第27話 後片付けと第二王女
失敗した。
そう気付いた時には、既に遅かった。
「皇子様ッ!!」
「待tんッ!?」
瞳を潤した少女は、俺の腕の中から出て行くかと思いきや、その腕を首を後ろに回し、唇を重ねてきた。
その顔が火照っていることは、今だけは見逃したいと切実に願った。
熱く、心地よい唇の感触に、だんだんと意識が堕ちていくのを感じた。
_不味い!?
そう考えた俺は、すぐに少女を抱いていた腕を振りほどき、大きく跳躍した。
「きゃっ!?」
支えの無くなった少女は、そのまま床へと落下し、怪我をしたようだった。
それを見て、俺はホッ、と溜息を吐いた。
と、同時に、第三王女と、男性から凄まじい殺気が向けられていることに気付いた。
「どういうことですか!?」
「すまないが、斬られてくれないか?」
俺が悪いのを自覚している所為か、2人の威圧は俺を震え上がらせるのには充分だった。
_これは、逃げるしか無いな。
何度か悩んだし、考えたが、それしか案は浮かばなかった。
この状態でどう説得しても、水の泡だろうし、先ほどから第二王女がゆっくりと、しかし着実に近づいてきているのを察知している。
ほとんど、詰みだ。
「【転移】!!!」
「な!?」
「ああああ!!」
「きゃぁっ!?」
突如、光が俺の身体を包み、その記録を移動させた。
このまま、公爵家へと戻ろう。
――そう考えていた時だった。
「皇子様ッ!!」
「なっ!?」
第二王女がそう叫ぶと同時に、俺の身体はその方向に引き寄せられた。
魔法を発動している、記録体である俺は、抵抗することも出来ずに、第二王女の前へと転移したことになった。
目前に現れた俺を見て、第二王女は瞳を輝かせ、その腕を俺の身体へと回してきた。
「皇子様!」
まるで、何も知らない子供のように俺に抱きついている第二王女に、俺は何も抵抗出来なかった。
それどころか、動くことすら出来ない。
唯一、第二王女の背へと腕を回そうと考えた時だけ腕の自由が解放されている。
_一体、どうなっているんだ?
俺ですらまったく分からない事態に、ただ戸惑うことしか出来ない。
第三王女と男性も同じく身体が動かないのか、激しい殺気を俺に向けたまま固まっている。
「~~~!ん!」
ふと、第二王女である少女が顔を上げて第三王女と男性を見て、顔を膨らませた。
_もしかして、俺への感情を受け取った?
そう考えてしまうほどに、今の表情と動きは可笑しかった。
ふと、第三王女を見ると、声の出ない口で、必至に何かを伝えようとしている。
――そ れ が わ た し た ち の ち か ら
_それが、私達の力……力……種族技能か!!
結論に至った俺は、次いで絶望を知った。
種族技能とは、唯一抵抗出来ない技能だ。
その全てが強力な力を秘めており、厄介なモノである。
そして、この能力を持っている種族はたった1つ。
_魔族だ。
それも、高位の。
「皇子様は、私の事、嫌い?」
「嫌いじゃない」
少女の言葉には、何らかの強制力が働いているようで、まったく抵抗も出来ずに口が開いた。
「じゃあ、好き?」
「………………嫌いじゃない」
「む~~~!」
なんとか、理屈に合わせて答えた。
好き?と聞かれたから、嫌いではないと答えただけだ。
このまま、持ちこたえるしかないだろう。
恐らく、この力も永遠に使える訳では無いはずだ。
それまで、問題など無く終わらせられれば。
「好きになって」
_ふざけるな~!!!!
少女の言葉が俺の頭の中で響いた直後、身体が熱くなっていくのを感じた。
目前で微笑む少女が、上目で見てくる少女が、どうしようも無く愛おしく感じる。
_待てって!!【保存】【転写】【二重人格】!!
同時に三つの魔法を発動させたと同時に、俺の意識は堕ちた。
1つだけが。
そして、その堕ちた意識を切り捨て、自身の制御を取り戻す。
効果が無い俺を見て、少女はまたもや不満そうに頬を膨らませた。
だが、だんだんとその表情も変わってくる。
少女の額に、丸い円が刻まれ始めたのだ。
それにより、僅かだが身体の自由が戻った。
_これが、封印か。
そう思いながらも、決して油断はしない。
此処で負けたら、死ぬ。
下らないプライドの戦いが、火蓋を切ったのだった。
そうして、時間は過ぎていく。
とりあえず、隙を見て転移したとだけ、追記しておこう。
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