第11話 発病中


「の、喉に何かが絡んで……ゲホゴホガハァッ!!」


 寄生完了ぉ〜っ!


 よしよし。

 これで新しい宿主に寄生する事が出来た。

 一時はどうなるかと思ったけど、まあ順調かな?


 ……順調だよね?


「はあ、はあ。

 よ、よしっ!!

 やっぱりこの道で合っていたぜっ!!」


「や、やった!!

 もうちょっとで外だっ!!」


 おっと。ついうっかり考え込んでしまった。

 さっさと増殖を開始して、宿主を発熱させないと。


 現在、僕は寄生先の宿主の喉あたりに居る。

 母体に付き従う分体数は5千体だ。

 増殖速度は当初よりも著しく上がっているので、ガンガン分体を増やして行く。


 あーでも、そろそろ宿主の免疫が現れても良い頃なんだけど、なかなか現れないなぁ?

 免疫何してるん?

 休んでるん?

 それともサボってるん?


「うっ!?」


「お、おい!?」


「き、キヒヒヒヒッ!?

 キヒャヒャヒャヒャッ!!」


「おっ!? おいっ!!

 いきなりどうしたんだっ!?」


 あ、あれ?

 オークが発狂した時と同じく、いきなりこの宿主も暴れ始めたんだけどっ!?

 何さこれっ!?


《生殺与奪のスキルが常時発動している為、現在、熱が脳を侵し発狂中です》


 ちょ!?

 そうだった!

 生殺与奪のスキルが発動している時は、僕が感染した宿主は、インフルエンザが重篤化するんだった!


「き、きひひ。

 きれいなお花畑がみえるのー」


「熱っ!! な、何だこいつの体っ!?

 まるで焼ける様に熱いじゃねぇかっ!?」


「お、おいっ!?

 し、し、しっかりしろっ!?」


 ドスン!

 うわ言を呟きながら、宿主が倒れる。

 直後、今まで聞こえていた息の音も、ざーーって言う血液の流れる音も、聞こえなくなってしまった。


《生殺与奪の効果により、ヒトの体温が64度に達した結果、死亡しました》


 ぬあー。

 死んじゃったぁー。

 人を殺しちゃったよ……。


《気に病みますか?》


 あー、いや、実はあまり気には病んでいない。

 今や人間にインフルエンザを発症させる事について、何ら良心の呵責が起こらない。

 人を殺ても、「インフルエンザで死んだのだから、仕方がないよね」程度にしか思えず、人間もモンスターも、疾病の対象としてしか見れない。


 うん。何だか僕、普通に発想が人外になって来ているね。

 人間を止めた事で、感覚が麻痺しつつあるのかなぁ?

 ああでも、何故かあの堕天使ちゃんは、同族っぽい親近感が有る様な気がする。

 理由はよくわからんけど。


「ゲホッ!! ゲホゲホッ!!」


「お、おいまさか、お前もかっ!?」


「な、何だよこれ……。

 急に咳が……。

 ま、まさか俺もトムみたいに、死んじまうのか……?」


 さてさて。

 母体の宿主が死んでしまったので、早速他の人に寄生先を変更する。

 ちゃんと今度は生殺与奪のスキルを無効にしておいたよ。

 せっかく寄生した宿主なのに、増殖を繰り返す前に死んじゃったら、元も子もないもんね。


「うごぉ……鼻水が止まらな……。

 へクション!! クション!!

 ブァァァックショイッ!!」


「うおっ!?

 き、急に吐き気が……げろげろげろッ!!」


「のおおおお!?

 急に下痢がぁぁぁぁっ!!

 …………ぷりっ…………あっ!」


 大惨事だ。

 まあ、その惨事を引き起こしているのは、僕な訳なんだけど。


 あーでも、さっきから宿主に寄生した直後にインフルエンザが発症しているけど、免疫って本当にどうしたん?

 オークの時は免疫と戦って、症状を患わせたんだけど、今回は即座に症状が発症している気がする。

 何で?


《回答:彼等は体調が悪化し、免疫力が落ちています。

 ゆえに、寄生後即座にインフルエンザが発症しました》


 ふむー? そうなんだ。

 僕の知っている疫学では、ウィルスと免疫が戦っている間に症状が続く筈なんだけど、相変わらずこの世界の疫学はよくわからん。

 まぁともかく、元々この宿主は体調が悪かったってこと?


《肯定。特に先程死亡したヒトは、感染の上、生殺与奪のスキルにて症状が重篤化した為、死亡したのです》


 ふむー。そうか。

 生殺与奪のスキル、ヤバイね。

 まあでも、いろいろ辛い事も有ったけど、やっぱり今のところ順調だよね? 

 多分だけど、ヒトを発症させた事で、人間細胞も入手出来ているんだろ?


《肯定。人間細胞は疾病発症時に入手済です》


 よし、よぉし!

 これで新たな突然変異を起こせるな!

 後はオークの死体に残した方の分体が、どんな成長を果たしてくれているのかってところかな。


「う……うう……。

 寒い……。体が異常に寒い……」


「な、何だよ……。

 いったい俺達に何が起こっているんだよ……」


 増殖を繰り返しながら、新たに生み出した分体を宿主のくしゃみと共に、外部に排出する。

 周囲にはまだ分体を寄生させていなかった人も居たが、あれよあれよと言う間に、全員感染させる事が出来た。

 所謂、飛沫感染ってやつだ。


 うん。飛沫感染って便利だね。

 自分の力を使わなくても、宿主が勝手に感染を促してくれるので、特にこちらはする事が無い。

 こらからも飛沫感染は、多用して行きたいと思う。


《警告します》


 は? 何が?

 急に創造主の記憶が、変なことを言い出した。

 警告って何さ?

 何か起こったん?


《警告します。

 母体に危険が迫っています。

 直ちにこの宿主から撤退して下さい》


 母体に危険が迫っている?

 人間の免疫でも飛んできたのか?

 と言うか、今この宿主に寄生したばかりだよ?

 いきなりそんな事を言われても、逃げ出せる訳がないじゃん。


「キキィィィィィィィィッ!!」


「うわああああっ!?」


「ガルーダの奴が追って来やがったぁぁっ!?」


 ……何今の?

 恐竜の雄叫びと言うか、化物の咆哮と言うか、そんな声が外から聞こえた。

 どういう事なの?

 もしかして本当に僕って、いま危険な状態に有るの?


名前:なし

種族:インフルエンザウィルスO型(母体)

スキル:風邪E・増殖E・突然変異・分母転換・浮遊F・感染F・生殺与奪

所持細胞:堕天使・ヒト(New)

分体数:4/10,000(単位:万) 

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