#49 店作り


 ヴェルズを孤児院へ預けに来たところ、そこを運営しているウェルギリウスと知り合う。そしてそのウェルギリウスが管理している建物がなんと自分が目をつけていた建物で、安く借りることが出来た。

 店舗が確保出来たので内装を整えつつ、準備を進めていくもまだまだやらなければいけないことは多い。


■■■


 ハヤトとヒソネは開店準備の合間を縫って孤児院で子供の相手をしながらも、今後について話し合う。


「人手が足りない!」


 分かっていたことだが二人だけで準備を進めるには無理がある。それに開店してしまえば何もかも人手が足りなくなる。


「そうですね、開店する目処も立ちましたしそろそろ従業員の募集をしても良いかもしれませんね」


「因みにどうやって人材を確保するのですか?」


「もちろん商会ギルドを通して人材を確保して貰う予定です。それまではラーカス商会の中からなんとか工面して貰えるように打診をしましょう」


「そうですが……でもそれは直ぐには確保出来ないですよね」


 子供にまとわりつかれながらも考え事をしているハヤト。そして目があった男の子に尋ねる。


「そんなに元気が有り余ってるなら僕の所で働いてくれる?」


「いいよー!」


「いいのかよ……」


 冗談で言ったのだがまさかの即答である。そしてヒソネも乗っかってくる。


「いいですねそれ! 早速ウェルギリウスさんに許可を貰ってきましょう」


「ちょっ、ちょっと待って! でもこの子達はまだ子供だよ?」


「何を言ってるんですか? 働くのに年齢なんて関係ないでしょ。魔物と戦うのでもあるまいし……それとも危険なことをさせるつもりなのですか?」


 確かに生きていく上で働かなければいけないなら年齢なんて関係ないのかもしれない。ハヤトも日本ではただの学生だったが、この世界では生きるために既に働いている。


「そうではないですが……そうですか」


 ハヤトはこれだけ小さい子供たちが働かなくてはいけないという現状に複雑な気持ちになる。当たり前のように衣食住が揃い勉学を行える日本での日常は当たり前のことでは無いと改めて痛感した。


「もちろんトラブルに合わないように表で働いて貰うことは出来ないですが、それでも裏方でバリバリ働いて貰いましょう」


「そうですね。よしなら早速ウェルギリウスさんの所に行きましょう」


■■■


「ウェルギリウスさん! 一つご相談があるのですが……」


 ウェルギリウスに子供達に働いてもらうという提案をする。すると思ってもみない返答が帰って来た。


「それは亜人の子供達も含めてということですか?」


「勿論ですよ、今は猫の手でも借りたいぐらいですから」


 ハヤトはいきなりウェルギリウスに手を捕まれる。


「ありがとう! そんな提案をしてくれる人はこれまでにいなかった!」


「いやいやいや、そんなに感謝されるようなことではないですよ? というより人手を出して貰えるのでこっちが感謝したいのに」


「いえそうでは無くてですね……」


 ウェルギリウスによると亜人の子供を保護して最終的に困ることは働き口が無いということなのだ。

 ここにいる子供達はいずれ大人になりこの孤児院を出ていかなくてはならない。そうなると働かなくてはいけないが亜人を雇ってくれる場所はここ聖都市はもちろんのこと、他の都市でもそうは無い。

 戦う力があり運良く冒険者になれるお金がある亜人であれば良いが、そうでなければスラムに住んだり盗みを働くしか生きる術を持たない亜人も出てくる。そうするとまた路頭を迷う子供が出てくるという悪循環に陥ってしまうのだ。


 なのでウェルギリウスはこの負の連鎖を絶ちきれる可能性のある提案をしてくれたことが何より嬉しいのだそうだ。


「そうだったのですね……どれ程の力になれるかは分かりませんが協力しますよ。むしろ協力してほしい側ですから」


「本当にありがとう」


「では早速、働く意思のある子供達を集めてください。そこから何が出来るかで分けて直ぐにでも作業に取りかかって貰いましょう」


 ウェルギリウスがまだ目を潤ませているがヒソネがテキパキと仕切りだす。


「そうでしたね……いえぜひともお店を成功させなければいけないですから、全力で手伝いますよ」


 ということで新たに孤児院の子供達に手伝って貰いながら店の準備を進めることになった。


■■■


 店の外に繋がる表の部分では人の子供に、外から見えない裏側で亜人の子供達に仕事をして貰い準備を進めていく。

 内装、陳列、在庫管理その他の幾つもの準備を整えながらようやく店らしくなってきた。

 しかし亜人を雇うことで、一般の人を雇うことが難しくなったので改めて販売員をどのように確保するか考える。


「どうしようかヒソネさん。流石にギルドで人を集めると酷いことになりますよね」


「そうですね……とりあえずはラーカス商会から人を何とか工面して貰えるように連絡は取りましたが、ずっとは無理ですしね」


「ですよね……亜人に対して偏見をもたない人材の確保を聖都市でするのは難しいですよね」


 なかなか解決策が出てこないでいると、ウェルギリウスがお店を訪ねてくる。それも何人かの人をつれてだ。


「ウェルギリウスさん? その人達は一体?」


「ハヤトさんが人手を欲していた用ですので必要ないかとも思いましたが、こちらでも心当たりがある所に連絡をとって確保させていただいたのです」


「本当ですか! でもその……大丈夫なのですか?」


「ええ勿論ですとも。彼らは何を隠そう、私の孤児院から巣立って行った子供達なのですよ。今回の事を話したら是非とも手伝わせて欲しいと言ってくれたのです」


 亜人に対して偏見を持たないということは、普通は余り役に立たないどころか逆に偏見を持たれかねないことなのだが、ハヤトが作る店には貴重な人材である。


「えっと貴方達は本当にいいのですか? まだこのお店が成功するかも分からないのに。失敗に終わったら失業してしまうかもしれないのですよ?」


「勿論ですよ! 亜人を雇ってくれる場所など、それも正当な仕事という貴重な場所を設けてくれるのですから。私たちに手伝えることがあれば何でも言ってください!」


「本当ですか! それなら……」


 ここぞとばかりにヒソネが大量の仕事を持ってくる。

 子供に対して多くの仕事をお願いするのは躊躇われていたのだろう。


「はは、これはまた凄いですね。ですが勿論やりますよ!」


 ヒソネの無茶ぶりも快く受け入れてくれ、早速働いてもらうことになった。それにまだ声をかけていない人達もいるということで、事業を拡大するならば紹介してくれるそうだ。



 こうして人員の不安が解消され、いよいよプレオープンする準備が整ったのであった。

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