、のこぎりのような刃物を押し当てるだけであれば一つの回転機構で問題ない。しかし今回作りたいのはワイヤーソーだ。

 切削物より固いワイヤーを回転させながら押し当てて切断する機構を作り出す為に、二つの回転機構を用意する。またワイヤーを往復させる為に回転する方向は逆にし、交互に動かす為にも魔力の供給回路も別々に用意することにした。

 あとはワイヤーを万力で固定された魔結晶に押し当てていく移動機構も追加すれば切削機能としては完成である。

 この移動も自動化しようと思ったが魔力の供給量が過多になりそうなので、万力と同じように手回しで移動する機構を作ることにした。


 最後に装置に加えるのは、削ったら必ずでる切削粉の処理方法だ。

 そのまま放置すると加工精度にも影響するので、放っておくことは出来ないし、出来れば切削粉も魔結晶の一部なので回収して再利用したい。

 そこで付け加えたのは、聖水を噴出させる機構だ。これならば下受け皿で後程回収し、再び魔結晶にすることも容易に出来る。


 以上の機構を全て取り付けた装置を作り上げていくのだが、流石に工房室で作り上げるには手狭になるので、新たに生産室として部屋を用意してもらう。


 魔力を使用しなければいけない大がかりの魔道具であり、この世界のだれも作ったことがない秘密の塊でもあるので、関係者以外が立ち入れない場所を欲していると、借りたこの建物にはウェルギリウスが秘密の地下室を用意してあるとのことなのでそこを利用した。緊急時に隠れる時や機密な話をする時の為に用意した部屋なのだそうだ。



 追加でエルラーに幾つか作って貰う物をヒソネを通じて連絡をとり、後は組み合わせて完成を待つばかりとなった。

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