第19話 依頼①

 何だかまた胃が痛くなって来やがった。

 こいつら3人とも気の良い奴らなんだが、しいて欠点を言うなら、一緒に居ると胃が痛くなる事だな。

 頼むからテメェら、ちょっとは自重してくれ。


「報酬は金貨100枚で御座るか。

 かなり高額で御座るが、ダンジョンの調査は畑違いであるな。

 この依頼は却下で候」


「あたしも受けないわ。

 あの神殿はレンジャー泣かせで、面倒くさいもん」


「オラも受けないべ。

 折角ソーダライトの風邪が治って、貴族の護衛に復帰しようって所だど?

 調査とか興味ないべ」


 まあ、俺達はずっと人的警備専門でやって来たからなあ。

 ダンジョンに籠もるとか、今更やりたく無いってのは、凄く理解出来る。

 だが……だが、だ!


「実は……な。

 この依頼、俺の一存で、受けちまったんだ……」

 

「「「……は?」」」


「いやだから、俺の一存で……」


「「「依頼を受けただとぉぉっ!?」」」


「うおっ!? 大声出すなよっ!!」


 周りで飲んでいた他の冒険者達が、何事かとこちらに振り向く。

 あーあ。机にエールを溢して、ビショビショになっちまったよ。

 しかもコップが割れちゃってやがるし。


 せっせと雑巾で机を拭きながら、他の冒険者に頭を下げる。

 って言うか、何で俺1人で机を綺麗にしているんだ?

 誰か手伝ってくれよ。


「ちょっとソーダライトっ!!

 何を勝手な事してるのよっ!!」


「そうだべっ!!

 リーダー不在の間は、依頼の諾否は多数決で決する筈だどっ!」


「そうで御座るぞっ!!

 ソーダライト殿は、我らを蔑ろにするつもりかっ!?」


「わ、悪ぃと思ってるよっ!!

 だがギルド長が直々に話を持ってきやがったから、断りきれなかったんだよっ!!」


 ああくそっ!

 案の定、皆が俺に怒りの目を向けてきやがった。

 でもよ、これは仕方がなかったんだ。

 俺もこんな畑違いの依頼なんて、受けたくなかったっての!


「ギルド長が直々って……まさかソーダライト殿。

 先日の違約金を口実に、押し切られたのではないでござろうなっ!?」


「そのとおりだよチクショウ!」


 ギルドから依頼を受けた際、依頼が失敗した時は、違約金という名の罰金が発生する。

 先日、俺達はいつも通り商隊の護衛を受けていたのだが、俺達の都合で依頼を解除してしまったのだ。


 その結果、商隊は護衛がいなくなって、流通に遅延が発生した。

 その損害を補填する為、俺達は莫大な違約金を払う羽目になってしまったのだ。


「ほら……先日の依頼解除で、商家に支払う違約金を、ギルドから借りただろ?

 ギルド長の奴、この依頼を受けたら、利子をチャラにしてくれるって言うんだぜ?

 そんなの、どう考えても受けざるを得ねぇじゃねえかっ!」


「つまり、全てはソーダライトが風邪を引いたのが悪い。

 そういう話でござるな?」


「そうね。

 馬鹿は風邪をひかないって云うのに……」


「むしろ大事な依頼を前にして風邪をひいたとか、一種の天才……。

 いや、天災じゃねぇべか?」


「黙って聞いてりゃ、言いたい放題言いやがってっ!!

 悪かったなチクショウっ!!

 俺だって好きで熱出した訳じゃねぇよっ!!」


 商家の依頼を解除した原因は、俺が酷い熱風邪を患ってしまった事に起因する。

 あれは依頼の待ち合わせ場所に向かう途中だった。

 数分前まで元気だったのに、突然41℃の熱を出して、道端に倒れてしまったのだ。


 あの時は呪いをかけられた様に、兆候無しに発病しやがったからな。

 運が悪かったとしか思えねぇ。

 俺は足がふらつき歩く事すら出来ず、そのまま仲間達の手で宿に担ぎ込まれた。

 既にこの時点で、連絡無しに遅刻が決定だ。


 その後、残ったメンバーで依頼先に行くか話し合ったらしい。

 結果が、前衛かつ切り込み隊長の俺がいないのは、もし依頼人が襲われた時に守りきれない可能性があると判断して、依頼のキャンセルに至った。


 話に聞くと、依頼先の商家はかなりキレていたみたいだな。

 それも仕方がない。

 約束の時間に現れなかっただけでなく、数時間経過してから、依頼を降りますって連絡入れたからな……。

 完全に俺達は信用を失ってしまい、違約金という名の借金を負ってしまったのだ。


「闇は私達に微笑んだと言う事ね……」


「で御座るな。

 だが考えて欲しい。

 ソーダライトは我々、天上天下の神々の中でも、最弱で御座る」


「鎮まるべ、オラの右眼よ……。

 天女の魂は、冥府の祭壇に捧げられたべさ」


「いやだからよぉ!

 俺の心労が溜まった原因は、テメェらにも有るんだからなっ!!」


 常に中二病の中で生活する俺の気持ちを、察してくれよな。

 恥ずかしいやら疎外感やら、仲間を認めようとする心の葛藤やらで、かなり苦労してんだからな。


 あ、店員さんすまねぇ。

 雑巾有難うな。

 割れたコップは後で弁償するからよ。


「面倒臭いわね……。

 その依頼、今からでも撤回できないの?」


「待てよテメェら!

 この調査は報酬が高額だ。

 しかも借りた金の利子すらチャラになるんだぞ!?」


「それはわかるで御座るが……」


「それに考えて見ろ!

 もし借金の話がリーダーの耳に入ったら、俺達ぶっ殺されちまうぞっ!!」


「「「あっ!!」」」


 天上天下のリーダーは怖い。

 今は所用でここには居ないものの、もし戻ってきたら、絶対に俺達の全体責任を追求して来る!

 あの鬼畜なリーダーに怒られると思うと、恐ろしくて、夜も眠れねぇ……。


「ダンジョンの調査は、確かにいつもは受けない系統の依頼だ。

 だが、リーダーにこの一件が知られる前に、是が非でも借金を返済して、何も無かった事にしてえ。

でねえと俺達、ぶっ殺されるぞ!」


 この一件がリーダー不在の間に起こって、本当に良かったと思う。

 出来るなら、いや絶対に、この失態は闇に葬り去ってみせる。

 その為には、公的な借金など調べれば直ぐに分かる事は、早めに無かった事にしておきたいんだ。


「そ、そうで御座るな!

 この一件は、早めに無かった事にする方が、良いで御座る!」


「さ、賛成っ!!

 原因を作ったのはソーダライトだけど、依頼を取り止める判断をしたのは、あたし達だもんね!?」


「だ、だべなっ!

 オラ急にやる気が出て来てどっ!!

 あ〜あ。早く神殿に行きてえべなぁっ!!」


 お、おお。うん。

 俺が言うのもアレだが、げんきんな奴らだな。

 とは言え、これで依頼を遂行する事の障害は無くなった。

 絶対に俺は、リーダーにぶっ殺されない為にも、借金を返するんだっ!!


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