病魔の王と堕天の姫君 〜インフルエンザウィルスに転生したのですが、頑張って生きて行きます〜

祐紀

第1話 プロローグ

 気が付くと、僕は暗闇の中に居た。

 周りに光源はまったくなく、ゼエゼエと病人のような声が響く。


 あれ? ここどこさ。

 確か営業車でのルート営業中、あまりの怠さにサボろうとして、コンビニの駐車場で寝ていたはずなんだけどなぁ。


 やたら周りが暗いので、日が落ちたのかなー? ――――と思って腕時計を見ようとしたら、何故か時計が消えていた。

 いや、時計が消えていただけならまだしも、腕そのものが消えていた。

 ……僕、寝ぼけてる?


「ゴホッ!! ゴホッ!! ゴホッ!!」


 うわっ! 吃驚した!

 何じゃこりゃ? 地震?


 僕が居る場所が大きく揺れて、大音量の咳みたいなものが聞こえてきた。

 これどうなっているの!?


(ちょっと、ソーダライト!

 あんた凄い熱じゃない!

 大丈夫!?)


 今度は少しくぐもった女性の声が聞こえてきた。

 ジタバタともがいてみるが、何故か体が動かせない。

 え? 意味がわからん! 

 今の僕はどういう状況に置かれているんだ!?


(熱以外に、何か症状はある?)


(……咳に鼻水、筋肉痛に頭痛、あとは倦怠感が凄い……)


 なんかまた声が聞こえてきたけど、今はそれどころではない。

 再度、時間を確認する為にスマホが入ったカバンを捜そうとした。

 捜そうとしたが、そもそも手が無くなっている訳でありまして、もちろん見つかる訳がなかったりする。

 声を出そうとしてもまったく出ないし、これは夢か!? 夢なのか!?


(最近はモンスター討伐で体を酷使し過ぎているからなぁ……。

 おいメイ。

 魔法で状態異常を起こしていないか、見てくれないか?)


(わかったわ。

 彼の者の状態が異常を起こしているのなら、その原因を浮かび上がらせよっ!

 スキャナアイっ!)


 外から呪文みたいな声が聞こえたと思ったら、急に周りが明るくなってきた。

 何だよ!

 ちゃんと光源があるじゃん!


 え? でもさ、これって何が光ってるの?

 太陽でも蛍光灯でもLEDライトでも無い。

 何だか嫌な予感が……。


 自分の身体に何が生じているのか不安になり、身体を目視する。

 するとまるで空中で宙返りしたかのように、視線がクルンと一周して、元の位置に戻ってきた。


 ……ほわっつ?

 えっ!? 待って待って!?

 ぼぼぼ、僕さぁ!?

 手も足もなくなって、みみみ、緑色の球体になっているんだけど!


 えっ!? 何で緑色なの!?

 球体って何さ!?

 ぼ、ぼ、僕に何が起こったと言うのっ!?


(スキャナアイが反応したわ!

 これは……喉から来る風邪ね。

 ウィルスが喉に付着しているわ)


(じゃあ、今俺の喉で、ウィルスが緑色に光っている訳か)


 光る!?

 ウィルスが緑色に光る!?


 周りを照らしている光源は、何を隠そう、グロテスクな球体になった僕自身である。

 まるでゴムボールの中にLEDライトが入っている玩具の様に、僕自身の体が緑色にペカーと光っている。


 ちちち、ちょっと待て! 落ち着け僕よっ!

 この訳の分からない状況を解決する要点を、このわけのわからない声は言わなかったか?


(そうね。

 あたし達には認識できない程に小さい光だけど、今あんたの喉には発熱を引き起こすウィルスが付着しているわ。

 そのウィルスは魔法の光を浴びて、緑色に光輝いているはずよ)


 すーはー。すーはー。

 よし、少し落ち着いてきたぞ。

 思考もいくばくか回復してきた。

 つまり、今聞こえてきた声の内容を纏めると、こういう事だ。


 まず男の声の主は、風邪をひいている。

 熱、咳に鼻水、筋肉痛に頭痛、あとは倦怠感と聞こえた。

 これは確かインフルエンザの症状に間違いないだろう。


 そして女の声の主は、魔法たる訳の分からないものを使った。

 そこもかなり気になるのだが、とりあえずそこは置いといて、問題は次だ。


 女曰く。

 魔法を受けて、風邪を引いた男の喉で、ウィルスが緑色に光輝いているという。

 そして、今まさに緑色に輝いているのは僕自身であり、その姿はグロテスクな球体になっている。


 ……まじで?

 本当に?

 エイプリルフールでは無く?


(じゃあ、魔法を解くわよ)


 くぐもった女の声がそう言うと、輝いていた僕の身体の光が消えて、元通りの暗さに戻る。

 ありえない! 認めないぞ!

 僕はそんなの認めないぞ!


 目が覚めると、手も足もなくなって、グロテスクの球体になった僕。

 これらの話をまとめると、何故か僕は、インフルエンザウィルスに転生してしまったらしい。


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