2章
第11話 学園への基準値(3)~魔族~
翌日は、公爵家の長女である<リィナ>の観察だ。
早朝に起きた俺は、そのままリィナの部屋の前に来て、待機した。
女子の部屋に勝手に入るのは禁止事項だというのは弁えている。
_にしても、魔物の増加に、迷宮か。この平和な時代にも、何かが起き始めているのだろうな。
魔物の増加というのは、自然には決して起こりえない現象だ。
魔物が発生する条件として、空気中に存在する魔力が一定に達しなくてはいけない。
そして、その魔力を吸収して魔物は存在するのだ。
魔物が増加する原因には、幾つかの法則がある。
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変異体の出現
人間の大量死
上位魔物の出現
第3者の介入
_____
これを満たした場合が、魔物の増加に繋がるのだ。
_まあ、経験則だからそれ以外も有り得るけれどな。
しかし、この時代に魔物の増加は厳しい状態だろう。
それこそ、魔物との戦争が発生する可能性も充分ある。
と、そう考えているうちに扉が開いた。
中から出て来たのは、やはりリィナだった。水色のワンピースを着ていて、可愛らしい。
「ッ!……おはようございます」
「おはよう」
俺を見て、驚いたような顔をしたリィナだが、すぐに挨拶をしてきた。
それに返すように返事をし、歩き始めたリィナの後ろに着いて歩く。
「そういえば、レイさん、は魔族のことをどう思いますか?」
「ん?魔族か」
魔族………それは、魔力を糧に生きる種族だ。
魔物と似通った性質を持っていて、魔法を扱うことに長けている種族でもある。
魔族と呼称しているが、その中にも様々な種族があり、吸血鬼、悪魔などもその一種だ。
そして、最も迫害されている種族でもある。
「そうだな。俺は、魔族は嫌いじゃないな」
「それは、どうしてですか?」
そう聞いてくるリィナの瞳には、僅かな希望が宿っているように見えた。
_まぁ、過去に何があったかなんて意味無いし、知りたくもないがな。
その表情に、僅かに顔を綻ばせた俺は、答えた。
「昔な。まだ俺が一介の傭兵をやってた頃の話だ。___」
____________
俺と同じく、傭兵として日々戦いの中でシュンは生きていた。
アイツは愉快な奴で、何時も俺の功績と戦いを見て喚いたりしていたんだ。
「またレイが軍を壊滅させた!!!僕の功績を取らないでよ!」
「知らん。大体、俺よりも弱いお前が悪い」
「いや、チートを貰った僕よりも強いレイに勝てる訳ないじゃん!!」
そうやって毎回毎回話しかけてくるシュンを、最初は拒んでいた。
邪魔な奴だ、と。
俺はただ、依頼をこなして生きていくだけで、シュンという存在に必要性を感じていなかった。
何よりも、以前の時代ではシュンよりも強い奴も存在したのだ。
どうせ、戦いの中で死ぬだろう、と。そう考えていた。
しかし、アイツは意外と粘っていた。
俺が依頼を達成して戻ってくると、必ず拠点のソファに座って、こう言っていた。
「おかえり!!にしても、また僕の依頼を取ったね!?」
「帰れ」
「またまたぁ?本当はいてくれて嬉しい癖に!」
「そんな訳無いだろうが。邪魔だから帰れ」
何度そう告げても居座り続け、俺の拠点で泊まることもあった。
最初の印象は、変な奴だったよ。
いきなり決闘を挑んできたり、その後くっ付いてきたり。
アイツの性格が、明るい、俺とは正反対のものだったからだろうか。
俺は、アイツの事を無意識に苦手としていた。
そんなある日のことだ。
何時ものように、依頼を達成した帰り道。
ふと、聞き慣れた声が聞こえた。
「その言葉を撤回してよ!」
「うるせぇ雑魚!」
「がッ!?」
気がつけば、俺は帰路から外れて、声の方向に向かっていた。
