第20話 依頼②

 満場一致で俺達は依頼を遂行する事に決まった。

 もしこれがメンバーの同意を得られなかったら、俺一人で依頼を受けていた羽目になったからな……。

 ちょっとホッとしたぜ。


「で、依頼内容は神の御神体を探して、持ち帰るで御座るか?」


「ギルド長から直々に話が有ったって、あんた言ってたわよね?

 今回はあたし達に直々に依頼の申込みをして来た訳だけど、その他諸々の条件も、他の冒険者と同じなの?」


「あ? い、いや、条件は少し違う。

 俺達は調査には参加しない。

 タームコームの冒険者は元盗賊とか傭兵とか犯罪者とか、あまり宜しくない出の奴らが多いだろ?

 そいつらの監督役が俺達の仕事だ」


 タームコームの冒険者は傭兵くずれや元盗賊など、依頼を達成する為には人殺しも辞さない、一癖も二癖もある面子で構成されている。

 仲間割れで、刃傷ざたに発展する事も日常茶飯事だ。

 例え依頼の目的物である御神体を見つけても、奴らは盗んでしまう可能性も有るからな。

 ゆえにギルド長は、本国出身で身元がハッキリしている俺達に、奴らの監視役を担って欲しいんだろ。


「ふーん? まあ、話はわかったわ」


「だけど、腑に落ちないで候。

 何故急に、あの様な朽ち果てた神殿を大規模調査するで御座るか?

 その御神体とやらは、それ程までに高価なので御座るか?」


「噂に聞くと、その御神体は宝石で造られているらしいな」


「宝石か……」


「納得だべ。

 あの領主、光モンに目がねぇべからな」


 リガガラ神殿には過去、簡単な調査が行われている。

 だがその時の調査は、モンスターの有無やダンジョンの危険度を図る事が目的であり、神殿内部の部屋を全て探査した訳ではない。

 ゆえに本格的な調査は今回が始めてであり、まさにあの場所は未知なるダンジョンだったりする。


 ……領主の奴、どうせ神殿内にお宝が眠っているって、誰かに入れ知恵されたんだろ。

 でねぇと放置していた神殿に、いきなり大規模調査とか行う訳ねぇもの。


「フフフ……。

 面白くなって来たで御座るな。

 失われた神器を眠りから覚ます事になるとは……」


「あたしの美貌に等しき、神々の涙って訳ね。

 悪魔の嫉妬が、あたしを焦がすわ」


「世界は知っていたべ。

 オラが産まれるより、遥か前に。

 オラの歌が神の墓石でささやく事を」


「だからテメェら、俺が理解出来る言葉で話しやがれっ!!」


 ――――そんなこんなで、俺たち天上天下のメンバーは、リガガラ神殿の大規模調査に同行する事になった。

 俺はこの依頼を楽観的に考えていた。

 特に危険な案件では無く、調査はあっという間に終わるだろう。

 今思えば、それは決定的な誤りだったと断言できるのだが。









(――――とまあ、これがこれがこの神殿に来た理由だな)


 吾輩はインフルエンザウィルスである。

 名前はまだ無い。

 この話を聞かされて思ったのは、ソーダライトって苦労人だなという点だ。


 自分以外のメンバー全てが中二病者って、どんな気分なん……?

と言うか、このビビバってガチムチな戦士、かなりオッサンやん?

 それなのに、まだ中二病を発症してるん?


「むっ! オラの邪眼が反応したべ。

 どうやらその風邪の精霊とやらが、我が御霊に憑依したがっているど!」


(してがってねーよ!

 って言うか、怖っ!

 何なのこのオッサン?)


(こう言う奴なんだよ)


 吃驚するわ!

 何でピンポイントで僕の視線に反応するんだよ。

 その邪眼とやらが本気で存在しているのか、疑わしいわっ!!


(ところで風邪の精霊さんよ。

 俺が何故この神殿に居るのか、わかったか?)


(え? あー、うん。

 いろいろお疲れさま)


 それについては理解出来たよ。

 と言うか、さっき僕が寄生したあの宿主って、冒険者だったんだね。

 ソーダライトの話では、今神殿内に居る冒険者の大半が野盗とか盗賊らしいので、ガラが悪いのも納得いったな。

 あの人達って顔に深い切り傷があったり、入れ墨をしていたり、完全にアンダーグラウンドな人達だったからね。


(それと、んー……)


(んだよ)


(ああ、いや、やっぱりいいや。

 何でも無いから)


(あ? 意味わかんねぇな)


 ソーダライトが熱を出したのは、僕のせいです。

 そう伝えようとして、やっぱり止めた。

 依頼の解約や違約金の発生、それに伴う借入金の借り入れなどについて僕が原因だと伝えたら、彼は絶対にブチ切れる。

 と言うか、たぶん僕でもブチ切れる。


 この事はもう、墓まで持って行くよ。

 うん。ちょっと罪悪感が湧くけど、この一件は無かった事にしよう。


(それでさ、結局のところ、その神の御神体って言うのが、アイアゲートちゃんに関係あるものなんだよね?)


(ああ。このリガガラ神殿は、ゲルンの森に住んでいた原住民、メノウ族が自身らの神を祀っていた場所だ。

 そしてその神と言うのが……)


(堕天する前の、アイアゲートちゃん本人って事かぁ)


 人に歴史ありと言うか、アイアゲートちゃんがそんなに凄い存在だとは、思ってもいなかった。

 いや、確かに堕天使って言うくらいだから、オークの様なしょぼいモンスターよりも遥か上に位置する存在だとは思っていたけど、まさか元神様だったとか……。

 そんな元神様が今や魔王軍の最高幹部で、しかも心臓の病を患っているとか、複雑な人生を送っていそうだよね。


(ちなみに、その御神体って今はどうなっているの?)


(一部分だけなら、俺が持っている。

 今見せてやる)


(お、おお……な、何これ?

 これが御神体? すごい……)


 ソーダライトは腰にぶら下げた巾着袋から、「そんな大きなものをどうやって入れていたんだよ」とツッコミたくなる大きさの御神体を、取り出した。

 いやこれ、包まれていた巾着袋よりも遥かに大きいじゃん!

 もしかしてこの巾着袋、魔道具か何かなの?

 物理法則を無視し過ぎでしょ!


(俺達はこの御神体を見つける為に、この神殿を調査していた)


(これ、めちゃくちゃ芸術品じゃん。

 すっごい高そう……)


(実際に高価だと思うぜ。

 しかも生半可な金額じゃなくて、城とか島とか村とかが買えるレベルだ)


 つまりそれ、日本円に直して少なくとも何百億って価値が有るって事だよね?

 何だよその規格外の宝物は。

 国宝級、いや世界遺産級の宝物じゃないか。


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