04.古代遺跡Ⅰ

 ♢

 【中央大陸/東岸地域/東岸拠点から西に250㎞付近上空/10月下旬・某日】


『にしてもみんな慣れたもんだな……』


 相馬はUH-1Jヒューイの機内で、隊員達を眺めそう声を漏らした。


 彼の視線の先では松野三曹が小銃片手に鉄の雨を降らせている。対象は、飛行する魔物だ。松野は相馬の呟きに気づき、相馬の方を振り返る。


『え?何ですか?』


『いや、みんなだんだん魔物狩りにも慣れたなと』


『コツをつかめばオーバーキルすることも無くてグロさはないですよ?』


 そう言って小銃片手ににこやかに微笑む松野。相馬はうすら寒いものを感じつつ、これがあるべき軍人の姿なのだろうと頼しくも感じた。もっとも、自衛官は特別職国家公務員であり、職業軍人ではないのだが。


『そうか……そりゃー良かった』


 相馬は苦笑を浮かべ相槌を打つ。


 本省上層部はこの新大陸に生息する超常的な力を持つ生物を纏めて、〝外地特殊生物〟(通称、魔物・・)と呼称することにした。


 そして東岸拠点から50㎞以上の内陸部には、そこまでとは比べものにならない数の魔物が生息していた。といっても飛行性の魔物は少なく、上空を飛行する相馬たちにとってそれは特に脅威ではなかったが。


『……ところで城ケ崎、俺達は今どの辺だ?』


 相馬が城ケ崎三曹にそう問うと、城ケ崎はすぐに地図を広げ指し示す。GPS衛星が無いこの世界では航空写真とそれをもとに作成した地図だけが頼りだ。


『この辺ですね』


『結構来たな』


『しかしどこまで言っても森と平野ですね……樹皮のサンプルも、草のサンプルも収集済みだし、もう回収するものないんじゃないですか?』


 と、そこに、前を行くAH-1Sコブラ機長から無線で報告が入る。


『相馬さん、妙なものが見えてきました』


 相馬も無線で応答する。


「妙なもの?」


『窓の外を覗いてください』


 機長の声に相馬は頭を傾げながら、窓から眼下を眺める。


 そこは平野の中に散らばる森や林の中でも、大きな部類に入る森であった。その森に隠れるように、石でできたピラミッドのような建物が姿を見せる。


『……ピラミッド?』


 それはまるで古代マヤ文明のピラミッドのような建造物。なんの目的のための建物かは分からない。しかし、その遺跡は緑のコケやつたで覆われ、太古の昔に作られたものだということは一目で分かる。


『調査しますか?』


『はい。それが我々の任務ですから』


『了解しました。降りられそうな場所を探します』


 そう言って旋回を始める四機のヘリ。


『周囲に魔物の影無し。全機降下』


 AH-1Sコブラ機長の指示と共に、ヘリは遺跡周辺の開けた草原に着陸する。


 耳をつんざくほどの爆音を響かせていたローター音が止むと、辺りには急に不気味な静けさが訪れた。


 相馬小隊の隊員は警戒を崩さぬまま、ヘリから飛び降りる。


 相馬小隊は相馬を除く31名の隊員を九~一〇人ずつの分隊三班と小隊本部三人に分けて運用している。ちなみに、茂木陸曹長は小隊本部付の小隊陸曹で、城ケ崎と松野、瀬戸は一班である。そして、意外なことに城ケ崎は一班の班長であった。


「一班は俺と一緒に遺跡内部を調査だ。二班は遺跡の外部を調査。三班はヘリの警護とヘリポートの確保。何かあったら無線で連絡しろ。小森、別府、たのんだぞ」


 相馬はそう言って二班班長の小森こもり二等陸曹と三班班長である別府べっぷ二等陸曹に視線を合わせる。二人の二等陸曹は相馬の声にこたえるように、大きく頷いた。


「外部の調査はお任せください」


「何があろうとここを死守します」


 相馬は彼らに頷くと、全隊員を見回す。


「何か質問は?」


「「「ありません」」」


 相馬は「よし」と相槌を打つと、即座に掛け声をかけた。


「行動開始」







 ♢

【中央大陸/西部/古代遺跡前/同日】


「……相当傷んでるな」


 相馬は遺跡の入り口に続く石畳の階段を上りながら声を漏らした。


 近くで見るとその遺跡は相当傷んでおり、階段に並ぶ等間隔で配置された石柱はどれもが倒壊していた。石柱には文字も書かれているが、もちろん相馬たちには何が書かれているのかさっぱり分からない。


 しばらく階段を上ると、開けた広場にでる。その先にぽっかりと穴の開いた石造りの洞窟。そこがこの遺跡の入り口である。


「全員異常はないか」


 相馬は入り口の前で後ろを振り返り、全員が揃っているかを確認する。


「異常ありません」


 茂木は相馬の確認に即座に反応した。城ケ崎も茂木の言葉に頷く。


「よし。それではこれより遺跡の内部に潜入する」


 相馬はそう言って一班と茂木ら小隊本部付の隊員を見回す。


「武器は各々の判断で撃ってよし。ただし同士討ちにならないようにな」


 隊員の気合の入った返事を耳に、相馬は遺跡の入り口を振り返る。


 大きな口をぽっかりと開けたその入り口の先は、真っ暗で何も見えない。


「……こんなに暗いと幽霊でも住み着いていそうですね」


 と城ケ崎が感想を述べた。が、それを聞いた松野が横から口を差す。


「なぁに馬鹿なこと言ってんの」


「おい、馬鹿とはなんだ!」


 こいつらは本当に仲が良いな。と、相馬は心の中で苦笑する。


「……にしても本当に暗いな。全員、暗視装置をつけろ」


 相馬はそう言ってヘルメット、鉄帽に個人用暗視装置JGVS-V8を装着した。


「じゃぁ、俺から踏み込むからお前らも後に続け」


 相馬はその言葉と共に、顔つきを真面目なそれに変えた。相馬小隊の面々は、彼の顔つきの変化が意味することを知っている。


「行くぞ」


 こうして相馬を含め13人の隊員が、この古代遺跡の内部に足を踏み入れた。

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