第12話 ガルーダ


 恐竜の雄叫びと言うか、化物の咆哮と言うか、そんな声が外から聞こえた。

 いや今の、すっげー大きな声だったぞ?

 どういう事なの?


《回答:彼らはガルーダに襲われています》


 ガルーダ?

 ガルーダって確か、鷹のモンスターだよね?

 タイやインドネシアの国章になっているやつ。


《ガルーダは災害級のモンスターであり、今や伝説となっている程に有名な存在です。

 現在、野生のガルーダは全滅しており、高次元存在の眷属でしか存在していません》


 高次元存在の眷属って何だよ!

 何故そんなものが神殿内に居るの!?


《ガルーダは主に、迦楼羅族の天使が使役すると言われています》


 天使の眷属って……。

 神殿に入る前に出会った病気の女の子、アイアゲートちゃんって、迦楼羅族の堕天使って自称してたよね?

 このガルーダはアイアゲートちゃんが召喚したの?


《不明。ですがその可能性は高いと思われます》


 うーん……。

 状況があまり把握できないのだけど、つまりこの人達は悪い人か何かで、アイアゲートちゃんに戦闘を吹っかけたかとかで怒らせちゃったのかなぁ?


「グギィィィィィッ!!」


「ひっ!?

 ひぎゃあぁぁぁぁぁぁっ!?」


「で、で、デニスぅぅっ!?」


 うあっ!?

 なんか、人間の1人に寄生させていた分体の大半が、一瞬で消滅したんだけどっ!!

 これ外で何が起こってるん!?


 まさかこのガルーダって、炎とか吐くモンスターじゃないよね?

 もし火炎放射とかされたら、湿気にも熱にも弱い僕は、絶滅してしまう!


《肯定。ガルーダは火を吐きます》


 ノォォォォォォォォォォォォッ!!

 やっぱり火を吐くんかいっ!!

 って言う事は、なんなの?

 ガルーダって僕の敵なの?


《敵かどうかはわかりません。

 ですがガルーダは、マスターが寄生している宿主を敵視しています》


 あかんやん。

 宿主を敵視していたら、寄生している僕までとばっちり食うやん。


 んもーーっ!!

 全てが順調に行っているとか思っていたさっきまでの僕が、まるでピエロみたいだ。

 何でこう継ぎから次へと、試練がやって来るかなぁ?

 眼が覚めたらインフルエンザウィルスに生まれ変わっていたり、湿気から逃げたり、オークの免疫に襲われたり、天中殺の仏滅かっ!!


「グギィィィィィッ!!」


「うわぁぁぁっ!!」


「ろ、ろ、ロバートぉっ!?」


 あかん。

 また人間の1人に寄生させていた分体が、消滅してしまった。

 このままでは全ての分体が消滅してしまう。

 いや、母体が寄生している人間が炎にまかれたら、僕そのものが消滅してしまう。


「ガァァァァァァァッ!!」


「はぐわぁぁぁぁっ!?」


「ま、また炎を吐きやがったぁぁぁっ!!」


 そんなこんなしている間にも、宿主は次々と焼かれ、切羽詰まって来る。

 うぐぐー。熱いーーーっ!!


 やばい。

 何とかしないと手遅れになってしまう。

 でも外に出たら場の高温で一撃死する可能性も有るし、宿主の体からは離れられない。


「うごぉぉぉぉっ!?

 熱い熱い熱い熱い熱いぃぃぃぃぃぃっ!!」


「地底湖だっ!!

 そこに飛び込めば、炎に焼かれねぇっ!!」


 おお!?

 今この宿主、何て言った?

 地底湖に飛び込めば、炎に焼かれない?

 地底湖って、蛍光塗料をぶち撒けた様な、さっき見かけたあの地底湖だよね?

 こいつ何て頭良いんだ。

 それなら確かに、このモンスターから逃げきれる……。


《駄目です。

 宿主が水に飛び込む事によって、炎からは逃げ切れても、別の問題が生じます》  


 って、そうだった!

