第13話 戦略的撤退


 ううん……。

 ここは何処だろう……?

 えっと。僕はどうしたのだっけ?

 確か人間を宿主として寄生して、そうしたらガルーダに襲われて……。


 っ!! ガルーダ!?

 そうだ思い出したっ!!

 僕はガルーダに襲われて、オークの死体へ逃げて来たんだ!


 先程まではガルーダの吐いた炎で周囲は熱く、寄生していた宿主は取り乱していた。

 だけど今の温度はとても涼しく、宿主の声も聞こえない。

 これは……分母転換が成功して、ガルーダから逃げ切れたのか?


《肯定。母体の分体の入れ替えは成功しました。

 現在、母体はオークの死体に居ます》


 うっすらと視界が戻って来る。

 すると我が分体がのんびりと浮かんでいるのが見えた。


 おお……。

 助かったか……。

 ちょっとホッとしたよ。

 って言うか、さっきのは何だったんだ?


《ヒトを宿主として寄生したら、その宿主はガルーダというモンスターに追われていました。

 そのガルーダの後に、激怒しているアイアゲート嬢が追いつきました。

 アイアゲート嬢はガルーダに命令をして、一面を炎に包みました。

 結果、マスターはその炎に耐えきれず、分母転換にて逃走しました》


 あーうん。

 その通りだね。

 でも何でアイアゲートちゃん、怒っていたんだろう?

 僕の中では優しそうで、そう簡単に怒りそうにないイメージなのに。


《アイアゲート嬢はヒトに対し、私の故郷をが穢したとも、犯した大罪を死をもって償わせるとも、言っていました。

 ここから推測するに、この神殿は堕天使アイアゲートに縁のある地だった。

 そしてあの人間達はそれを知らずに、神殿に住み着いていた、ないし荒らしていたのではないでしょうか》


 あー、そうかも。

 さっきの人達って、体に入れ墨だらけだったし、盗賊っぽかったもんね。

 確かにそういった理由が真実なら、優しそうなアイアゲートちゃんが怒るのも、無理ない話か。


《今後の方針はどうしますか?》


 うーーーーん。

 どうしようかなぁ?


 直近の目的は人型になる為、増殖を繰り返す事だし、再び増殖で良いのじゃないかなあ?

 そういやさっき寄生していた人間の細胞を手に入れたよね?

 突然変異は可能なのかな?


《回答:不可能です》


 ……ぱーどん?

 え? 何で?


《ヒト、及び堕天使の細胞を保有していたのは、分母転換で分母を入れ替える前の旧母体です。

 現在の新母体は、何の細胞も保有していません》


 え? は?

 はぁぁぁぁぁ!?


 っていう事は、突然変異を起こす為の細胞って、さっきの人に寄生していた旧母体が保有したままなの!?

 今の僕はオークの体に寄生させていた分体をベースにしているから、アイアゲートちゃんの細胞とかも、旧母体が持ったままなの!?


 ちょ、ちょっと確かめて見る!

 ステータス開示っ!




《ステータス》

名前:なし

種族:インフルエンザウィルスO型(母体)

スキル:風邪E・増殖E・突然変異・分母転換・浮遊F・感染F・生殺与奪

所持細胞:なし

分体数:0.5/10,000(単位:万) 




 ノォォォォォォっ!!

 マジだったぁぁぁっ!!

 所持細胞がなしになっているぅぅっ!!


 何だよそれ!

 せっかくヒトの細胞を手に入れたと思ったのに、それが失われてしまうなんてっ!


 いや、ヒトの細胞はまた手に入る可能性も高いから、そこまで惜しくない。

 惜しいのはアイアゲートちゃんの細胞だ。

 堕天使の細胞なんてそう滅多に手に入るものではないし、あれを無くしたなんて本気で惜しい。


《回答:人間に寄生していた一部の分体は、ガルーダの炎に包まれながらも、生き延びている可能性があります》


 は? 何で?

 って言うか、その生き残っている分体って、堕天使細胞を所持している旧母体なの!?


《その通りです》


 まじかっ!!

 不幸中の幸いだっ!!


 そうか……。

 旧母体はあの炎の中、どうやったか知らないが、生き延びているのか……。

 直ぐに細胞を回収しに行きたいけれど、あのエリアは炎に包まれているんだよね?


《炎に包まれているかはともかく、高熱である事は間違いないでしょう》


 むむむ。そうか……。

 あのエリアは炎に包まれているのか……。

 いやでも、炎に包まれながら生きている分体が居るぐらいだから、ひょっとして僕も炎に強いとか?

 とんでもない高熱でも、平然と出来るとか?


《しません》


 ぐはっ!!

 人生そんなに甘くないか。

 と言う事は、その分体が生き残っているのは、やはり例外的な事情なんだろうな……。


《直近の目標を、人型への変化から、堕天使細胞を取り戻す事に変更しますか?》


 するよ。

 目標を変更する。

 勿論、現在の目的は人型に成る事だが、堕天使細胞を諦めるのは惜しすぎる。

 どうにかして、旧母体が持つ堕天使細胞を回収する事を目標にする。


《了解しました》


 さて。

 これで直近の目標が変更された。

 だけど、具体的にどうしたらあのエリアに居る旧母体に接触して、細胞を回収出来るのだろう。

 やはり炎から身を守るスキルとか、そういったのが必要なのだろうか?


《オークの死体に残した分体の経験値を、ステータスに反映しますか?》


 え? 何が?

 それどういうこと?


《母体である貴方は、オークの死体に残した分体に新たなスキルを習得出来るか、色々試すよう指示を与えていました。

 その結果を反映しますか?》


 あー? あー、あーあー!

 そんな事、言っていた気がする。

 えっと、何かスキルとか覚えたの?



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