第23話 リガガラ神殿①

「良いか天上天下よ。

 私のクランには干渉するな。命令もするな。

 もし君達が私のクランに干渉するようなら、貴様らは生きて神殿から出られない」


 カチン。

 そんな音が俺の頭部から聞こえた。

 上等だ。

 それは俺への宣戦布告って事で良いんだな?

 俺とこいつがどちらが上か、体でわからせてやる!


「上等だコラ!

 そう簡単に俺達がやられると思ってんのか!?

 誰に口きいてやがるっ!!」


 俺は自分の鼻先がジャミルの鼻先にぶつかりそうになる場所まで奴に近づき、クソ憎たらしい奴の目に向かってガンを飛ばす。

 この傭兵崩れが、調子乗ってんじゃねーぞ。あ?


「そ、ソーダライト。

 そなた、やめるで御座るよ!」


「はぁ? 何よ助右衛門!

 こんな奴に言いたい放題言われて、悔しくないの!?」


「そうだべっ!!

 ソーダライトっ!!

 こんな奴、しばき上げだどっ!!」


「ララもビビバも、火に油を注がないで欲しいで御座るっ!!

 今ここで喧嘩になってしまえば、拙者達は監督役失格として、ギルドからペナルティを食らうで御座るぞっ!!」


 あん? む。そ、そうか。

 そう言えばそうか。

 こいつらとの乱闘が始まっちまうと、監督役の依頼を放棄した事になるのか……。


「クク。優等生を演じるのは辛いなぁ天上天下の諸君よ。

 君達が無事に私達の監督役を勤め上げる事を、陰ながらお祈りさせてもらうぞ?」


「流石お頭っ!

 あの天上天下を雑魚扱いだっ!!」


「ギャハハハハハッ!!」


 ジャミル一家はそう馬鹿笑いしながら、俺達の傍から去って行った。

 あかん。もう俺様、キレちゃいそう。

 でもキレて乱闘になったら、監督役失格として、違約金を請求されて困っちゃうの。

 くそがっ!! 


「ねえ、なんなのあいつ!?

 すっごい腹が立つんですけどっ!!」


「ほらほらララも落ち着くで御座るよ」


「何よ! あたしが悪いのっ!?

 悪いのはあいつらでしょう!?」


 ララはチンピラ冒険者の挑発におかんむりのようだ。

 その気持ちはわかる。

 俺もあいつは嫌いだ。

 第一、奴は話し方に気品が感じられねぇ。

 ボケが!


「ちっ。まぁいい。

 気持ちを切り替えて行くぞ。

 とりあえず奴らの事は、完全に無視するからな」


「アホで御座るか。

 拙者達は彼らの監視役で候。

 無視してどうするので御座るか」


「む……。それもそうか。

 流石助右衛門、冷静に物事を見ているな」


 俺達のメンバーで奴らにキレていないのは、助右衛門だけだ。

 流石、天上天下の良心と呼ばれるだけあるな。

 お前が居てくれて助かったぜ。


「ソーダライトは、贄で御座る。

 魂の刻印は機能している……で御座るか」


「地獄の門は開かれたわ。

 冥府に巣食う悪龍の封印を、あいつは掻き消したのよ!」


「だべ。神は残酷なほど愛おしいべ」


「いや、だからよ。

 出来れば俺が理解出来る言葉で喋ってくれねぇか?」


 あかん。

 恥ずかしくて吐きそう。

 って言うか、お前らドヤ顔やめて。

 人混みで注目されている中、それだけはやめて。

 さも自分が超越者の様に振る舞うの、本当にやめて。


 ――――そんなこんなありながら、リガガラ神殿の大規模調査が開始する事になった。

 今から思えば、この時思い切って依頼を放棄して、街に帰ってしまえば良かったんだよな。









 リガガラ神殿に入って数日が経過した。

 今俺達が居るのは地下10階部分であり、周囲に光源は無くとても暗い。


 この神殿は地下3階までが、神を拝む拝殿になっている。

 だがそれより下の階層は素掘りのダンジョンであり、ここが地下何階まで有るのかわかっていないのだ。


「なかなかこの神殿、攻略が難しいな」


「だからこの神殿はレンジャー泣かせで、面倒臭いって言ったじやん。

 迷路、モンスター、ガス、大量の埃。

 ここの攻略難易度はかなり高いんだからね!」


 最初はもっと簡単に調査が進むと思っていた。

 だが下層に行けば行くほど迷路になっていやがるし、場所によってはガス溜まりがありやがる。

 こんなにこの神殿が攻略し難いダンジョンだとは、思ってもいなかった。


「せめてカンテラだけでも使えたら、便利なんだがなぁ……」


「絶対に火は使わないでよっ!!

 使ったら粉塵爆発起こして死ぬからねっ!!」


 さらに最悪なのは、ダンジョン内の埃が半端なく多い事だ。

 地下5階ぐらいまでは、そうでもなかった。

 だが下層階に行けば行くほど埃が酷くなって来て、息をするのも苦しいくらいだ。


「頼りにしてるぜレンジャーさんよぉ」


「……もうそろそろあたしも、音を上げそうなんだけど」


 こんな厄介なダンジョン、クラン内にレンジャーがいないと、本気でどうしようもならねぇ。

 ダンジョン内で死亡する冒険者の大多数は、モンスターに殺される事じゃない。

 縦穴への転落死やガス中毒、密閉空間で火属性の魔法を使って酸欠死したり、粉塵爆発で死んだりするのが、ダンジョンでの死亡原因を大きく上げているのだ。

 ゆえに、空気中及び地下水の成分調査、酸素や飲料水の浄化、足場や休憩場などの作製、脆弱地盤の補強、ダンジョンマップの作成及びナビゲーション等に優れたレンジャーが、こんなダンジョンでは重宝されるのだ。


「ほらビビバっ!!

 そこは地盤が脆いから歩かないでっ!!」


「ぬ、ぬおお!?」


「ほらもうっ!!

 助右衛門は水溜りを踏まない!!

 綺麗な水に見えても、強酸や強アルカリだったって事はザラなんだからっ!!」


「わ、わかったで御座る!」


 本来俺達は監督役の仕事に専念し、神殿の調査には関わらない予定だった。

 だが悲しいかな、探索メンバーとして雇われたレンジャーだけでは、ダンジョンの難易度が高過ぎて、安全空間を確保する作業が追いつかなかったのだ。

 ゆえに監督役の俺達も、ララを投入し、ダンジョン内の安全確保にあたる事になった。


 と言うか、この神殿の攻略が難しいのは、ギルドならわかってた筈だろ?

 何故もっとレンジャーを雇わなかったんだよ。


「ソーダライトっ!!

 冒険者がオークにやられたべっ!!

 回復魔法をかけてやってくれどっ!!」


「またかよ……。

 この神殿、オークばっかだな」


 しかもこの神殿、オークの巣になっているみたいだ。

 安全確保中にやたらとオークと遭遇し、既に何人もの怪我人が出ている。


 と言うか、監督役ってこいつらが悪さしない様に、見張っているだけの楽な仕事じゃなかったのか?

 何故か俺達、めっちゃ忙しいんですけど。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

病魔の王と堕天の姫君 〜インフルエンザウィルスに転生したのですが、頑張って生きて行きます〜 祐紀 @ta_i_chi

作家にギフトを贈る

カクヨムサポーターズパスポートに登録すると、作家にギフトを贈れるようになります。

ギフトを贈って最初のサポーターになりませんか?

ギフトを贈ると限定コンテンツを閲覧できます。作家の創作活動を支援しましょう。

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