#1 異世界召喚


 どこにでもいるようなメガネな中学生である佐藤隼人は交通事故に巻き込まれてしまう。


 雨の日の飲酒運転の車によるひき逃げで、妙に意識ははっきりしているのに冷たくなる体は動かない。


 そして遠くで響くサイレンの音を聞きながら、目の前が真っ白になった。


■■■


 気が付くとそこはただ真っ白な空間だった。影すらも無い。


 いきなり霧に包まれた訳では無いだろう。


 そして先程まで動かす事の出来なかった体は五体満足で、怪我無く自由に動かすことができる。


 訳もわからず辺りを見渡すが、どこまでも真っ白で何も見つけることが出来ない。


 どう考えても現実離れしている状況に頭は混乱するが、これはもしやと思っているも案の定話しかけてくれる。


『はじめましてなんだけど、君は妙に落ち着いてるね?』


 頭に直接話しかけられているようで、周りを見ても姿を確認することは出来ないが返答をする。


「いえあまりにもな状況なので混乱しているだけですが、あなたはもしかして」


『そうだね、君の予想通り僕は神様だよ!』


「やはり……ではこの状況はもしかして?」


 現実は小説よりも奇なりとは良く言ったものだ。ここでの出来事は想像以上におかしな状況と感覚なのだが、それでも本で似た話を知っていると想像が出来る。


『そうだね。僕は君をここに召喚させてもらったよ。そして…』


 ということで神様がいろいろな話をしてくれた。


■■■


「つまり僕を異世界に召喚もしくは転生させて、魔王を討伐して欲しいということですか?」


『そうそう、そんな感じだね。理解が早くて助かるよ。それで魔王を倒したら願い事を叶えてあげるからね』


 話していて思うのだが、この神様はいささか応対が軽いので本当に神様だと信用して大丈夫なのだろうか?


『君、今失礼なことを考えてるね?』


「……すみません」


『まぁ信じるも信じないも自由だけどね。それに異世界に行くことを強制はしないよ』


「強制はしないと言っても転生させると記憶は無くなるんだから、どうとでもなりますよね?」


 魂の総量バランスを取りたいという話などもしていたので、ここに呼び出した時点で自ずから進んで転移するか及び腰で知らず知らず転生させられるかだろう。


『鋭い指摘だね。確かにそうなるのかな』


「誤魔化したりはしないんですね」


『まぁ少し考えれば分かることだからね。ここに呼び出すのも楽じゃないんだよ。それに君なら分かってくれそうだしね』


「まぁ確かに転移して異世界をこの目で見てみたいですからね」


 口で何を言おうとも、ワクワクする気持ちは隠せない。


『ありがとう。君ならそう言ってくれると思ったよ!』


 転移することを了承すると目の前に剣が現れる。


「これは?」


『その剣は聖剣だよ。おまけみたいなモノだけど、転移する君への僕からのささやかなプレゼントだね』


「他に異世界に行ったらパワーアップするとかは無いんですか?」


 聖剣があれば魔物を倒すのに役立つので有難いが、それだけでいきなり戦いに赴くことになるというのは不安だ。

 出来ればチート主人公として、現地人を遥かに上回る力を得て無双状態になりたい。だがさすがにそこまでのものは無いらしい。


『聖剣を持つことである程度は僕の加護で補正がかかるんだけど、あとはユニークスキルをあげるよ』


「ユニークスキルですか?」


『そう、ユニークスキル。転移で異世界に行くと、どうしても魔法を満足に使えないからその代わりだね』


 スキルは魔力を扱えない転移者でも扱える魔法っぽいもので、シックスセンスに近いものらしい。その中でユニークスキルは他の人が取得することが出来ない、その人もしくは種族限定のスキルらしい。


「ユニークスキルは選べないんですか?」


『流石にそれはランダムだね。でも君にピッタリなスキルが選ばれるはずだよ』


「そうなんですね。……分かりました、頑張って魔王を倒して元の世界に戻ってみせますよ!」


『うん、君の働きに期待してるよ!』


 このやり取りを終えると再び視界が失われ、異世界に召喚されるのであった。

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