#48 孤児院


 道端で拾った子供はヴェルズと言う名前なのだが、名前を聞いた後にぐったりとして気を失ってしまった。

 とりあえずはお店探しは中断し、亜人とバレて迷惑を掛けないようにフードを深く被せ移動する。そしてギルドで亜人を受け付けてくれそうな孤児院を教えて貰った。あくまでも噂であって本当に預かってもらえるかは分からないそうだ。

 ギルドの案内人はなるべく関わりたくないということで別れ、ハヤトとヒソネ、ヴェルズの三人で孤児院に向うことになった。


■■■


 孤児院へ到着し事情を説明するも、にべなく断られてしまう。そして亜人を受け入れる場所は聖都市には無いと言われてしまった。

 どういうことなのか分からず孤児院の前で途方にくれていると、突如お爺さんに話しかけられる。


「お前さん達、こんな所でどうしたんだい?」


「えっと……」


「その子供は……そうじゃな、こんな場所では話せんこともあるわな。なんだ場所を移そうか」


 亜人を連れてきて断られたことを伝えてよいのか悩んでいると、背負われたヴェルズを見て察してくれたのか場所を移してお爺さんの家で話をすることになった。道中に話を聞こうとするも答えてもらえないので不安になるが、着いていくしか他に出来ることも無いので着いていく。


■■■


 案内された家の中に入るとようやくお爺さんが口を開く。


「その背中の子供は亜人なのかい?」


 やはり亜人の子供であることに気づいていたみたいだ。なのでフードを外して素直に話す。


「ええ道端でぐったりとしているところに出会って、ヴェルズという名前までは聞けたのですが直ぐに気を失ったので詳しくはわかりません」


「そうか……とりあえずは奥の部屋で寝かせておきなさい」


「いいんですか?」


「勿論だとも。困っている子供を助けない理由など無い。むしろ先ほどはすまなかったのう」


「えっとどういうことですか?」


 感謝こそすれど謝られるようなことをされた記憶はない。


「ああ知らなかったのか。私はウェルギリウスという者でな、あそこの孤児院は私が運営しているのじゃよ」


「ええ!? そうだったんですか……ならなぜ先ほど断ったのですか?」


「先ほども孤児院の職員に言われたと思うが、表だって受けいると何かと矢面に立たされて厄介事に巻き込まれるからのう。こうして別口から受け入れておるのじゃ」


 話を聞くにこのお爺さんは身寄りの無い子供をずっと支援しているそうで有名なのだそうだ。そして亜人の子供も分け隔てなく預かっていたのだが、何かとトラブルに巻き込まれた為に表向きには亜人を受け付けていないことにしたそうだ。


「その預かった子供達は今どこにいるんですか?」


「この街で亜人の子供を育て続けるのは大変でな。ある伝を頼って定期的に他の町に移しておるのじゃよ。それまでは孤児院で匿っておるのだが見ていくかね?」


「そうですね、お願いします」


 ということで改めて孤児院に移動するが表から入るのではなく、人目の無い裏口に回り中に入る。

 中では普通の子供達が遊んでおり、至って普通の孤児院である。


「おにいちゃんはだあれ?」


「この人はな、この子供を救ってくれたんだよ」


 ウェルギリウスがハヤトの背中に背負われているヴェルズのフードをはがし子供に見せる。


「わぁモフモフだ!」


「ちょっ、子供に見せていいんですか?」


 その様子を見ていたエルラーが尋ねる。


「いいとも、ここの子供達は普段から亜人の子供達とも遊んでおるから心配ないさ」


「そうですか……」


「ちょっと、後ろで見てないで助けて!」


 亜人の子供がいると分かった子供達が群がってきて、ハヤトも巻き添えに触られまくられる。口や髪をを引っ張られ無茶苦茶である。それでもヴェルズには優しく触っているので、盛大に弄られているのは自分だけなのだが。


