第14話 懐かしい人

《オークの死体に残した分体の経験値を、ステータスに反映しますか?》


 え? 何が?

 それどういうこと?


《母体である貴方は、オークの死体に残した分体に新たなスキルを習得出来るか、色々試すよう指示を与えていました。

 その結果を反映しますか?》


 あー? あー、あーあー!

 そんな事、言っていた気がする。

 えっと、何かスキルとか覚えたの?

 うん。分体の経験値をステータスに反映するよー。


《承諾。経験値をステータスに反映します》





《ステータス》

名前:なし

種族:インフルエンザウィルスO型(母体)

スキル:風邪D(New)・増殖C(New)・突然変異・分母転換・浮遊E(New)・感染E(New)・生殺与奪

所持細胞:なし

分体数:0.5/10,000(単位:万) 




 おお?

 いろいろスキルがレベルアップしたぞ!?

 ……って、あれ?

 い、今気付いたけど、分体がメチャクチャ減ってるじゃんっ!?


 最終的に4万体くらいは増殖出来た筈なのに、これってオークの死体に残した分体の数と同じだよね?

 人間に寄生して増やした分体って、どうなったのさ。


《現在もヒトに寄生したままです》


 うごごごご。

 なんてこった。

 でも人間に寄生していた一部の分体は、ガルーダの炎に包まれながらも、生き延びている可能性があるんだよね?


《恐らく、全ては生きていないです》


 がーん。

 何てこった……。

 かなり良いペースで増殖出来ていたのに。 

 スキルは強化されたけど、細胞は無くすわ分体数は減らすわ、これじゃあ元の方がマシじゃん。


《おめでとうございます》


 はあ? 何で!?

 何でこのタイミングで祝福の言葉をかけるのさ!


《風邪のスキルランクがDランクになりました。

 さらに私の見込みでは、あと少しでCランクが上がると思われます》


 え? あ? なに?

 風邪のランクが上がる?

 風邪のランクに上がったらどうなるのさ?


《回答:例えばAランクまで上がると、有機物と成り得るほぼ全ての生物に、風邪を発症させる事が可能になります》


 ほー。

 つまり燃やしたら二酸化炭素が出たり、炭になったりする生物なら、ほぼ全てに風邪をひかせれるって事か。

 でも無機物と成り得る生物って、居るん?


《金属生物などのモンスターが代表的です》


 金属生物って、そんなのが居るんだ……。

 あーでも冷静に考えたら、雲のモンスターとか、影のモンスターとか、水のモンスターとか、はたまた幽霊とか、風邪をひきそうにないモンスターって結構居るかぁ。

 でもそれ以外の生物なら、ほぼ全てに風邪をひかせれるって、以外に強いのかも……?


《かなり強いです。

具体的には、HP減少、MP減少、SP減少、発熱、呼吸困難、朦朧、物理攻撃低下、物理防御低下、魔法攻撃低下、魔法防御低下、素早さ低下、知力低下、回復力低下、バフ解除、デバフ倍加、耐性弱化などが一度に生じます》


 お、恐ろしいな。

 それって既に風邪ってレベルじゃねーぞ。

 これに生殺与奪とか組み合わせたら、いったいどうなるんだ?


《有機物と成り得るほぼ全ての生物を、即死させる事が可能です》


 あ、悪魔かっ!

 気がついたら棚ぼた式に、凄い成長を遂げようとしている様な気がする。

 でもオークの死体に分体を残しただけで、何故風邪のランクが上がりそうなん?


《死亡した肉体は、微生物が分解して行きます。

 オークの死体に残された分体は、その微生物を相手に戦い、大量の微生物にインフルエンザを感染させました》


 え? なんなのそれ。

 微生物ってインフルエンザとか患らうの?

 相変わらず、この世界の疫学は良くわからんな……。


「……おいビビバ。大丈夫か……?」


「大丈夫なんかじゃ無いべ……。

 この神殿が堕天使アイアゲートの故郷とか、本当に悪夢だど……」


 おっと。

 下層部からまた人間の声が聞こえてきた。

 と言うか、どれだけの数の人間がこの神殿に入って来ているんだ?

 今日だけで、かなりの人と遭遇している様な気がするんだけど。


「ラリマーはともかく、助右衛門は大丈夫だべかな……」


「……わからねぇ。

 やっぱり、この依頼は受けるべきじゃなかった。

 クソ……。すまねぇ……。

 完全に俺のミスだ……」


 って、あれ?

 この声、何処かで聞いた事が有る気がする。

 どこだったっけ?


「……あ? 何だ……?」


「ソーダライト、どうしたど?」


「誰かに見られている気がする……」


 ソーダライト?

 この男の主はソーダライトって名前なのか?

 そいうや、僕がこの世界に転生して目覚めた時の宿主って、そんな名前じゃなかったか?


《肯定。マスターがこの世界に転生して来た時の宿主の名前は、ソーダライトと言う名のヒトでした》


 あーやっぱりそうだったか。

 この人って、僕がこの世界に転生して目覚めた時の宿主だ。 


 分体をオークの体外に出して、視界を母体に共有させて、二人を眺める。

 ソーダライトと呼ばれた男性は口調こそ荒いが、顔は爽やかなイケメンである。

 年齢は20歳前後だろうか。

 歌って踊れる某アイドルグループとかに所属していても、不思議ではない容姿だろう。


 青色に鈍く光る鎧を装備しており、素人の僕から見ても高価な鎧である事がわかる。

 また背中には二本の剣を背負っており、この鞘も青で統一され、鎧と同じ素材に見える。


 何だか強そうな人だな。

 この人って剣士なのかな?


「オークの死体が有るべ。

 なあソーダライト。

 もしかしてこのオーク、まだ生きていて、その視線を感じたとかでねえか?」


「いや違う!

 こいつじゃねぇ!」


「オークじゃないって……。

 別に誰もいないベ。

 気のせいでねえか?」


「いや、絶対にここに何かいやがるっ!!

 ビビバは気付かねぇのかっ!?」


 他方、ビビバと呼ばれた男はフルメイルを装備し、巨大な盾を持ったザ・戦士って感じの野郎で、喋る言葉な凄い訛りがある。

 ソーダライトが剣士なら、多分この人は盾役なんだろうだね。

 まーでも、こんな場所この人に出会うなんて、奇遇だなぁ。

 これはこのソーダライトってのに寄生しろっていう、神のお告げかな?


(おいっ! そこのクソ野郎っ!!)


 ファッ!?

 えっ!? なになにっ!?

 急に頭の中に男性の声が響いた。

 何があったの!?


(姿は見えねぇが、俺達以外の魂がそこに居る事くらい、普通にわかるんだよっ!!

 テメェ何者だっ!!)


 え、この声って、今僕の目の前に居る、ソーダライトの声なのか!?

 これってまさか、チャネリングなの?

 アイアゲートちゃんが直接頭の中に話しかけてきた時と、全く同じじゃん!

 この人、僕の事を認識できているの!?


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る