第10章 商品開発

#51 対策


 聖都市でのプレオープンを終えて様々な問題点が見えてきた。


 まずは噂が先行したおかげもあって、商品に想定以上の需要があったことだ。

 初日に店員が慌ててしまうことは折り込み済みだが、確保できる納入量を越える売れ行きになることは想定外だ。

 人数制限、短縮した営業時間、購入制限を掛けて売れ切れるのだから普通に開店した先が思いやられる。


 そして今後のことを考えると他では買うことが出来ない商品を作る必要もある。

 現状のままでは大手の商会に負けるので、聖都市で生き残ることは難しいのだ。


 決めておかなくてはいけないことが多いのでヒソネと共にプレオープンの結果を踏まえつつ、今後について話し合うことにした。


■■■


 プレオープンを数日間に渡って行った結果を受けてヒソネと会議する。


「これは良くないですね、このままでは通常営業をしたら商品が無くなってしまい、品揃えが悪いという悪評に繋がるかもしれません」


 プレオープンを無事に終えることが出来たことは良かったのだが、アパレルの町にあるラーカス商会の本店から毎日のように商品を補充したにも関わらず商品はほとんど売れ切れてしまった。そして残った商品もどこででも買うことができる商品でしかない。


「人気であることは良いことですが、このままでは通常の運営ではなく、あおり商法になってしまいますよね」


「あおり商法とはなんですか?」


「ここでしか買えないとかでプレミア感を出して買わないといけない気にさせることですよ。みんな限定品が好きでしょ?」


「ああ、そういうことですか……たしかに既に転売されているみたいですしね」


「既にそんなことに……というよりそれは何か法的に大丈夫なのですか?」


「まぁ安い場所で商品を買って高く売れる場所で売るのは商売の基本でもありますからね。うちからクレームを入れることは出来なくは無いですが……」


「まぁ片っ端から口を出す暇は無いのでいたちごっこですね……それに軋轢が生まれそうですよね」


「そこなんです、まさに商業ギルドからも相談を受けていて。本店の方でも他の店の利益を圧迫しているみたいなんですよね……」


「それは宜しくない事態ですね。自分達だけでは出来ることは限られるので、出来るだけ他の商会とも仲良くしておきたいですし」


「そうですよね。ハヤトさんは何か良い解決策を知らないですか?」


「知らないですけど、そうですね……」


 商品の品薄、他の商会との軋轢。

 そのどちらも今後の健全な自分達お店の運営には障害となる。一度にどちらも解決してしまうようなアイデアを考え出さなければいけない。


「うーん一つだけアイデアを思い付いたのですが、例えばなので怒らないで聞いてくれますか?」


「いいですよ、教えて下さい」


「絶対に絶対に怒らないでくださいよ?」


「しつこいです、はやく教えて下さい」


「じゃ、じゃあ言いますね……うちの商会しか知らない丸薬と軟膏の回復薬の作り方を他の商会に教えてしまうのはどうですか?」


「…………本気で言ってるのですか?」


「ほら怒った!」


「そりゃ怒るでしょ! 自ら利益の柱を捨ててしまうと言ってるのですから!」


「まぁ確かに目先の利益は減りますよ。ですが何れは他の商会でも作り方を見つけ出せば作れるものですし、一度世に出た商品は真似されるのは世の常なので、遅かれ早かれですよ」


「……言いたいことは分からなくはないですが、それを何故自ら明かしてしまわなくてはいけないのですか?」


「そこはまさにギブアンドテイクです」


「言ってる意味が分からないのですが……」


「えっとですね、要はアプレルの町を拠点にしている他の商会に作り方を教えるから、作った商品をラーカス商会で独占的に買いとらせて貰うんです」


 あくまでも作り方を教えるのはアプレルの町にあるお店だけにして、回復薬をアプレルの町の特産品にすることで、本店周辺の軋轢を回避させることが出来る。

 そして聖都市での需要は高いまま供給量も増やすことも出来るという一石二鳥な解決策だ。


「確かにそれだと、色々と解決しそうですね」


「でしょ?」


「でも一度情報を広げてしまうと、どこからか漏れて直ぐに他の大手の商会に伝わりますよ?」


「まぁそれこそいずれは避けられないことですよ。でも確かに大手に真似されたら資本力の差で負けてしまいますからね…………それでは材料準備を他の商会に依頼するのはどうですか?」


「まぁそれなら他の商会にお金が入りますから、軋轢は多少は解消されるかもしれませんが供給量は増やせませんよ?」


 確かに幾ら素材をかき集めたとしても、それを回復薬に変える錬金作業が出来る人員も必要だ。

 しかし小さな商会であるラーカス商会だけで、人数を揃えるには限界がある。


「まぁやはり他の商会に作って貰うことにしますかね。結局は損するのは僕たちだけではなくバラしてしまった他の商会も利益が下がるのですしね」


 あんまり下請けのようなことだけをさせるのは印象が良くないので、更なる軋轢を生みかねない。

 利益を搾取していると言われれば、もっと大きな軋轢を生みかねないのだ。


「まぁ確かにそうするのが一番ですかね。他の商会との取り決めは商会長に任せるとして、やはり、よりラーカス商会にしか作れない商品を急いで作り上げましょう」


 もし回復薬が他の大手の商会に真似されると、うちの強みは量産剣しか無くなる。

 あくまで量産剣は安くて質が良いだけであり、もっとお金を払って作った剣には質で劣っているのだ。

 とはいっても魔剣を量産するほどの財力はラーカス商会には無いし、それを必要としている人たちへの販路も確保出来ていない。


 聖騎士団に売り込むことも出来なくは無いが、武器は騎士の生命線でもあり、その納入は実績のある大手の商会が担っている。それを押し退けていくには、相応の覚悟が必要である。

 まだ聖都市で商売を始めたばかりのラーカス商会にとっては、他の商会と出来るだけ争い事は避けたい。


 価格競争などを仕掛けられるだけならば良いが、直接的な被害が及ぼされることも十分に考えられる。


「まぁ、まずは自分達に出来ることが何か考えましょうか」


「そうですね。ではアダムスさんに色々と連絡したり事務処理を行いますので、ハヤトさんは商品開発をお願いしますね」



 こうして商品の確保はアプレルの町にいるアダムスに丸投げしつつ、今後、成功するかどうかを左右する新商品作りが始まったのであった。

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