#30 取引
ハヤトたちはアトゥムスに強引に連れられて、聖騎士団長に引き合わされる事になったが、嫌疑に掛けられている最中なのに勝手に抜け出して訪ねる時点で不味いと思うので心配しか無く、内心ドキドキのまま騎士団長の部屋に入る。
■■■
「団長!」
「アトゥムスよ、いつもノックぐらいはしろと言ってるだろう。今はいそ……」
アトゥムスを認識した後に後ろにいる3人に気付いたみたいだ。
団長と呼ばれた人は髭を蓄えた初老の男性で優しい雰囲気をしているのだが、一瞥されると体が動かなくなる。まさしく蛇に睨まれた蛙の気分だ。
「アトゥムス、そちらの方々は?」
「そうですそうです、何かの手違いで私の知り合いが拘束されていたみたいなので、釈放させたいのですが良いですか?」
「えっ!」
何も聞かされていなかったハヤトは驚いてアトゥムスの顔を見ると、大丈夫任せとけと言わんばかりのウインクをされる。
「はぁー……まぁお主が引受人というならそれで良いが。これ以上は問題を起こすでないぞ」
「モチロンデスよ!」
「まったく……そちらの君はハヤトさんと言ったかな?」
何で自分の名前をと思ったが、色々と聴取されたので既に名前が伝わっているのだろう。
「ええそうです。今回はお騒がせしてしまい申し訳ございませんでした」
アトゥムスが助けてくれるとはいえ、悪いことをしてしまったので頭を下げる。
「それはもう良いのだが、君達はラーカス商会の方々で間違いないのかな?」
「ええそうですが、もしかして商会が処分されたりするのですか?」
落ち着きを払った声で聞かれるも、はかるような目線に緊張する。
「すまんすまん、そうでは無い。最近良く噂を耳にするのでな、個人的に気になっておったのだよ」
「そうだったのですか」
処分とかは無いみたいなので安心する。
「丸薬の回復薬とやらも使ってみたが、あれは素晴らしいものだ」
「それは恐れ入ります」
「そこでだ、大量に購入させてもらいたいと思うのだが問題ないかね?」
「それは……」
流石に自分で判断出来ないので、ヒソネにヘルプの目線を送る。それを見たヒソネが前に出て来て会話に加わる。
「エンディミオン様、お初にお目にかかります。私はラーカス商会で事務職をしているヒソネと申します。私からお答えさせて頂きたいのですか大丈夫でしょうか?」
「ああ、構わんよ」
「只今、我々ラーカス商会では丸薬型回復薬の増産に着手したところでございます。出来るだけの準備はさせて頂きたいと思いますが、どれ程ご所望なのでしょうか?」
「そうじゃな……とりあえずは今週中に1000個ほど貰えるかな」
「今週中……いえ分かりました、直ぐにでも準備させて頂きます。ですが、とりあえずということは今後も取引をお考えなのでしょうか?」
「現場に配備して確かめる必要があるが、この取引が上手くいくようであればそうなるのぅ」
「わかりました。我々はこの聖都市でお店を構えようと考えておりますので、そうしていただけますと大変ありがたいです。精一杯頑張らせて頂きます」
■■■
団長とヒソネの話がまとまって退室し、取引を本当に出来るのか確認する。そんなに直ぐに1000個の回復薬をつくれるとは思わない。
「ヒソネさん、1000個を今週中にって間に合うのですか? 在庫がそんなにあるとかですか?」
「そんな分けないです! ですがあの場で断れる訳がないでしょ! 今すぐ帰って作製しますよ!」
「ええっ! 折角だから聖騎士団員の武器を見せてもらいに行きたいのですが」
「そんなことはどうでもいいです! もしこの取り引きが上手くいかなければ商会の未来は無いです。ですが上手くいけば一気に大口顧客を獲得出来て、規模の拡大が見込めますよ!」
「ええっ! ちょっ、まっ」
すぐそこに未知の剣があるので見に行きたいのに、断れず今度はヒソネに引っ張られて行く。ヒソネにも力で負けるとは思っていなかったので、ハヤトは軽く落ち込むが誰にも気付かれない。
急いでアプレルの町に帰るのだが、何食わぬ顔でアトゥムスが付いてくることに誰も突っ込まなかった。
魔剣をつくってほしいからといって、聖騎士団員が勝手に外出して良いものなのだろうか?
だが助けてもらった手前、断るわけにもいかない。なのでアトゥムスが気にしていないので、ハヤトも気にしないことにした。
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