第15話 インフルエンザと魔法剣士①
(姿は見えねぇが、俺達以外の魂がそこに居る事くらい、普通にわかるんだよっ!!
テメェ何者だっ!!)
え、この声って、今僕の目の前に居る、ソーダライトの声なのか!?
これってまさか、チャネリングなの?
アイアゲートちゃんが直接頭の中に話しかけてきた時と、全く同じじゃん!
この人、僕の事を認識できているの!?
(俺はクラン天上天下の副リーダー、魔法剣士ソーダライトっ!!
早くテメェも名乗りやがれっ!!)
どうしよう?
問いかけに応答するか?
でもこの人達が悪人とかだったら、どうしよう?
いやまあ悪人でも、炎とか水とか放たれない限り、害はない筈だけど。
(いい加減返事しやがれクソ野郎っ!!
このまま無言を貫くつもりなら、こっちにも考えがある!
ここら一帯を水浸しにして……)
(のわぁぁぁぁぁっ!!
何でいきなりそんな事を言うかなぁっ!!
こっちは虚弱体質なんだぞっ!!)
(やはりいやがったかクソ野郎っ!!)
あーもうこうなりゃヤケだ!
イザとなったらまた分母転換で逃げれば良い。
毒を食らわば皿までだっ!!
(何者だテメェはっ!!
何故、姿を隠していやがるっ!?)
(か、隠してなんてないってのっ!!
君が僕を視認出来ないだけだっ!
僕は君の目には見えないくらい、小さい生物なのっ!!)
(小さい生物……?)
酷い既視感を感じる。
彼等はいったい何者なのだろう?
僕の事を認識出来る存在は、アイアゲートちゃんの例に続き、2例目だ。
でも、アイアゲートちゃんの時は僕の事を認識してくれた事が非常に嬉しかったのだけど、今回はあまり嬉しくない。
……まあ、むさ苦しい野郎だし……。
差が出るのは仕方がないと思う。
◇
(ふーん?
それでテメェは風邪の精霊だと。
そういう解釈で良いんだな?)
(うん。そういう解釈で構わないよ)
30分程の時が流れた。
ソーダライトとか呼ばれる人間に、取り敢えず僕が何者なのかを伝えた。
アイアゲートちゃんの時は、僕がこの世界に来てからの経緯を事細かく伝えたけど、今回は適当にしか伝えなかった。
だってさ、僕は何もしていないのに、姿が見えないという理由だけで殺されかけたんだよ?
そんな柄の悪いDQN相手に、詳細な情報を渡したくない。
ゆえに僕は自分の事をインフルエンザウィルスと伝えずに、風邪の精霊と名乗った。
……うん。名乗った後に気付いたのだけど、案外的を得ている様な気がする。
違和感が無いのは何故だろう?
「なあ、ソーダライト。
本当にここに高次元の存在とやらが居るべか?
ちっと信じられねえんだべが……」
「居るぜ。
何でも、風邪の精霊らしい」
「か、風邪の精霊!?
そんなの存在するんだべか!?」
「存在する……みてぇだな。
現実に今俺と話してやがるしよぉ」
ふむ。取りあえずは僕の言う事を信じてくれたか。
もし信用してくれなければ、どうしようかと思った。
普通なら風邪の精霊とか言われても、眉唾だろうしね。
(で、君らは何者なのさ?)
(あん? 見たらわかるだろーが)
(僕は精霊だから人間界の常識には疎いんだよ)
(ふーん。そういうものなのかよ)
精霊だから人間界の常識に疎い事にするっていうのは、咄嗟の思いつきだ。
実際に僕はこの世界の常識に疎いし、こう言っておけばあまり物事がわからなくとも、不審には思われないと思う。
(俺は冒険者だ。冒険者はわかるか?
天上天下ってクランでリーダーやってる)
(冒険者かぁ)
(知っているのか?)
(うーん、なんとなくだけどね)
ゲームに言う冒険者と、この世界の冒険者の定義が同じであるのなら、だけどね。
となると、さっき僕が発病させた柄の悪い宿主も、冒険者なのかな?
