#10 魔結晶での魔道具作製


 ハヤトとエルラーは小さな魔石を使って魔結晶を作製したのだが、本当にこれで魔道具に使用することが出来るか、さっそく試してみることにした。


■■■


「まずはこの結晶に文字を刻めるかですね」


「それは錬金スキルが高いハヤトがやってくれ、別に失敗しても次を考えればいいだけなんだから」


「分かった。それで何を刻めばいいかな?」


 今ハヤトが作れるのは一文字を刻んだ照明だけだ。だがせっかく魔結晶を作ったのだから、照明をつくっても意味がない。


「ならせっかくだしこの剣に嵌めるやつにしたいな。だからそうだな……よし、この文字を刻んでくれ」


 複雑な魔法を付与するのであればしっかりとした陣にする必要があるのだが、そんな複雑なものは魔導師でないこの場の三人には分からないので、簡単な発火するだけの文字を書くことになった。


「ならいくぞ」


 エルラーの方を見ると頷き返してくれたので、ハヤトはミノを使って一文字ずつ慎重に刻む。

 魔結晶がただの結晶だったり、錬金スキルが低いのであれば一瞬で砕けてしまうのだろうが、ヒビも入ることなく問題なく刻むことが出来た。


「で……出来た!」


 ガッツポーズをして喜びたい所だが、せっかく作った魔結晶を落としてしまうのが怖いので、目線をエルラーに向けて喜びを伝えるにとどめた。


「よし! これを剣に嵌め込むと魔剣になるんだが……いやちょっと待っていてくれ、剣に開けた穴を調整してくる」


 剣の穴を魔結晶に合うよう調整することになったが、ここからは鍜冶師の本領を発揮して貰う所でハヤトは口を挟むことは出来ない。

 しばらくはエルラーの調整を見守ることにした。


■■■


「出来たぞ!」


 エルラーの手元には剣の根元付近に赤い魔石が嵌まった魔剣が完成している。


「これが魔剣……なんだか纏っている雰囲気が変わった気がするんだけど」


「ああ俺もそう思う。これは間違いなく成功しているはずだ!」


「なら早速使って見てくれないか?」


 自分で使えるのであれば試してみたいが、魔力を扱えないハヤトでは使用することが出来ないのでエルラーに頼む。


「そうだな、ちょっと離れていてくれ」


 ハヤトとヒソネが離れるとエルラーが剣を構え、魔力を込める。すると炎が剣を覆い、見事に魔法の発動に成功した。


「凄い! こんなに綺麗なんだな、魔法でつくられた炎は」


「いや、これは普通より安定しているし綺麗じゃないかな。結晶化することで魔法の発動が安定的になっているのかもしれない」


「ということは成功どころか……」


「ああ、大成功だよ。まだまだ改善しないと駄目だけどこれを量産出来るようになったら歴史が変わるぞ」


「マジかよ。ならこれを売りに出せば一気に赤字解消どころか大金持ち?」


「ああ、より性能を高めたら間違いなくな。このレベルだったらハヤトが持ってる聖剣の方が性能は上だし、今ある魔道具でも性能が上のやつは一杯ある。安い魔石でつくってるから値段では勝ってるがそれだけではな。たぶんもっと魔石の素材にこだわったりしたら劇的に変わると思うが……」


「結局そこに戻るんだな……。でもこれならアダムスさんもお金を出してくれるんじゃないかな?」


「どうかな、あの銭ゲバ野郎のことだからわからんぞ」


「誰が銭ゲバだ」


 いつの間にかアダムスが後ろにいて拳骨される。


「なんで僕まで!」


「どうせお前らは共犯だろう。それよりヒソネから完成したと聞いたんだが」


 そういえばいつの間にかいなくなっていたヒソネが、アダムスに報告しに行ってたらしい。


「これです。見てください」


 ということでエルラーが再度、剣に炎を纏わせる。


「ほう、ここまでとは。これは確かに凄いですね」


「でしょう? ならもっと良いものを作るためにお金を出してください! 魔石の質を上げてみたいんです」


「まぁ出したいのは山々ですがね、もう本当にお金が無いんですよ。なのでハヤトさんが稼いで下さい」


「それはどういう?」


「ハヤトさんの持つスキルの能力は眠らせておくには勿体無いですからね。他の直ぐにでも商品に出来るものを作ってもらいたいのですよ」


「そうですか……それは別にいいんですけど、魔道具はどうするんですか?」


「今後の試作でより改善は見込めますが今のままでは世に出せるレベルではないですから、一旦保留にしましょう。中途半端なモノを出しても注目は浴びないですかね。既存の魔道具よりも性能が良くて、なおかつ安いという武器が揃えられるまでは我慢です」


「分かりました。でも研究は続けていいんですよね?」


「もちろん。それはエルラーがやってくれるから、ハヤトさんはまずはお金を稼いで下さい」


「ああこっちでいろいろと魔結晶をもっと上手く作れないか実験しておくから、しっかりとお金を稼いでくれ!」


「分かりました」


 こうして初めての魔道具作りは心半ばで途中止めになってしまった。だが他の商品でお金を稼いで必ず再度取り組むんだと心に刻むハヤトであった。



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表―――――――――――――――――――

名前:[サトウハヤト]

ランク:[G]

称号:[初心者冒険者]

所属:[リンクス]

――――――――――――――――――――


裏―――――――――――――――――――

ステータス

状態:[異常無し]

能力:[体力E][魔力―]

スキル:[職人の心得EX][解体B][加工B][錬金B]

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