第19話 破邪ノ英雄、休日を満喫する?
教師陣として学園に向かうのを1ヶ月後に控えた今日。
俺は、特にすることも無く、休日となっていた。
以前ならば、毎日が戦いの日々だったが、今は違う。勿論、万が一に備えて鍛えるという手段もアリだが、それの必要はあまり無い。
詳しくは割愛するが、俺の身体能力は時が経つ程強化されていくのだ。
自身で鍛えるのも必要だが、それでも既に1000年分くらいの運動を終えている。
暫く何もしなくとも、半永続的に力は増え続けていくだろう。
という訳で、今日は休日だ。
「では、とりあえず街に向かおうと思う」
「ん?分かった。じゃあ、レイのいない間は、僕が公爵家を守るね!」
「シュンが守るのはリィナだろうが」
「てへっ」
男がそれをやっても気持ち悪いだけなのに、シュンがやると意外と様になっている。
これが、男なのに男では無いという奴なのだろうか。
「あ、今絶対僕を侮辱したでしょ?」
「いや?それよりも、リィナが呼んでるぞ」
「え!?嘘ッ!」
そう告げると、シュンは一瞬で屋敷の奥へと消えていった。
_まったく。アイツも人間らしくなったな。
思わず溜息が零れてしまうのは、どうしようも無いのだろう。
「では、行ってくる」
返事が無い挨拶をしてから、俺は屋敷を出た。久しぶりの外だ。
中庭には何度か出ていたが、こうやって玄関から外に出るのは久しぶりである。
眼下に広がる街を見下ろしながら、俺は歩き始めた。
「賑わっていそうだな」
人々の行き交う街を見ながらそう考え、俺は坂を下った。
この屋敷は、どうやら小高い丘の上に立っているようだった。
街に辿り着くと、先ほどの言葉通りの光景があった。
「いらっしゃい!新鮮な野菜だよ!」
「おらぁ!獲れたての獅子肉だぞぉ!」
「おばちゃん!あと銅貨一枚まけて!」
「邪魔だ邪魔だ」
五月蝿いくらいの喋り声が聞こえ、足音が鳴り響いている。
賑わっている、という評価だけでは、過小評価かもしれない。
_さて。まずは、この時代の金を集めないとな
そう考え、俺は少し遠くに見える高い建物へと足を向けた。
以前の、神話時代の金貨という類なら異常な量を持っているが、この時代でそれが使えるかは不明だ。
公爵から少しだけ貰っているが、それは全て銀貨と呼ばれるものだった。
まあ、何をするのか、と聞かれた時に何もしない、と答えたのが悪いのだが。
しかし、何があるのかすら分からないのだからしょうがない。
今俺が向かっているのは、ステファニーから聞いた、ギルドという施設だ。
そこで、魔物や魔獣の討伐を仕事として受けられ、金を貰うことが出来るらしい。
以前から考えれば、革命とも呼べる事業だ。
その建物、ギルドは、街の中心に存在する。
そこへ辿り着いた俺は、すぐに中へと入った。扉の前で立ち止まるのは、常識的にも邪魔だろう。
中は、ギルドというよりかは居酒屋に近かった。
テーブルが幾つも設置され、中年の男達が酒を飲んで騒いでいる。
俺が中に入ったことにすら気付かない者もいるようだ。
そんな連中は無視しておいて、俺は受付に向かった。
「はい。御用は何でしょうか?」
「すまないが、初めて来たのでな。依頼を受けたいのだが」
「ギルドカードはお持ちでしょうか?」
「いや、無いな」
「分かりました。それでは、作成しますので、此方に記入してください」
対応してくれたのは、蒼い髪をした綺麗な女性だった。
慣れた作業なのか、戸惑うことも無く紙を差し出され、驚愕したのは秘密だ。
出された紙を見ると、様々なことの記入項目があった。
_まぁ、正直に書けば大丈夫だろう。
____
職業 破邪ノ英雄
LV 3209
特技 神剣術 最上級魔法
魔物討伐最高階級 4000
魔物討伐最高階級個体名 破壊ノ邪神
住居 天空城最上階・英雄ノ間
年齢 4031
備考
____
正直に書いたのだが、大丈夫だろうか。
「出来た」
「はい。……………………承りました」
女性が紙に目を通した瞬間、落胆の表情が見えたのは何故だろうか。
「それでは、この水晶に手を乗せて、質問に答えてください」
「?分かった」
言われた通りに水晶に手を置くと、淡く水色に光った。
それを見て、女性は1つ頷き、俺と視線を合わせる。
此方も、蒼い瞳をしている。
「この紙に書いたことは真実ですか?」
「?ああ。真実だ」
「……………え?なんで…………」
俺が答えたあと、水晶を見つめていた女性だが、暫く経つと途端に戸惑い始めた。
どうしたのだろうか。
俺は、水晶を見つめながら、技能を発動させた。
<真実の水晶>
この水晶の上に手を乗せた人物の証言が、嘘か真実かを判定する。
嘘だった場合は、水晶は赤く輝き、真実だった場合は淡く水色に輝く。
つまりは、俺の書いた紙が事実とは思えなかったってことか。
「嘘………英雄…?………!!ッ!!……ご、ごめんなさい!!英雄様とは知ら「静かに」…」
だんだんと顔を青くさせていき、大声を出そうとしていた。
咄嗟に俺は女性の口を塞ぎ、なんとか周知しなくて済んだようだ。
_まあ、男達からの殺意は素晴らしいほど膨れ上がったが。
女性が対応した時から、若干の殺意があったのだが、今では驚くほどに増えている。
まあ、個々が弱過ぎる殺意の所為でまったく脅威でもないのだが。
「頷いてくれるだけでいい。落ち着いたか?このことは喋っては駄目だ」
「(コクコク)」
「なら良い」
そうやって手を離すと、女性は顔を赤くして奥へと入って行った。
まあ、流石に公衆の面前で口を塞がれるというのは侮辱だろう。
内心で謝罪を告げながら、俺はその場で待っていた。
__女性が、ギルドカードを作成するのを忘れていることも知らずに。
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