第26話 破邪ノ英雄は、キスにて王女を(4)

「大丈夫か?」


 胸の中で眠る少女へ声を掛けるが、あまり効果は無いようだった。

 未だ、少女の意識は夢の中でも現実にも無い。

 何処か分からないが、異空間で自身が傷つけられる夢を見ているだろう。


 ただ、肉体は既に完璧にまで回復しており、あとは意識の段階で頓挫していた。


 _まぁ、起こす方法は1つだな。


「【理想郷ユートピア】」


「……ッ…………」


 この魔法は、対象者の夢を最も望むものにする魔法だ。

 それと同時に、身体への微量の媚薬効果もあり、これを使って寝ると起きた時が凄いらしい。


 術者と対象者の両方が幸せに浸かれる魔法!と聞いたことがある。


「もう少しだな」


 若干意識が戻ってきている少女を見て、俺はそう呟いた。

 横目で見やると、第三王女は驚愕に目を染めている。

 一方、男性にはあまり理解出来ていないようだった。


 _最後は確か……


「最後は……んっ……」


 胸の中でスヤスヤと眠る少女の唇に、唇を重ねる。

 柔らかい、心地良い感覚だ。


「~~~?~~~」


 そこで、少女の意識が戻ったのを確認した俺は、唇を離した。

 ゆっくりと瞼が持ち上がり、少女の視線が俺を捉えていた。


「……皇子様」


 そう少女が呟いた時、俺は失敗に気が付いた。




 ◆◇◆◇◆



 ※三人称視点


 公爵家のリビングにて、シュンとリィナはくつろいでいた。

 互いの好きな場所を知って以来、2人の仲はさらに縮まったように見える。


「それにしても、レイは今頃何してるのかな?」


「さぁ?でも、レイ様なら問題無いはずですよ」


「それは知ってるよ。そうじゃなくて、レイは今頃どんな問題に直面しているのかな?って」


 リィナの膝に頭を預けながら、シュンはそう語った。

 公爵家でシュンとリィナの間で最近流行っているのは、この膝枕だ。

 シュンがレイを語る時、本当に嬉しそうに、楽しそうに喋るのを見て、リィナは若干の嫉妬を抱いているが、それと同時に嬉しくもあった。


 _シュン君が、幸せで良かった。


 そう考えられる女性であることが、シュンにとっての幸いである。


「それなら、第二王女様の治療でしたっけ?そこで第二王女様に惚れられるんじゃないですか?」


「あ~。ありそうなんだよね。そういうの」


 リィナの発言に、シュンは同意とばかりに頷いた。

 実際、シュンの知る限りでも同じようなことは数回は存在する。

 その度に、レイが気付いた時点から何とかしているのだが。


 _まったく。主人公であるはずの僕よりも主人公やってるのはレイだよ。


 そう内心で主張するシュンは、自身がどれだけ幸せな状態なのかを知らない。

 この光景を世界中に拡散すれば、およそ7割の男性の怒りを買うことだろう。

 これこそ、シュンの主人公補正かもしれない。


「今度こそ、レイに恋人が出来るのかな?」


「分かりませんけど、何だかそれもありそうな気がします」


「本当。レイなら何しても納得しちゃいそうなんだもん。ホント、最強は良いなぁ」


 心底羨ましそうにそう呟くシュンに、ふとリィナは疑問を抱いた。


「シュン君も、最強じゃないんですか?」


「?違うよ」


 リィナの質問に、シュンは少し照れくさそうに、嬉しそうに答えた。


「僕は、神様によって絶対に死なない”無敵”。だけど、死なないだけで勝てるだけの力が無い。レイは、神様によって絶対に勝つ”最強”。代わりに、最強じゃなくなった時点で死ぬ」


「??」


「まあ、リィナには難しいから理解しなくて良いよ。大事なのは、僕は最強じゃない。ってこと」


「分かりました」


 シュンは、この世界でこの様な話をしていて分かったことがある。


 _この世界の住人に、神様が絡んだ事柄を話すことは出来ない。または理解出来ないんだね。


 それが、この世界で覚えた常識の1つである。


「それにしても、リィナの膝枕は最高だよ~」


「~~~~!!」


 話を紛らわすためとはいえ、かなり恥ずかしいことを言ったシュンは、その顔を赤くしている。

 対して、不意打ちで言われたリィナも、その顔を真っ赤に染めた。


 それでも、シュンの頭を撫でていた手に若干の力が入ったのを、シュンは見逃さない。

 まるで、手放さないように力を込めた手で、嬉しそうに撫でられるのだった。


 既に、リィナの頭に先ほどの話の内容など残っていなかった。

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