第17話 インフルエンザと魔法剣士③

 で……だ。

 ヤハウェならどうする?

 このソーダライトって奴のお願いを、受けた方が良いと思う?


《回答:思います》


 ほう。

 そのココロは、アイアゲートちゃんの細胞を取り戻せるから?


《肯定。堕天使の細胞はかなり貴重です。

恐らく、マスターが彼女に再度頼んでも、次は細胞を貰えないでしょう》


 は? そうなの?

 いや、何となくそれは薄々感じていたけど、何で?


《初対面で自身の細胞を分け与える事が奇跡に近いです。

 紛失したからと言って、簡単に手に入るものでは無いです。

 細胞を失くした事が知れると、彼女はマスターの事を、その程度の存在だったと思うのではないでしょうか?》


 あー、だよね。

 そりゃそうだよね。

 初対面の人に自分の細胞を分け与える事がまず奇跡だよね。

 大根やキャベツと違うんだから、失くしたからと言って、新しいのを直ぐに貰えるとは思わない方が良いよね。  


《ゆえに、ソーダライト氏の懇願を承諾するのは、賛成と言えるでしょう》


 なるほどね。

 言われてみればごもっともなコメントだ。


《ですが、ソーダライト氏の詳細な素性、目的などは聞いておくべきです。

 いくら堕天使細胞が惜しいとは言え、彼が悪人なら話は別です。

 悪の道に手を染める事は、マスターの霊格を下げる事になります》


 あー、うん、そうだね。

 いやもう、本当にそうだと思う。

 って言うか ヤハウェって本当に頼りになるなぁ……。

 君は一体、何者なの?


《ですので、マスターを創造した創造主の記憶が、私です。

 マスターは成長の段階に応じて、創造主の記憶にアクセスできる権限があり、その橋渡しをするのが私です。

 それ以外の何者でもありません》


 うん。知ってた。

 まあ、創造主が誰かとか、何で僕がインフルエンザウィルスなのかとか、いろいろ突っ込み処は満載なんだけど、今は頼りにしてるよ。


(なあ? 精霊さんよ。

 どうなんだ? 手を貸してくれるのか?)


 おっと。

 ソーダライトへの返答を忘れてた。

 もうちょい、こいつの素性とか目的とかを詳しく聞けば良いんだっけ?


《肯定》


 よし、わかった。

 えっと、じゃあ……。


(あのさ、ソーダライト?

 手を貸すか、貸さないかだけど)


(おう)


(目的は?)


(あ?)


(だから、目的は?

 君達がこの神殿に居る目的はなに?

 それを聞いて決めるよ)


 確かにヤハウェの言う通りなら、ソーダライトに手を貸すのは、僕にとってメリットがある話なのかもしれない。

 だけど、これもヤハウェの言う通り、先ずはこいつの目的を知らなければ、手を貸すなんてあり得ないよね。

 もしこいつが悪人だった場合、知らずに手を貸して、アイアゲートちゃんに嫌われちゃっても困るからね。


(…………)


(どうしたの?

 話せないの?)


(いや、話す。

 ちゃんと、目的は話す。

 俺達はリガガラの街を拠点にする冒険者で……)


 そうして僕は、何故ソーダライト達がこの神殿に居るのか、その理由を聞く事になった。

 その結果、「呪われてるんじゃね?」ってな程に、こいつは運の悪い男だと言う事がわかった。







 俺の名はソーダライト。

 タームコームの街を拠点にして活動を行う冒険者クラン、『天上天下』の副リーダーだ。


 今俺達はリガガラ神殿にて、ちょっと笑えない状態に陥っている。

 と言うのも、俺達はこの神殿で魔王軍八部衆の1柱、堕天使アイアゲートの怒りを買ってしまったからだ。

 但し、今は堕天使の魔の手から、かろうじて逃げ失せる事が出来た。

 その最中に、俺達は思いもよらない奴と出会う事になったのだ。


(なあ、風邪の精霊よ!

 お願いがある!)


(えっ!? 何だよ急に!?)


(俺達が生きてリガガラ神殿から逃げれるよう、堕天使アイアゲートの怒りを収めてくれないかっ!?)


 ――――風邪の精霊。

 正直、その正体を聞いた時は、狐につままれた感じだった。


 姿は見えない。

 だが気配は感じる。

 そんな存在がいるのかと、最初こそ疑心暗鬼になってしまったが、こうやって意思疎通が出来ている以上、信じるしか手がない。


(頼むっ!!

 出会ったばかりでこんな事を言うのは、厚かましいと思うが、頼れるのは、あんたしかいねぇんだっ!!)


 そして……だ。

 この風邪の精霊は、聞くところによると、堕天使アイアゲートと知り合いらしい。


 堕天使アイアゲートは強い。

 あんな化物と戦う選択肢は、始めから無い。

 ゆえに俺は、その風邪の精霊に恥も外聞も捨てて、堕天使アイアゲートの怒りを収めてもらうよう、仲介役を頼んだ。

 情けない話だが、そうするしか俺達が生き残る手段はないんだ。

 これは俺にとって、1つの賭けだった。


(あのさ、ソーダライト?

 手を貸すか、貸さないかだけど)


(おう)


(目的は?)


(あ?)


(君達がこの神殿に居る目的はなに?

 それを聞いて決めるよ)


 目的は……まぁ、言わなきゃ駄目だよな。

 普通はこんな依頼を持ちかけているのだから、この神殿で何があったのかを伝えた方が良いとは思う。

 だが、もし真実をいろいろと伝えて、精霊さんが引いてしまったらどうしようかとも思う。

 どちらが正確なのだろう。

 話す方が良いのか、駄目なのか、どちらが良いのだろう。


(…………)


(どうしたの?

 話せないの?)


(……いや、話す。

 ちゃんと、目的は話す。

 俺達はリガガラの街を拠点にする冒険者で……)


 ……まあいい。

 取り敢えずは精霊さんの信頼を得る為に、ある程度の事を話した方が良いだろう。

 本当に駄目な部分は、今回は伝えない方が良い。


 そうして俺は、何故俺達がこの神殿に居るのか等、話して差し支えない部分について、語る事にした。

 この神殿に来る事になった理由を語るには、数日前に起こった出来事まで、遡る必要がある。

 それは現在から見て、一週間前の出来事だった。

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