#4 適正を知る


 商会の護衛のために召喚されたのに、全く戦えず『運動音痴』とまで言われてしまった。

 戦えないという現実に落ち込むのだが、それでも商会の仕事をするアダムスに付いて色々な場所を見て回るのは楽しい。


■■■


 アダムスと一緒に次々とお店を回って商品の取引を行っていく。今もアダムスが商店の人間と取引を行っている。


「この商品なのですが如何でしょうか?」


「一ついくらなんだい?」


「銀貨5枚です」


「うーん、ちなみにどれくらい在庫はあるんだ?」


「そうですね、116個ですね。全てお買い上げ頂けるのであれば金貨1枚分はサービスしますよ」


「……なら全部を貰おうかな」


「でしたら……ええっと」


「銀貨580枚ですね。金貨を使うと金貨58枚で、割引すると金貨57枚ですよ」


 計算に戸惑っているようだったので教えてあげたのだが、驚いたようにこちらを見られる。


「今の一瞬で計算を?」


「まぁ、掛け算ぐらい簡単にできますよ」


「掛け算ですか……確かに勇者の多くは教養があると聞いていましたがこれほどとは」


 こんな簡単なことなのにここまで驚かれるとは、魔物の脅威の影響か教養レベルも低くなっているのかもしれない。

 まぁ普通の教養より魔物と戦う術を重点的に教えるようになっていてもおかしくはない。


 魔物との戦闘で役に立たなかったことを取り戻すべく、その後も取引を手伝うことにした。


■■■


 いつもよりスムーズに取引を終えることができたアダムスは機嫌が良さそうだ。


「ハヤトさん、ここの村の売上記録を更新できたよ!」


「そうですか、それは良かったです。ちなみに仕入れとかはしないんですか?」


「ここの村の特産は他の者が少しだけ仕入れていますよ」


「でもざっと見回っただけでもいろいろと、ラーカス商会で取り扱ってる商品より安いものがあったぞ?」


「それは土地柄というやつですね。ですがそれをここで仕入れて、我々の住んでるアプレルの町に運ぶには輸送費が馬鹿にならないのですよ。もしハヤトさんが役に立てばね……」


 隼人が魔物との戦いで役に立たなかったことを思い出されてアダムスの顔が暗くなる。


「まぁまぁ、その分も他で働きますからね……」


「そうですね。ハヤトさんは戦うことより我々の商売を手伝って貰った方が良さそうですね」


「そうだ、そういえばユニークスキルというのがあるらしいのだけど、それが何なのか知る方法はないかな?」


「そうでしたね忘れてましたがまだハヤトさんはギルド登録していませんでしたね。アプレルに戻ったら登録をしましょう」


「それって結構重要なことなのに忘れてたって……まぁお願いします」


 ギルドに登録するのを忘れられていたみたいなので、拠点の町に戻って登録することになった。


■■■


 ハヤトはアダムスの引率のもとラーカス商会が拠点にしている町にある商業ギルド[リンクス]にやって来た。


 ギルド[リンクス]はラーカス商会が懇意にしている商会らしく素材を優先的に売ってもらえて、素材を加工したアイテムの買い取りを行ってもらっているらしい。

 早速ギルドへの登録を行って貰う。登録作業は魔道具を使ったものらしく、体が読み取られるなどするのだが、あっという間に完了した。


「こちらがハヤト様のギルドカードになります」



表―――――――――――――――――――

名前:[サトウハヤト]

ランク:[G]

称号:[初心者冒険者]

所属:[リンクス]

――――――――――――――――――――


裏―――――――――――――――――――

ステータス

状態:[異常無し]

能力:[体力F][魔力―]

スキル:[職人の心得EX]

――――――――――――――――――――


「これがギルドカードですか、体力がFって……」


「普通の人の平均はEぐらいなのですが、やはりハヤトさんは低めですね。それに魔法が使えないということは魔力の表示も無いのでは?」


「そうですね……。でもスキルがEXになっていますよ」


「それは……本当にハヤトさんは召喚勇者だったんですね。もう最近は騙されてるんではないかと思っていましたよ。それでどんなスキルなのですか?」


「えっと[職人の心得]ですね。これが何なのか分かりますか?」


「いや、初めて聞くスキルですね。特別なものということは分かりますが、やはり戦闘には役に立たなさそうですね……」


「まぁそれはもう忘れましょうよ……。でもどんなスキルか気になるのでラーカス商会に帰ってから色々と試してみましょうよ」


「そうですね。役に立つものであることを願っていますよ」


 期待されていた魔物からの護衛に役に立てなかったのでだんだんと勇者扱いされなくなったが、このユニークスキルで役に立てなければさらに立つ瀬が無い。特別な力が自分にある可能性に期待をするハヤトであった。

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