第13話 令嬢と勇者の試練(2)
遥か古。
神話の時代には、人の心に溶け込み、幸せを糧にする魔族がいた。
その種族の名は、淫夢魔。
対象の夢を叶えてくれる、最悪の悪魔だ。
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※三人称視点
何時の間にか、日差しは途絶えていた。
窓から見上げる空は、まるで不穏を知らせるかのように黒い雲に染まっている。
暗闇の廊下は、全ての松明が消え、今では闇が支配していた。
向き合うリィナとシュン。
「これから話すのは、呪いの話だよ?絶対に、幸せからは掛け離れた結末が待っている。こんな話知らないで、リィナは幸せに生きても良いんだよ?この呪いは、僕達だけが__」
「そうやって……そうやって、隠すんですか?勇者である貴方が、呪いなんかのために隠すんですか?」
何かを隠すように喋るシュンに対して、リィナはそれを遮って喋った。
その瞳から流れる涙を見て、シュンは持ち上げた手の力を抜いた。
何が分かる!そう言いたかった自分に対して、シュンは自嘲気味に笑った。
_ああ。神様。貴方が下さった人生。どうしてこんなに難しいのですか?
「分かったよ。『これは、古き古の話だ___』」
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『遥か昔。それこそ、神話と呼ばれる時代よりもさらに昔。未だ神々がこの世界で生きていた頃の話だ。
ある所に、1人の少年と、その家族が幸せに住んでいた。
でも、その幸せは必ずしも続く訳では無いんだよ。
少年が、夜、眠った後だった。
彼の家族、そして少年には、神々とはまったく別の因子が眠っていたんだ。
それこそ、世界が破壊されるような、恐ろしい因子が。
神々はそれに気付いていたんだよ。
それでも、最初はこんな幸せな家庭が壊れるはずも無いと。大丈夫だと。
そう考えて見守っていた。
でも、駄目だった。
日々が経つにつれて、その家族の存在が世界を狂わせていった。
木々が枯れ始め、川が乾き始め、大地に亀裂が起き始めた。
神々は自分たちが住んでいた場所が破壊されていく様を、ただ見ているだけしか出来なかったんだ。
神々なんて言っても、その頃は僕達と変わらない人間だったんだから。
やがて、その出来事全てに対する感情は憎しみや怒りに変わり、そしてそれは少年の家族に向かった。
遂に暴走が始まったのが、最初の少年が眠った夜のことだよ。
神々はそのほとんど全員で少年の家に襲い掛かった。
周辺の草花も、川も、大地も破壊して、少年の家族を捕らえた。
反抗した家族の力は、制御できなかったのもあって、それはもう大破壊が起きたんだ。
神々はその大半を失うほど、と言えば理解出来るかな?
でも、それが駄目だったんだろうね。
その破壊が、失った命が、神々の怒りに火を点けた。
少年が朝起きた時、目前にあったのは何だったと思う?
少年が愛した。大好きだった両親の、傷つけられ、無残に刈り取られた生首だったよ。
血が垂れ落ち、少年の部屋には血痕が大量に残り、肉片が飛び散っていた。
戦争なんて、戦いなんて、すり傷でも泣いてしまうような子供が、両親の生首と、大量の血痕。そして肉片を見たら、どうなると思う?
でも、少年は賢かった。
自分に流れる血の因子にも、原因も、そして、何故両親がこうなったのかも理解出来た。
_理解出来たからこそ、許せなかった。
__運命が、神々が、世界が、平和が、血が。
___始まったのは、世界規模の、大虐殺だった。
神々の9割をも殺した少年に対して、残った神々は全てが協力して、幾つかの神となった。
創造神
戦神
魔法神
武神
最高神
女神
それぞれが世界の各地に散らばり、その地にて命を代償として魔法を発動させた。
「世界ごと、少年を封印した」
それぞれの神は、命を失ってなお、魂を削って神という存在を創り上げた。
それを、基点として、運命、世界、生物、空気、魔法、戦い、感情、それらも創造したのだ。
これ等を創ることによって、神という絶対の存在を創った。
そこからは、平和な世界が続いた。
数々の世界で少数の神が生まれ、それらを下級神として世界を担当させる。
そうやって、創り上げられた世界の1つが此処なんだ。
最初の神々を、原始の六神、として呼ばれているね。
でも、少年の力は、その原始の六神全てを合わせて尚極一部の余力が残っていた。
ただ、少年にもう破壊と虐殺の意思は無い。
あったのは、神々への対抗だけだった。
発動させたのは、全ての世界の仕組みに干渉する魔法。
それによって、最も適したこの世界に、2つの呪いを掛けた。
魔王と、勇者の呪いだよ。
それによって、この世界は何時の時代も戦争が勃発するようになった。
魔王との戦いには勇者が誕生し、魔王が勝てば魔族が世界に蔓延る。
勇者が勝っているから、人間が蔓延っている。
代わりに、人間達は同志打ちを繰り返す。
この混沌とした世界に対して、神々は2人の使徒を送り込んだんだ。
誰よりも圧倒的な存在であるように、と。
そして、誰よりも不幸で、厳しい人生を歩むように、と。
少年の呪いがさらに掛かり、一生死なないからだにもなった』
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「それが、僕とレイだよ。僕達は、誰よりも強い存在であり、誰よりも悲しい存在。何よりも、この話をした相手にも、同じ呪いが掛けられる。一生死なない呪いと、不幸の続く呪いが」
話し終えたシュンが窓から空を見ると、同時に強烈な音が鳴った。
雷だ。
上空で旋回する雷が、まるで今この状況を怒っているようで、そして、これが運命の起点だということを、証明していた。
物語は、まだ始まらない。
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