 僕は炎も駄目だが、水も駄目なんだった!


 地底湖に飛び込んで水をガブガブ飲まれたら、僕もしかして宿主の体から、流されてしまう!

 いや、そもそも流されるだけでは済まない!


 宿主が地底湖に飛び込んだら、飲み込まれた水により、僕は喉から胃に流され、小腸へ流され、そして大腸へ流される可能性がある。

 すると僕は、宿主のウンコにまみれた上で、下痢便と一緒に外界へ放出されてしまうかもしれない。


「行け行けっ!!」


「下層部の地底湖まで走れっ!!」


 だ、駄目だっ!!

 それだけは止めてくれっっ!!

 これでも数日前までは普通の人間だったんだっ!!

 野郎のウンコに包まれて一時を過ごすなんて、あまりにも鬱すぎる!


《分母転換のスキルを使用する事で、逃走は用意です。

 これを使用すると、マスターである母体は、オークの体に寄生する分体と、入れ替える事が出来ます》


 はい?

 母体と分体を入れ替える?

 って、そうかぁぁぁぁ!

 そう言えばその手があったかぁ!!


 僕は当初から、分母転換というスキルを取得している。

 今まで使用する場面がよく分からなかったけど、使うならこのタイミングしかあり得ない!

 この手なら宿主が黒焦げになってしまっても、何とか母体は逃げ切る事が可能だっ!!


《警告! 警告!》


 はうあっ!?

 またぁ!?


《マスターにかつてない危険が迫っています!

 即座に撤退行動を取って下さい!》


 え、ガルーダが現れた時よりも、警告が激しいんだけど。

 これ以上の驚異とか、いったい何が現れ――――。





「ガルーダよ。

 どうやら愚かな人間達を、追い詰めたようですね」





 ――――と、そんな時だった。

 あれ? この可愛い声、何処かで聞いた事が……。


「ひっ……あ、あ、あんたはさっきの……?」


「だ、だ、だ、堕天使アイアゲートぉっ!?」


「はぁ。はぁ。

 巫山戯ないで下さい。

 私の故郷を穢して、逃げられるとでも思っているのですか?」


 って、アイアゲートちゃんっ!?

 え? なになに!?

 何が起こっているの!?

 いまいち状況が把握出来ないんだけど!?


「あっ……ひっ……許し……」


「はぁ……はぁ……。

 嫌です。絶対に許しません。

 貴方達が犯した大罪、死をもって償わさせてあげます」


 って言うか、アイアゲートちゃん、めっちゃ怒ってるんですけど!

 大罪を犯したって聞こえたけど、この人間、いったい何をやったのっ!?


「ガルーダよ。

 彼等が逃げ出さない様に、このエリア全てに炎を吐きなさい」


「キェェェェェェェェェッ!!」


「うわぁァァァッ!?」

「助けてくれぇぇぇっ!!」


 ぬおおおおおおおっ!?

 い、いきなり宿主の体が燃える様に熱くなりやがったぁぁぁっ!?

 いやこれ、燃える様にじゃなくて、本当に燃えてるんじゃないのっ!?


 あまりに激しい熱に耐えきれず、分体が次々と消滅して行く。

 あかん! これは無理だ!

 分母転換だっ!!

 さっき創造主の記憶が教えてくれた通り、母体とオークの体に居る分体を入れ替えるよっ!!

 

《承諾。マスターと分体を入れ替えます》


「はぁ……。はぁ……。

 あ、あれ? この気配、エンザ・インフルさん……?」


 体がプルプル震えだしながら、徐々に透過して行く。

 頭の中にキーーンという音が聞こえて来て、目の前が真っ白になって行く。

 うん。この分母転換って、傍から見たら勇者に倒されたモンスターの消え方みたいになっているかも。




《ステータス》

名前:なし

種族:インフルエンザウィルスO型(母体)

スキル:風邪E・増殖E・突然変異・分母転換・浮遊F・感染F・生殺与奪

所持細胞:堕天使・ヒト

分体数:0.6/10,000(単位:万) 


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