「まぁいいのではないですか? 子供達の遊び相手になってあげたら」


「そんな!」


「おにいちゃん、遊んでくれるの!?」


 子供の無垢な目で見られると断りづらい。


「分かったよ、そのかわりさっき無茶苦茶してきた奴ら覚悟しろよ!」


「きゃー!」


 一斉に子供達が逃げ出すので、ヴェルズをおろして追いかける。そして気がすむまで遊んであげることにした。


■■■


「ぎ……ぎぶ」


 ハヤトは子供達に馬乗りになられて潰されている。イタズラをやり返すどころか、子供達に翻弄されっぱなしである。


「そうですね。君たちそろそろ終わりにしなさい」


「えーまだあそびたらないよ!」


「お兄さんはもう限界だから許して!」


「しょえがねぇなハヤトは、ならまたここにあそびにこいよ」


「わかった、わかった」


 いつの間にか呼び捨てされるようになってしまったが怒る気力は無く、ようやく解放してもらえたハヤトは安堵する。


「すみませんねハヤトさん。なかなか大人と遊べる機会が無いものですから、はしゃいじゃってるんですよ」


「はは、大丈夫です。それに今度この街にお店を出す予定なので、その時はまた顔を出しますよ」


「ほう、そうでしたか。ちなみに何のお店ですかな?」


「ラーカス商会をご存知ですか? その支店をこの聖都市に開こうと」


「ほうラーカス商会とな!」


「知っているんですか?」


「ええ、何を隠そう先ほどの話で出てきた伝でここにやってくる人物が話してくれたのですよ。面白い奴がラーカス商会にいて剣をつくって貰ったと」


「まさかその人ってアトゥムスさんではないですか?」


「何ですと! まさか聖騎士団員とも知り合いだったとわ。まさにそのアトゥムス殿に子供を安全な別の街の施設に移動して貰っているのですよ」


 話を聞くに昔から聖都市でも闇取引で亜人の子供が入ってくることがあるが、病気や怪我などの理由などで捨てられることもあるそうだ。その子供達をなんとか救えないかと亜人の子供も含めて預かり始めた頃、亜人を蔑む人達とのトラブルにあったのだが、その際に手を差しのべてくれたのがアトゥムスなのだそうだ。


「へぇー、アトゥムスさんはそんなこともしていたのですね」


 掴みどころの無い人ではあったが、裏では色々と良いことを行っているみたいだ。


「ええ、立派な方です。それにしてもアトゥムス殿とお知り合いなのでしたらますますお店にお伺いしないといけませんな。是非お店の場所を教えて頂きたい」


「それがですね……」


 先ほどまでお店を開く場所を探しているも、良い場所を見つけられなかったことを話す。


「それでしたら差し出がましいかもしれませんが、私の所有している物件は如何ですかな? たまにアトゥムス殿と話ごとをする際に使っているだけなので綺麗なものですぞ?」


「へぇー、それは嬉しいお話ですね。一度見させて貰えますか?」


「勿論ですとも」


 ということで、その建物の場所へ案内して貰った。


■■■


「ここは……まさか!」


 案内してくれた建物はまさかの無茶苦茶なオーナーの建物であった。


「本当にいいんですかここを借りても? 借りようとしても門前払いされると聞いているのですが」


「既にその話をご存知でしたか。あれはアトゥムス殿との打ち合わせでここを使用するので、貸すつもりがないからそうしているだけですよ。とはいえ空き家を放置しているだけでは怪しまれるので借り手を探している風に装っているのです」


「なるほど……ですが賃料は高いのでは?」


「いえアトゥムス殿とお知り合いなだけでなく、亜人の子供を分け隔てなく接してくれるあなたであればお金は問題ではないですよ」


「ではおいくらぐらいですか?」


 賃料が高ければそれだけ月の売り上げを伸ばさなくてはいけないので重要な話なのでしっかりと確認する。


「そうですな……ではあなたが毎日とは言いませんがうちの子供達と遊んでくれるというのはどうですかな?」


「それは……逆に大変では?」


 振り向いて、どうしようかとヒソネに確認する。


「それでお願いします! 毎日でもいくらでも使ってあげてください」


「ちょっヒソネさん!? 僕の体が持ちませんよ」


「冗談ですよ……ではとりあえずはハヤトさんは定期的に顔を出すとして、売上の1割を賃料にするというのはどうでしょうか? お店が落ち着いたらその後は改めて相談する必要はあると思いますが」


「そうですな、ではそれで契約をまとめてしまいましょうかな?」


「よろしくお願いします」


 自分が頑張れば良いのであれば安いものである。後で話を聞くに、この立地でこれだけの建物を借りるのであれば月に聖金貨が数枚は必要なのだそうだ。聖金貨一枚が百万円ぐらいなので、もし正規の値段で借りれば経営は火の車だっただろう。ここでウェルギリウスと知り合えたことは幸運だったとしか言いようがない。



 こうして紆余曲折がありながらも何とか出店箇所を確保し、お店の開店の準備を進めることになったのであった。

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