閑話 魔王VSレイ

 ※三人称視点


「おいレイ!!今日こそ決着を付けてやるからな!!」


「今日こそって…毎日負けてるのはお前だろ?」


「五月蝿い!!大体、なんでお前はこんなに強いんだ!!」


「知らねぇよ」


 此処は、勇者を滅ぼすための魔族を育成する学園。

 その三年生であるレイは、人間でありながらこの学園でトップに君臨する実力を持っていた。

 そんなレイには、何時もカシューという少年が付き纏っている。


 この少年は、この学園で二番目に強い、魔王という存在である。

 しかし、まだ幼く、力も制御出来ないために、魔王というよりかは一般的な魔族だ。

 レイは、大人びた性格をしているが、根本はまだ子供だ。


 魔王の、好戦的な笑みで見つめられ続け、遂に戦いたくなった。


「いいぞ。今日も俺が勝つ」




 ◆◇◆◇◆




 レイと魔王は、学園の敷地内にある闘技場に来ていた。

 互いの手の中には、一振りの剣が握られている。


 魔王は、魔剣ブラッディ

 レイは、聖剣・白夜


 赤黒い色をした魔剣に対して、白夜は純白の色をしている。

 柄から刀身全てが白に統一されたこの剣は、レイが良く使っている剣だ。


 風が吹き抜け、太陽が地面を照らす。

 魔王が剣を胸の前で構えると、レイは剣を下に向けたまま立っていた。

 これが、レイのスタイルだ。


「ハァッ!!」


 先に動いたのは魔王。右手に握った剣を振り上げた状態で、レイに向かって走って来た。その速度は、かなりのモノだが、レイに見切れないほどでは無い。


「ハッ!!」


 レイも目前から少し前まで辿り着いた魔王は、そのまま剣を振り下ろした。

 それを、レイが僅かに足を後ろに下げることでかわしたのを見て、笑みを浮かべる。

 振り下ろした剣を、そのまま両手で握り、腰を低くして、前へと突き出した。


 淡い水色が、剣を包み込む。


 _3階級単発技<妖月孤>


 その剣先が鋭く光ったと同時に、レイからは剣が二つに分かれたように見えた。

 刹那の戸惑いを、魔王は見逃さない。

 本物である剣の突きを、正確にレイの胸目掛けて解き放つ。


 ブウゥン!!!


 重い空気音と同時に、魔王の攻撃は空を斬った。


「!?」


「フンッ!!」


 レイを見失い、動揺する魔王へと、剣が振り下ろされた。


「クソッ!!」


 咄嗟に、魔王は剣を正面へと出して攻撃を受け止める。

 なんとか間に合い、押されている形ではあるが、拮抗した。

 目前に立つレイを見ると、涼しそうな顔のままである。


「ッ!!」


 それを見て、悔しいくらいの怒りを覚える魔王。

 無意識に、剣を握る腕に力が篭った。


「ッ!」


 そこで始めて、レイが笑みを浮かべた。


 フッ、という感覚で、レイからの力が抜けた。

 剣を握る腕に力を込めていた魔王は、そのまま前へと倒れるように前進してしまい、無防備な背中を晒す。


 ――しまった!!


 それが、魔王の素直な感想だった。

 このままでは、確実に攻撃が当たるだろう。

 今この瞬間にも、魔王は激しい悪寒に見舞われ、普通なら身震いをするほどの感覚を味わっている。


 この一瞬が、まるでスロー再生のようにゆっくり流れていき、魔王は自身の負けを悟った。


 _が、そこで諦める訳がない。


「【闇の巨槍】!!!!」


 大声で叫ぶと同時に、に魔法陣が展開された。

 コンマ1秒後には魔王は吹き飛んでいるだろう。

 しかし、それと同時にレイにも多大なダメージが入るはずだ。


 だが、レイは完璧に勝ちに来るはずである。

 こんな場所で終わるはずもないだろう。

 そんな考えが、既に魔王の中では生まれていた。


 レイが動いたと同時に、自身も動く準備をしながら。




 結果として、確かに魔王はレイから逃げ延びることに成功した。

 予想通り、レイは直前で剣の軌跡を変え、魔王の魔法を切り裂いた。


 これで、勝負はまた始めに戻ったといっても過言では無いだろう。

 レイと魔王の間には、20メートルほどの空間がある。

 奇しくも、この数字は決闘前の両者との間合いと同じであった。


 突如、魔王の背後から複数の魔法陣が展開された。

 瞬間発動型の魔法で、既に魔法は発動されている。

 魔法陣の中心から現れた光の輝きを見て、魔王は本能的に大きく横に跳躍した。


 しかし、光は龍となりて、そのまま追尾してくる。

 これこそ、魔王の最も苦手とする戦いだ。


 _7階級奥義技<光龍の捕食者>


 この魔法で想像された龍は、それよりも高威力の一撃で倒さないと永遠に再生する。

 さらに厄介なのが、レイの計算された動きだ。

 魔王が龍を回避しようと跳躍の姿勢に入ると同時に、レイはその場所へと駆ける。


 魔王が着地したと同時に、龍とは反対からの攻撃が行われるのだ。

 そのほぼ全ての攻撃が淡い光に包まれているのだから驚愕である。


「クソォッ!!!」


 思わず荒げた声を上げる魔王だが、現状は最悪だ。

 この状態に入って最高記録を叩き出す規模で時間が経っていく。

 迫り来る龍の一撃には、魔王の命自体を脅かすほどの魔力が込められている。


 ―何処にそんな魔力操作能力があるんだよッ!!!


 内心でそう叫ぶ魔王へと、レイの次なる一手が迫ってきた。


「【光の矢】」


 物凄く習得の簡単な、ただの光属性の矢。

 しかし、だからこそ馬鹿高い威力と精密精をレイは叩き出す。

 飛来する矢の一撃を防ぐのにも、最大限の力が必要だ。


「アアアッ!!!」


 どんどんと追い詰められていく自分に対して、魔王は腹が立つ。

 圧倒的なまでの自分の弱さが、怒りを覚える。

 だからこそ、毎日のように挑むのだが。


 そして、決着の時が来た。


「【光の牢獄】」


 光で出来た鉄格子が空中より現れ、魔王を囲った。

 こうなれば、魔王にはどうしようもない。

 鉄格子に触れれば自身が傷付き、魔法を使おうものなら攻撃が飛来する。


 つまり、完全に負けだ。

 この魔法は、発動に時間が掛かるのが唯一の弱点だが、今の連撃の中でそれを阻止するのは難しい。


 今日もまた、魔王は完璧に負けたのだった。

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