第18話 クラン天上天下

 俺の名はソーダライト。

 タームコームの街を拠点にして活動を行う冒険者クラン、『天上天下』の副リーダーだ。


 それは現在から見て、一週間前の出来事だった。

 当時の俺達はリガガラ神殿に近い、タームコームの街に居た。


 この街は南方大陸の北部に位置し、一年を通して熱帯的な気候を有している。

 一歩離れれば深い密林が広範囲に広がっており、病気も蔓延しやすくモンスターも手ごわいという、かなり過酷な地域だ。


 そんな過酷な地ではあるが、悪い話ばかりではない。

 この地はオリハルコンやヒヒイロカネ、アダマンタイト等の鉱石が眠る、ゴールドラッシュの地である。

 ゆえに、過酷な地であっても、他国から転入して来る住人は多い。

 皆、一攫千金を夢見て、わざわざこの地へやって来るのだ。  


「よぉ、ギルドの掲示板、見たかぁ?」


 勿論、その転入して来る住人と言うのは、一攫千金を狙う平民だけではない。

 密林の開拓や鉱石を採掘する為の鉱山内のモンスター退治、又は貴族の私兵として警備を行う等、このタームコームには冒険者が輝ける要素が溢れていた。


「数日前からギルドの掲示板に、リガガラ神殿の大規模調査について、公募が出されるんだけどよ。

 テメェら知っていたか?」


 ゆえに、タームコームの街には冒険者が多い。

 俺達「天上天下」も活躍の場を求めて、中央から移動して来た身だ。

 そして今日も主たる活動する商隊の護衛を終え、仕事上がりのディナーを仲間達と楽しんでいた。

 その時に俺は、リガガラ神殿の話を切り出したのだ。


「ふむ。

 リガガラ神殿でござるか?

 某は知らなかったで御座るな」


 俺の問いかけに、同じクランメンバーである、狩人の助右衛門が意見を返す。

 剣士の俺が前衛で敵を押し込めている際、こいつは遠方から矢を放つ後方支援を担当する。


 後方支援と言っても、助右衛門は鉄の縦をも貫通する矢を、速射で雨の如く降らせる事を得意とする。

 その矢の嵐はまさに数の暴力であり、接近戦に弱いという欠点があるものの、モンスターとの戦いでは非常に頼りに出来る男だ。

 その性格は温厚で、チームの良心であると言えよう。


「それは恐らく、世界の意思て御座ろうな」


「はあ?」


「件の神殿は、暗黒神を祀り幾多の生贄が捧げられた、闇の聖域で御座る。

 ゆえに、あの神殿を白日の下に晒すのは、世界の意思で御座るよ」


 ……但し、中二病者である事を無視すればだが。

 うむ。何言っているかまったくわからん。


「ねえ、何よその大規模調査って。

 誰がそんなの依頼したの?」


「領主だ」


「はあ?

 あの神殿、今までずっと放置してたのに。

 何で今になって、調査なんて言い出すのよ」


 続いて、同じクランメンバーのレンジャー、ララが反応を返す。

 こいつは戦闘職と言うよりも、フィールド支援に特化している。


 旅道具の確保、アイテムの調合、ダンジョンやフィールドのマップ作成、食事の確保や寝床の確保など、レンジャーが行う事は多岐に渡る。

 特にこいつは武具やアイテムの修復や錬金まで行う事が可能で、こいつ1人で邸宅を建築出来るスキルを持っている。

 言わばこいつの担当は、戦闘以外の全てと言っても語弊ではないのだ。


 いくら冒険者が旅慣れていると言っても、野営のプロが居る居ないで、旅の難易度が全然違って来るからな。

 現にララのお陰で、俺達は旅中で飢えた事も、道に迷った事も無い。

 その性格は勝ち気で、チームのお母さん的存在と言えよう。


「エデンの林檎には毒が有るわ」


「はあ?」


「神は告げたのよ。

 神託は蛇の詐術であり、楽園はかの者を永遠に罰するってね。

 領主はエデンの林檎に侵された、愚者だと嘆くでしょう」


 ……但し、中二病者である事を無視すればだが。

 うむ。何言っているかまったくわからん。

 俺の理解出来る言葉で喋ってくれねえかなあ?


「調査だべか……。

 その依頼書は何が書いてあったべか?

 写しは貰ってきていないべか?」


「えっとだな……読み上げるぞ?

 冒険者等100人をもって、リガガラ神殿の調査を行う。

 目的は当該神殿に祀られていた、神の御神体を発見し、可能なら持ち帰ること。以上だ」


「神の御神体?

 あの神殿にそんな物が残っているなんて、初耳だべ」


「その筋の者にとっては有名な話らしいぜ?

 まあ、俺も初耳な訳なのだが」


 依頼の詳細を尋ねてきたフルメイルのこの男は、クランの盾役、重戦士ビビバだ。

 こいつは武器を装備せず、両手に盾を装備した完全な盾専であり、敵からのダメージを一身に引き受ける役を担う。


 ビビバは物理攻撃であるなら、ほぼ完全に無効化出来る。

 剣だろうが槍だろうが弓だろうが、弾き、反らし、受け止め、反撃として武器破壊を行う。


 あまり盾専はお目にかかれねぇ、珍しいクラスとされるが、商隊を守る依頼を専門にしている俺達にとっては、ビビバの存在は重要だ。

 こいつが居るからこそ、俺達は今まで怪我という怪我をしていないのだ。

 その性格は男らしく、チームのお父さん的存在と言えよう。


「その祝詞は穢れているど」


「はあ?」


「御神体は我が半身を映し出す黄泉の鏡だべ。

 唱えられるは呪詛に穢された祝詞であり、神はその依代に闇を封じたべ」


 ……但し、中二病患者である事を無視すればだが。

 うむ。何言っているかまったくわからん。

 俺の知っている言語で良いのよ?


「闇の掟で御座ろうが……」

「いえ、神の涙は……」

「世界の意思だども……」


 1ミリも理解出来ない会話が、目の前で展開される。

 うむ。そうなのだ。

 なんとなんと、俺は俺以外の主要メンバーが中二病と言う、恐ろしいクランで活動しているのだ。


 ぶっちゃけ俺には、こいつらの喋っている意味が、難解過ぎてわからん。

 こいつら、酷い時なんて1時間以上も中二病を発病しているから、すげぇ疎外感を感じる時がある。


 ぐ……。やべえ。

 何だかまた胃が痛くなって来やがった。

 こいつら3人とも気の良い奴らなんだが、しいて欠点を言うなら、一緒に居ると胃が痛くなる事だな。


 頼むからテメェら、ちょっとは自重してくれ。


 

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