#2 召還されし勇者なんだけど……


 佐藤隼人は神との邂逅を経て異世界に召喚され、再度意識を取り戻すとそこは古い建物の中だった。


「ここは……」


「おお、本当に召喚することが出来たぞ!」


 言葉は認識できるようにしてくれているようで安心するが、目につく文字は読むことが出来ないみたいなので異世界であることは認識できる。

 そして周りを見渡すとローブを着た人達が立ってどよめいているがどう見ても勇者を召喚するような人達とは思えない。場所もそうだが服装もどこか安物に感じる。

 勇者を召喚するのは国などによるものなのでは無いのだろうか?


「貴方達は一体? そしてここは?」


 ハヤトの疑問に対し代表して男が一人前に出て来て答えてくれる。


「勇者様をこのような場所に召喚し申し訳ございません。私はアダムスといいます。そしてここはラーカス商会の倉庫です。失礼ですがまずはお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」


「ええ僕は佐藤隼人です。それでなぜ商会が召喚なんて……」


「ハヤト様ですね。我々が召喚を行った理由は、我々が今置かれている状況から説明する必要ますね……」


 ということでなぜラーカス商会が勇者を召喚しようとしたのか説明して貰った。


■■■


 過去の召喚勇者であるユウキが長期に渡って人間に脅威をもたらした魔王を倒すことに成功したのだが、現状は蔓延る魔物によって傷付いた商業網は分断されたまま復興することがままならないそうだ。


 それは本来は魔王を倒した勇者が魔物に対する楔となり勇気の象徴として残党狩りが行われるはずなのだが、魔王との相討ちという悲劇により復興がままならなかったらしい。


 そのために商品の輸送を行うにも護衛の冒険者が必要で、魔王討伐で状況が改善することを期待して商品を用意したものの安易に売ることが出来ず、赤字を抱えて廃業寸前に追い込まれているとのことだ。


「つまりこの商会は廃業寸前の危機的状況に瀕しているということですか……」


「そうです。この状況を打破すべく僅かな可能性に掛けて勇者を召還したのですが……まさか成功するとは思いませんでしたよ」


「不思議なのはそこですよ。勇者の召喚って普通の商会でも出来るようなモノなのですか?」


「普通は我々のような者はその方法を知りませんし、他で挑戦したという話を聞いても失敗しているそうなのですが我々は運が良かったのでしょう」


 話を聞くとたまたま知り合うことが出来た国のお抱えの魔術師に方法を教えてもらうことができたそうだ。

 そして召喚には魔物を倒した時に得ることが出来る魔石を精製し、出来上がった魔結晶を使うのだが、その質と純度によって成功率が変わるらしい。

 成功率を高めるためにランクの高い魔物から得られる魔石を使用する必用があるので普通は国家レベルでの準備が必要となるのだが、ラーカス商会では売れ残りの魔石を使って成功させ召喚されたのがハヤトであったとのことだ。


「そんなのって……ありなのですか?」


「現にこうして召喚出来ましたからね。二度と同じことは出来ないでしょうが、ありなのでしょう」


 そんな売れ残りで召喚されたなど、『魔王を倒すぞ!』と息巻いていたのになんだか恥ずかしいではないか。それに商会に呼び出された勇者が本当に魔王討伐に行けるのか?


 まさかな召喚先だったので、出だしからいきなり不安になる隼人であったが、ささやかな歓迎を受けながらこの世界について話を聞いて数日を過ごすのであった。

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