#3 勇者補正、はぁ何それ美味しいの?


 地方の極貧商会で潰れかけのラーカス商会に召喚されるという、ハヤトにとってまさかのスタートだったのだが彼には聖剣がある。

 ユニークスキルもあるはずなのだがそれがまだ何なのか分からないので、とりあえずは聖剣を使って戦うことで勇者として成り上がれば良いだけの話だ。

 実績を残せば、ゆくゆくは国のお抱え勇者として富と名声を得られるはず、と意気揚々と初めての護衛任務につく。


■■■


「はぁはぁ、何でだ!」


 商品の輸送中に現れたのはDランクの魔物であるワーウルフ。二足歩行の人型の狼で初めて戦う相手としては申し分のない相手だ。

 なので『ここから俺の勇者伝説が始まるんだ!』と意気揚々と斬りかかったのだが、全く攻撃が当たらない。


「ハヤトさん、本気で戦っているのですか?」


 アダムスが呆れた様子で尋ねてくる。


 それもそのはず攻撃がワーウルフに当たるどころか、大振りしているので木に剣が食い込んで抜けなくなったり遠心力で振り回されるわで戦いになっていないのだ。


「あいつ……強いな」


「いやいやいや。いやいやいや。まさかまさかのハヤト様は運動音痴なので?」


「何を言ってるんですか。今に見ていてくださいよ、僕の剣であのワーウルフを一刀両断にしてみせますから!」


 イメージではこんなはずではなかった。聖剣の加護もあって体の動きは軽いので、気持ちでは何でも出来るような気がするのだ。

 そして再びワーウルフに向かって駆け出すのだが、木の根っこに躓いて転けてしまう。

 慌てて立ち上がろうとするも、ワーウルフが襲い掛かってくる。


 『殺られる!』と思うも、アダムスたち商人が何やらアイテムを使ってくれてワーウルフを追い払ってくれた。


「……すみません。所でそれは何ですか?」


 勇者なのに商人に助けられるという悔しい気持ちよりもそのアイテムに興味が移る。


「ああこれですか? これは魔道具といって魔石を用いた記憶魔法を使用するアイテムですね。それに薬玉で嗅覚の鋭い魔物が嫌がる臭いを発して追い払ったのです。これもタダではないのですが……」


「そんな便利なモノがあるんですか!」


 全く戦えなかったことで呆れ顔で話されるも、そんなことが気にならないぐらい見せて貰った魔道具に興味津々で夢中になる。


「緊急時にしか使えないぐらい高いのですよ、便利でも何でもない。それよりここから隣町までの護衛をしっかり頼みますよ」


「はぁい……」


 心ここにあらずの返事をするも、その後の護衛は何とか乗り切った。というよりも薬玉の効果で嗅覚の鋭い魔物は現れず、スライムぐらいしか出て来なかったので何とかなったのだ。


 こうして初めての魔物との戦う仕事は役立たずのまま終わったのであった。

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