第2話 死神の英雄?
その運命の歯車が動き出したのは、帝国と教国の最終決戦の時だった。
魔道師を後衛に回した教国は、順調に領土を拡大していき、残すは帝国の帝都のみとなったのだ。
「帝国の戦力は残り少しだ!!我々教国のため、この戦い、必ず勝利を!!!」
『おおおおおお!!!!!』
帝都の門を打ち破り、兵士達は順調に帝国内に進軍していった。
そう、順調過ぎる程に………………
◆◇◆◇◆
_可笑しい。
_静か過ぎる。
帝都内に進軍した兵士達の過半数がそう考えた。帝都の中には、1人の人間も見当たらなかったのだ。
まるで、”消滅”したように、建物だけが街並みを形成している。
いっそ不気味と思う程に、静かだった。
「うわああああ!!!?!?!?」
だからこそ、突如として後方から聞こえた悲鳴に、ほとんどの兵士は驚愕した。
咄嗟に振り向いた兵士達の目には、悪夢が映っただろう。
後方に回っていた魔道師。その全てが、血の海になっていたからだ。
その中に佇むのは、血の海の中で一切の血に濡れていない、黒のロングコートを着た男。見た目は、そこまで若く無いだろう。その背に装備された剣は、柄を見るだけで圧倒的な威圧を感じる。
男の視線が、不意に兵士達を向いた。その瞳には、一切の感情が無いようにも錯覚する。
_戦いは、一瞬だった。
気がつくと、帝都内に進軍していた兵士3万のうち、およそ2万の兵士が息絶えていた。残っている兵士も、そのほとんどが足や手が消えている。
まったく見えなかった。何をしたのかも分からない。ただあるのは、残酷なまでの死。
それだけで、残った兵士達が恐怖に陥るのには充分だった。
必至に逃げようと考えるが、既に遅い。気がつくと、視界には自身の身体がさかさまに映っているのだ。
噴出する血と、意識が急激に沈んでいくことで、死を体感する。たった、一瞬の出来事であった。
ただ無慈悲にその命は刈り取られ、悲鳴すら残らない。
たった一瞬、視界の隅に映ったのは、血の海だった場所と、その血全てが消えた場所だった。
_まるで、”消滅”したように、地面だけが残っている。
◆◇◆◇◆
この戦いは、後に「帝国最終戦争」から、「死神の起点」と呼ばれるようになった。
各地で起こる戦いのほとんどにその男は姿を現し、全ての兵士を狩りつくしていったのだ。まさに、無慈悲に命を刈り取る死神のように。
しかし、全ての者から死神と呼ばれた訳では無い。戦争の最中、ただ食料を作り、武器を製造するだけだった人々にとって、男の存在は英雄であった。
兵士の数が減れば、武器も食料も少なく済む。自身達がいなくなると武器や食料が無くなるから戦争には送り出せない。
まさに最高の出来事に、人々は歓喜した。
◆◇◆◇◆
国の上層部にとって、その存在は死神そのものだっただろう。幾度調査を派遣しても、全ての国から男の所属は不明だという結果しか返らないのだ。
しかし、刻一刻と兵力は失われていく。動機があるのか、と問われれば、無慈悲に殺すだけの男に有る訳が無い。
全ての兵士を殺す男は、戦争に対して”全兵力の損失”によって終わりを告げようとしているのだ。
全ての貴族、王族が怯え、そして恐怖した。男の狙いが、次は自分たちに向かうのでは無いのか、と。
◆◇◆◇◆
戦歴93年
この日、遂に四ヶ国全ての兵士が狩り尽くされた。
残ったのは、1人では何も出来ない貴族と王族、そして、全てを1人でこなす事の出来る平民だけであった。
此処からは、歴史の観点において資料に残された古い文字からの推測に過ぎない。
しかし、唯一正確に的を得ているのは、平民による視点の資料だけだ。
「死神と呼ばれたその存在は、我々下々の者の英雄であり、絶対的な力を以って戦争を終了させてくださった。我々は、その力と行動に畏怖と感謝を込めて、彼の者にこの名を授けた。願わくば、彼がこの名を未来永劫名乗ることだけだ。歴史上において、唯一絶対の強さを見せ付けた彼の英雄を、こう呼ぶ。
__『破邪ノ英雄』と」
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