第28.5話 リア充論




 明くる日の午前、クルスの家に集まったメンバーは、俺、シュン、リィナ、第二王女さんの4人だった。

 第二王女の腰の軽さにも驚くが、それ以上に顔触れがなかなか面白い。


 この世界においての勇者と、過去の英雄、公爵家の娘と王女様……。


―何か、全部そろったな。


 地位も力も気品も何もかも。今この場に集結している。


―まるで最終決戦感まるだしだな。


 ちなみに、俺たちにそんなつもりは一切無し。


「さてそれじゃあ! レイと王女様の交際を祝して、談義を始めようー!」

「っと、同時にシュンとリィナのも、な」

「わぁ! 素敵ですね」

「ですね~」


 リィナの歓声に、フィーリアが同調するように答える。もう気付いてると思うが、第二王女の名前がフィーリアだ。


 呼び辛いから、基本はフィーと呼んで構わないらしい。だからそう呼ぶが、シュンにとっては厳しいらしく、未だフィーリア様か王女様止まり。


―いや、リィナに嫉妬されないようにか?


 シュンなら有り得る。なんせ、無駄に慎重を重ねる男だし、あと、リィナに一途だし。そう考えると、口の中が甘くなってくる。


―爆殺……。


 心の中で1回殺したから、現実では優しくしよう。


「幸せにな、シュン」

「……嬉しいんだけど、なぜか背筋が冷たいんだけど……」

「なんだ、風邪か?」

「風邪ですかッ!? ……だ、大丈夫ですか、シュンさん?」

「え? いやいや! 全然元気だよ(……ちょっとレイ! そういうのされるとホントに不安にさせちゃうから止めてよね!)」


 ふっ。知らん。

 なんて、穏やかにいつもの空気が戻ってくる。荘厳たるメンバーだけれど、ノリが良くて助かる。


「さて、それじゃあ食事にしよう!」


――その一言から、地獄が始まった。





「……えっと、これは?」

「……卵焼き、です……」

「そ、そっか……」

「……うぅ……っ」


 そういえばこの女性陣2人、箱入り娘並みに貴重なのだった。家事などする機会は無かっただろう。

 シュンの前に置かれた焦げかけの黒い物体……明らかに黄色のふっくらとした姿は想像できないナニか。


 これには思わず苦笑するしか無いシュンと、顔を手で覆って俯くリィナ。傍目には愛らしいが、本人にとっては恥辱でしか無いと思う。


 そして、同じような人が俺の前にも。


「……これは?」

「……」

「……大丈夫か?」

「……」


 フィーはリィナと違って、恥ずかし過ぎるのか喋ることすらしなかった。ただ真っ赤な顔のまま視線をずらしている。

 照れた顔、というよりかは屈辱の顔、といった風貌だけれど、可愛い。


―可愛い、か。


 そんな感情を持ったのは、これが初めてだった。なにせ戦いに人生を投じていたのだから。

 

―あぁ、嬉しいな。


 人間らしさ、平凡さ。そして緊張感の無さ。しみじみとこの幸せを痛感すると同時に、この幸せを目前の少女にも分けてあげたいとも思う。


「フィー。これは卵焼きだよな?」

「っ……(コクリ)」


 恥ずかしそうに頷くのを確認。

 はてさて、こんなことをするのは人生で初めてだから、上手くできるかはわからない。が、『為せば成る、為さねば成らん。』という言葉もあることだし、頑張ろう。


「ぁむ……」

「っあ……!」


 一息に、黒い物体を口の中に押し込む。

 焼け焦げた炭の苦みが口一杯に広がり、素材本来の味は一切しない。驚いたようなフィーの顔を横目で見ながら、咀嚼を繰り返す。


 胃からは異物を吐き出せと忠告が来るが、しかし俺も男だ。苦みを押し堪えて、ごくりと呑み込む。


「あ……」


 フィーが、再びその言葉を漏らした。

 未だ状況が呑み込めておらず、ただ、困惑と俺を心配する様子が伝わってくる。


―健気だな。


 思わず苦笑しそうになり、それを笑みに変える。喉の奥が少しヒリヒリする。口に残った苦みで顔を顰めたくなる。

 それを我慢して、笑いかける。


「不味いな、そして苦い」

「うっ……ご、ごめ「でも」――」


「俺のために作ってくれたと考えると、美味い。初めは皆下手だ。そこに個人差があるのは当然。フィーが下手なのなんか気にしないさ。むしろ、その方が良い。これからの成長を全部俺が体験して良いのだろう?」

「……あぅぁ……。……ぅぅ……」


 非常に赤く染まったフィーの顔を見ながら、きっと俺も大して変わらないだろうと苦笑いする。こんな浮いた言葉、得意じゃない。

 2人揃って真っ赤なまま黙りこむ。けれどそれが、案外嫌でも無かった。




「ほらほら、リィナも元気出してよ」

「そんな事言われても……」

「昨日付き合い始めたシュンと王女様は、何か良い雰囲気だよ?」

「……ホントだ……」


 少し離れた所で、シュンとリィナも話しをしていた。先ほどまで卵焼きを片付けていたリィナが戻って来たことで、シュンとレイは完全に別グループのように行動し始めたからだ。


「まさか一番簡単だと言われた卵焼きがあんなに難しいなんて……」

「ははは……。しょうがないと思うよ? それに、僕はリィナが料理出来なくても良いんだ。だって、そしたら僕が作ってあげるから!」


 満面の笑みで言うシュンに、リィナは顔を赤らめる。恥ずかしさと、嬉しさの混じった表情。


「で、でも、やっぱりシュンに作ってあげたい……かな」

「(何この可愛い彼女)」


 無言でシュンはリィナを抱きしめる。一瞬驚いたようなリィナだったが、すぐにその手をシュンの背中へと回し、胸に額を預ける。

 僅か数秒にしてここまで甘くなれる2人も大概ではあるが、これが日常なのだ。もう慣れの域。




 こうして、2つの最強バカップルの最初のパーティ(?)は幕を閉じたのだった。



 完。



―――――――――――――


 (*‘∀‘)フッ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る