細い路地の裏の、少しだけ開けた場所に、シュンはいた。
その身体には、無数の傷跡が付き、口からは血が流れている。
対して、シュンの前にいる大柄な男は、無傷の状態で、シュンを見下ろしている。
何時もなら、関係無い、と判断してこの場を去るだろう。
しかし、何故か俺はその場に留まっていた。
「レイを…僕の友達を侮辱するな!!」
傷だらけで倒れていたシュンは、そう言い放ちながら立ち上がった。
その顔に浮かぶのは、紛れも無い怒りだった。
「だからウルセェって言ってんだろう、がッ!!」
「かはッ!?………」
男は、苛立たしそうに腕を振り上げ、シュンの顔を殴りつけた。
殴られたシュンは、その場に崩れ落ち、動かなくなった。
何故だろうか。無意識のうちに俺は、地を蹴っていた。
「?…ガハッ!?」
_10階級最終秘儀<阿修羅・十二門>
一瞬でシュンの元に辿り着いた時には、男の身体は木っ端微塵となっていた。
あらゆる細胞から切り刻まれ、残ったのは血の海だけで、身体は塵と化した。
その時に気付いたんだ。
俺は、シュンという”親友”が、必要なんだ、と。
「死ぬのか?生きられないのか?」
「…………」
倒れたシュンからは、命の鼓動がほとんど聞こえない。
瀕死どころか、もうほとんど死んでいる状態なのだろう。
_治せない。
そう直感が告げていた。
この状態で命を繋いだら、シュンは一生痛みの中で生きることになるだろう。
それならば、此処で楽になった方が良いのかもしれない。
でも、俺の身体は無意識に動いていた。
「『地獄の番人よ その門を閉ざし 冥府への魂を回帰せよ 地獄の住人よ 汝の望みを叶え 我の願いを聞き届けよ 彼の者の命に息吹を 我の命を彼の者へ 【
闇が俺とシュンを渦巻き、暗闇へと誘う。
その先に待つのは、ぼろぼろのコートに身を包んだ魔の種族、死神。
その冷酷な瞳からは一切の感情を感じられず、僅かな恐怖も抱く。
その手に握る、巨大な鎌が無音で振り上げられ、俺の心臓を切り裂いた。
「ガッ!?……アアアアアアァァァアアアア!!!!!!!!!!!」
傷は無い。
しかし、心臓部からは、光の塊が川のように流れ出ている。
俺の持つ、魂を削っているのだ。
川の流れ着く先は、死神と、シュンの身体。
死神には行動の代償として。シュンには命を与えるため。
ただ、魂の削れる感覚は尋常じゃないくらいに痛い。
この痛みに負けて、意識を失うと死んでしまう。死神に全ての魂を奪われるのだ。
だから、負けられない。
どのくらいの時間が経過しただろうか。ふと、痛みが一瞬で消えていった。
何時間だろうか。いや、何十分かもしれない。
時間の感覚が無くなるくらいの痛みを感じていた俺は、電池が切れたように倒れた。
薄れ行く意識の中で見えたのは、起き上がるシュンの姿。
不覚にも、安堵してしまったのは内緒だ。
_あとは、俺が生き返るだけだ。この状態の魂だと、一年も持たないからな。
_<転移><自動回復><再生><身体構築><復旧>
拠点の自室に姿を移した俺は、すぐさま肉体を再生させた。
あとは、この魔法を使うだけだ。
「『冥府の王よ 闇の皇帝よ 我の魂を誘い 汝らの仲間として回帰させよ 我が名は*** 汝らの種を半にして貰い受けよう 【破邪転生】』」
______________________
「俺とシュンは、どっちも魔族に命を救われたんだ。だから、魔族は嫌いじゃない」
「今の回想は私にとっては壮大過ぎる話でした」
素晴らしい正論を告げたリィナは、それでも嬉しそうな表情をしていた。
「ほら。食堂に遅れるぞ?」
「あっ!い、急ぎましょう!」
今日は、1日リィナの観察。意外と楽しいかもしれない。
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