第7話 公爵家で決闘を(1)

「勇者様っ!!!」


「シュン殿。・・・・・・・・・隣のお方が、レイ様ですか?」


 少女の声と、男性の声は重なった。男性は、すぐに俺に対して告げ、少女の場合はシュンを勇者様、と呼んだ。


「ん?そうだよ~僕の大親友で、チートの頂点、レイだよ!」


「その説明で大丈夫なのか?」


「大丈夫大丈夫」


 ただシュンの親友という説明だけで納得出来るのだろうか。

 仮にもこの場所は、国で二番目に偉い地位を持つ公爵家、その当主の前だろうに。

 しかし、心配は杞憂だったようで、男性は俺に対して何も咎めなかった。


 代わりに、少女が口を開く。


「勇者様の大親友?・・・・・・・・・・・・!!じゃあ、貴方があの、英雄様?」


 _ふむ。シュンは俺の事を何て言ったんだ?


 少し鋭い目でシュンを見ると、下手な口笛を吹きながら顔を背けていた。アイツ。


 _さて、この質問にはどう答えようか。シュンのことはバレていることだし、何よりも肩書きが無いと面倒かもしれないな。


 そう判断した俺は、少女の問いに頷いた。


「そうだな。俺は、ごく普通の、平凡な英雄だ」





 ◆◇◆◇◆





 風がそよぐ中庭で、俺は前方に構える少年と対峙していた。


 _何故こうなったんだ。


 俺が普通の英雄だと告げた瞬間に、後ろの扉が開き、この少年が飛び込んできたのだ。

 そして、開け口一番にこう告げた。


「俺と決闘しろ!」


 もちろん、断ったし、シュンにも助けを求めたのだが、相手が悪かった。

 対面する少年は、ピクリスト・レイニーン。この国の第二王子なのだ。


 結局、シュンの頼みという事で引き受け、現状に至る訳だが、どうにも納得がいかない。

 どうして、偽装、または隠蔽系の魔道具を譲ってもらいに来たのに、こんな少年の相手をしなくてはならないのだろうか。


 勿論、戦う事が嫌いな訳ではない。戦闘狂に近い感性を持つ自覚もあるが、好き好んで青二才の相手をするのは面倒なのだ。


「決闘のルールを確認する。勝敗は、片方の降参宣言または審判による戦闘不能の判定。制限としては、相手に永続的な日常的害の残る傷を負わせることを禁止、また、剣技、魔法の使用も禁止とする」


 最後の、剣技と魔法の禁止は俺に対する制限だ。この2つを可能にすると、勝敗など一瞬で付くだろう。


「それでは、試合を開始する。公爵家長女であるリィナ様を賭けた決闘、始め!!!」


 _んん!!?!?!


「おい、ちょっとまっ「貰ったあああ!!!」」


 不穏な言葉を聞き、真意を問おうと振り向くと、それを好機と思ったのか、少年は突撃してきた。

 普段の俺ならば、こんなものは無意識にでも反撃して沈められるだろう。


 _仮にも、レイニーンの名を継ぐ者ではあるか。


 そう考えらざるおえない状態だった。

 なんと、少年の足は淡く輝き、瞬間的に俺の”素の身体能力”と同等まで引き上げられているのだ。

 つまり、実質的には少年の元の身体能力の、およそ1万倍である。


 _5階級<神速>


 それは、かつて歩兵軍の隊長を務め、無類無き速度で敵を屠った人物だ。

 彼の持っていた固有技能ユニークスキルが、その子孫にも受け継がれているのだろう。


「フッ!!」


 咄嗟に右腕を高速で振り下ろし、回し蹴りを放った。

 その速度に付いてこれなかった少年は、自身の速度も相まって、驚異的な速度で吹き飛ばされた。

 ただ、外傷は0だ。全てのダメージが、蟻に噛まれた程度の傷にしかなっていない。


 勿論、痛みはそのまま感じてしまうが、そこはあの一族だ。

 期待を裏切らず、吹き飛ばされ、叩きつけられた壁から起き上がってきた。


「なるほど。興味が沸いた。少年、君の全力の力を見せてくれ」


「偉そうにッ!!」


 事実、偉いのだから仕方無いだろう。

 仮にも、世界で最も多く人を殺し、そして最強を誇ったのだ。

 流石に、”人の身”では無理な敵も存在するのだが、その話はまた別の機会に。


 苛立ちを隠さない少年は、先ほどよりも速くなって突撃してきた。

 その速度に、攻撃の練度も合わさると最高なのに、と感じてしまうのは否めない。

 この速度からの的確な一撃を繰り出せれば、最強の一角に立てるだろう。


 少年の祖先がそうして敵を屠り続けたように。


 そんな事を考えながら、拙い攻撃を防ぐ俺に対して、シュンは何時ものように輝いた視線を向けてくる。

 公爵家の男性と少女は、驚きを隠せない状態で、放心しているようだ。


 目と口を大きく開いて、その場に立ち尽くしている。



 暖かな風と日差しが眠気を誘う中、中庭には、激しい攻撃と、眠そうな少年が立っていた。

 もしかしたら、運動にすらなっていないのかもしれない。

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