第30話 学園への基準値(6) ―納得するように―



 さて、と。

 決闘に勝ったのは俺だが、勿論リィナの護衛役もといフィーの護衛役は俺が務める。


「いやー、じゃあもう決闘しただけ無駄だよね!」


 とはシュンの持論だが、まったくもってその通りだと思う。

 まぁ楽しかったから良しとして、負けただけのシュンはシュンでリィナに慰めてもらえているので解決といったところだと思う。


「え、えっと……宜しくお願いします……?」

「あぁ……。そうだな、宜しく」

「……ふふっ」

「……ははっ」


 晴れて護衛役になった訳だが、そういえばことなんだろうな。

 親友と好きな人を掛けて戦う――。


(思い出したら、恥ずかしくなってきたな……)


 それが面白くて、俺はフィーと笑えているのだけれど。

 

 知らぬ間にクルスさんも消えていて、この場には再び先日同様に俺とシュン、そしてリィナとフィーだけが残された。

 それでも特に何かある訳でも無く、ただのんびりとした時間が過ぎるのが性懲りもなく嬉しく感じる。


「フィーの護衛として、下手な事はできないな」

「頑張ってくださいねっ」


 にっこり微笑みながら、応援してくれた。

 その笑みを見ながら、この奇妙な関係にも何か運命めいたものを感じる。本来の俺の年齢は、ずっとずっと高いはずなのに、ことフィーとの事に関しては、まるで幼子おさなごのようだ。


 それが良いことなのか分かりはしないが、だが例え悪いことであっても、不思議と嫌では無かった……。


「まぁ僕はともかくシュンと第二王女様は年の差が激し過ぎるけどね」

「……!」

「……?」


 よくわからなそうな顔をするフィーを前に、そういえばと思い出した。

 確かに、今の俺は相当若返っているとはいえ、フィーに比べると老いている。これだと、不審がられたり犯罪にされないだろうか。


 現年齢は見た目だけなら12,3歳頃だが、中身は数百年を過ごした身。癖は相応のものがあるし、やはり厳しいか?

 しかしそう考えると、この見た目で教師というのも難しいような気がする。一生徒として入学するならばまだしも、しかしそれに必要な教養が俺には無い。


 およそ残り2週間ほどしか無い期間を考えると、中々に厳しいのかもしれない。


(ふむ……)


 悩んでみるものの、結論は出てこない。選択肢は幾つかある。

 俺が魔法で見た目を変えること。生徒用の試験を合格すること。諦めること。


 どれにしろ、何らかの形でクルスさんに話をする必要があるだろう。


「どうしたの?」

「ん? いや……そうだな、フィーならどう思う?」


 首を傾げる彼女を前に、俺は悩みを打ち明けた。




―――――――――――――――




「私にはどうしたら良いのか、まだ分からないわ……。でも……レ、レイと一緒に学ぶのは、素敵……だなぁ……って、思う……わよ?」


――ッ。


 そうか。なら、それで良いか。


「……分かった。ありがとな」

「ご、ごめんなさいね。力になれなくてぅえっ?」

「ありがとな」

「……ぅん……」


 あんまり自分を卑下しないで欲しい。そう思いながら近づくと、彼女は顔を赤くしながら頷いた。

 さて、決まったものはしょうがない。


 フィーに手を振ってから、俺は屋敷の中へと入っていった。


 ちょっとばかりの交渉と、それからそれから。


「っし。じゃあやるか」


 まずは……貴族のマナーから学んでいくかな。

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破邪ノ英雄は幸せを望むそうです(仮) 抹茶 @bakauke16

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