#38 実地訓練


 新たな防具を纏い盾を装備したハヤトは、散々と受身の特訓をし続けた訳なのだが、実際に高ランクの魔物と戦う前に、低ランクの魔物と戦って訓練することになった。


■■■


 目的地である[マーレ迷宮]に入る前に近くの[メイの村]にやって来たのだが、村でゆっくりすることは無い。直ぐに近くの森に移動して魔物と戦う。


 スライム、ゴブリン、オーク、ワイルドボア、ワーウルフなどどこにでもいるような魔物と実際に戦い、ハヤト一人では倒せたり倒せなかったりで危なっかしいのだが、盾で防ぐことで致命傷は受けることはなかった。そして本当に危ないときはライナが助けてくれた。


「まぁこれなら最低限は自分の身を守れるかな。ライナはどう思う?」


「まぁギリギリ連れていっても大丈夫かと。たまに何でもない所で転けるのは意味が分からないんですけどね……」


「まぁライナが付いていれば問題ないでしょ?」


「そうですね、そうしないと不安です」


「ちょっ、そこで話してないで助けてくださいよ!」


 絶賛ワーウルフの群れに囲まれているのだが、見ているだけで助けてくれない。


「仕方ないな」


 アトゥムスが放った一閃と共に複数のワーウルフが屠られ、退路が出来るのでハヤトは逃げ出す。残ったワーウルフはライナが片付ける。


「やっぱりこれなら僕は付いていかない方がいいんではないんですか?」


「いやいや、君の仕事は魔物を倒した後だからね。ほら!」


 倒された魔物を指差される。ここまでもそうだったが、やはりアトゥムスとライナは解体が得意ではないみたいだ。


 倒されたワーウルフを素早く解体し、回収した素材はアトゥムスが持っているアイテムバックに入れる。


「それにしてもやっぱりアイテムバックは便利ですね。入れることで体積も質量も感じなくなるなんて」


「ああ、やっぱり見たことがなかったんだ。まぁ貴重なものだからね」


 質の低いアイテムバックなら闇取引で一般に流通しているが、Bランク以上の魔石を使ったアイテムバックはまずお目にかかれる品物ではないらしい。国のお抱え錬金術師が作製しているのでそのほとんどは聖騎士団で所有しているとのことだ。


「このアイテムバックを作っている人に会うことって出来ないですか?」


「うーん、どうだろうか? 国にとっても貴重な情報と技術を持った人たちだから、部外者が簡単に会えるかどうか分からないな。それにどうして会いたいの?」


「いや作製方法さえ分かれば自分で作ってみたいなと思いまして」


「ああそうだったね、君は錬金スキル持ちだったか。それに魔結晶の技術があれば確かに面白そうだけど、だからこそ難しいかも……」


 貴重ゆえに国が管理しているのに、関係ない所で自由に作製出来るようになってしまえば不利益になるので難しいそうだ。


「そうですか……まぁでも聖騎士団と取引が始まって信用されたらいずれ会えますよね?」


「そうかもしれないね。まぁ話だけは通しておくよ」


「よろしくお願いします」


「まぁこんな話は置いておいて、休憩出来たみたいだから次行くよ」


「ええ! まだやるんですか!?」


「もちろんだよ。これから戦う魔物はAランクの魔物だからね。だからもう少しランクの高いCランクの魔物ぐらいとは戦っておきたいからね」


「マジですか……」


 Aランクの魔物なんて普通の冒険者なら100人規模の一個中隊は最低でも欲しい相手だというのにわずか3人、それも一人は足手纏いを連れてなど常軌を逸している。


「大丈夫だよ、今回の目的は迷宮の攻略でもネームドの討伐でもないからね」


「えっとネームドとは何ですか?」


「ああ君は知らないか、簡単に言うとネームドというのは魔王に名前を与えられた幹部達だよ。彼らを倒さないと魔王の討伐はできないんだけど、ネームドも軒並みSランクの魔物だから彼らと戦う時は命懸けだね」


 この迷宮の最深部にもネームドがいる可能性が高いらしいがまだ未確認らしい。そして今回はそのネームドでは無くて途中の中ボスみたいな魔物を倒すだけと言うが、それでもAランクの魔物なのでハヤトは不安になる。


「やっぱりもう少し戦力が必要なのではないですか?」


「大丈夫大丈夫、こう見えても私は強いからね。それに途中の魔物はなるべく無視して行くから消耗しない予定だしね」


「ライナは強さ的にはどうなんですか? そのAランクの魔物とも戦えるのですか?」


「うーん、たぶん無理だね。ほら」


 アトゥムスにうながされライナを見るとAランクの魔物を倒しに行くとは聞いていなかったようで口を開けて固まっている。なので揺さぶって気を取り戻させる。


「なっなっな、これからAランクの魔物を倒しに行くんですか!? 聖騎士団でも任務で小隊を持って戦うレベルですよ」


「まぁまぁ大丈夫だよ、それにライナも経験を積みたいでしょ?」


「まぁそうですけど……ちょっと私、装備を見直してきます」


 急いで駆け出そうとするライナだが、すぐさまアトゥムスに襟を掴まれる。


「大丈夫だって。それに準備がない状態でも戦えなければ今後大変だから、今のうちに経験していた方がいいさ」



 日頃から訓練を受けているライナでさえビビる相手なのだと分かってハヤトは更にビビるが、そんな事を許してくれる暇はない。


 目の前に現れた、ワイルドベアーが現れたので背中を押されて前に押し出される。



 こうして体力が尽きるまで何度も魔物との戦闘訓練を行い続けたのであった。

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