(キェェ…………ェェ……ェ……)
(うん?)
「ちっ!! ガルーダかっ!!」
「ソーダライトっ!!
早く隠れるどっ!!」
げっ!
ガルーダがこっちに向かって来ているのか!?
ちらっとソーダライトを見ると、岩場の影で、ビビバって呼ばれた戦士の盾に隠れてしまっている。
おおお。やばい!
僕も再びオークの死体に寄生して、ガルーダをやり過ごさなくては。
《オークの死体に寄生するのは危険です。
もしガルーダが炎を放った場合、オークは既に死亡しているので、回避や防御が出来ません》
ごもっともな意見でした。
確かに、もしガルーダが炎を放ったら、オークは火葬されてしまう。
すると僕が逃げるべき場所は、一つしかない。
「ゲホゴホッ!!」
「なんだべ!?
ソーダライト、どうしたべぉ!?」
「わ、わからねぇ……。
急に喉がイガイガしてきやがった」
という訳で、ここはソーダライトを新たな宿主として、寄生させてもらった。
選択肢が少ない以上、仕方がない。
彼は高価な鎧とか装備しているし、オークの死体よりかは遥かにマシだろう。
(おい風邪の精霊っ!!
テメェ何かやりやがったなっ!?)
(うん?
そんな大した事やってないよ?)
(本当に何もやってねぇんだなっ!?)
(しつこいなぁ。
だから、そんな大した事やってないって!)
インフルエンザを移された程度で、そこまで怒らないで欲しいなあ。
ちゃんと生殺与奪のスキルも、切ってあるしね。
《新たに寄生した宿主の免疫が、迫って来ています。
戦いますか?》
あー、免疫かぁ。
うん、戦うけど、基本的には分体に戦わせて、母体の僕は一歩引いて外部の状況に気を配っているよ。
だけど、免疫を倒しても、インフルエンザは発症させないでね。
今ここで宿主にインフルエンザを発症させたら、ガルーダからの守りが弱くなっちゃうからね。
《承諾。では免疫を倒したとしても、症状を発症させる事無く、しばらく宿主に潜伏します。
但し、現時刻より24時間が経過後、自動的にインフルエンザが発症しますので、注意して下さい》
おお?
これが潜伏期間か。
了解。24時間ね。
覚えておくよ。
「ソーダライトっ!!
来るどっ!!」
「天なる水を管理せん龍神達よ!
我の周囲に流水の障壁を展開したまえっ!!
ウォーター・アーマーッ!!」
あれ?
ソーダライトが何か魔法らしきものを詠唱したかと思うと、急に周囲の音が静かになって、聞こえなくなった。
外はどうなっているんだろ?
今僕はソーダライトの体内に寄生しているので、外界の様子が今一わからないなぁ。
《回答:この人間は水魔法を詠唱し、自身の体を水で包み込みました。
恐らくガルーダの炎対策なのでしょう》
なるほど。
つまり今この宿主は水の鎧に包まれている訳だ。
ゆえに周囲の音がある程度遮断されて、聞こえなくなったのか。
「キェェェェェェェェェッ!!」
(ゴボゴボゴボゴボっ!!
あ、あああ、あついどぉぉ……ゴボゴボッ)
(ゴボゴボッ!!
ちっ!! 水が熱湯に……ゴボゲバッ!!)
ちょっ!!
それでも宿主の体が、かなり熱くなって来たんですけどっ!!
これどうなっているのっ!?
《ガルーダは体に炎を纏いながら、飛翔します。
ゆえに彼等の周囲を包んでいる水が、熱湯と化してしまったのでしょう》
ガルーダ怖ぇぇぇぇっ!!
このモンスター半端ないなっ!!
これだけやばいモンスターでありながら、アイアゲートちゃんの眷属でしかないんでしょ?
まさかアイアゲートちゃんって、ガルーダよりも強いの?
《比べ物にならなりません。
堕天使アイアゲートが本気になれば、ガルーダを一瞬で消滅させる事も可能でしょう》
マジか……。
あの子、そんなに怖い存在だったんだ……。
かなりイメージが変わりそうなんだけど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます