第22話 冒険者たち


 俺の名はソーダライト。

 冒険者クラン「天上天下」の副リーダーをしている魔法剣士だ。


 ギルド長の依頼を受けて3日後の事だ。

 リガガラ神殿を大規模調査する日を迎え、俺達は冒険者達の集合場所である、神殿前広場に向かった。


「ソーダライト、お疲れ」


「おう。やっと現地に着いたな」


 一言で言うと、リガガラ神殿は朽ち果てた廃墟だ。

 大理石で組まれた屋根は崩壊しており、一部崩壊を免れた柱には青々とした蔦が撒きついている。

 神殿の入り口には天使の像が置かれているが、これも崩壊して上半身が地面に投げ出されている。

 ぶっちゃけ陰気な神殿だなと思う。


「しかし、すげぇ数の冒険者だな」


 リガガラ神殿の境内に、冒険者が集う。

 境内は雑草が藪化しているので、ギルド側の人間が草を刈り広場を作っているのだが、あまりに冒険者の数が多すぎて、人手が回っていない。


「募集人数は100人と聞いていたで候」


「でもこれ、300人は居るんじゃない?」


「ちょっと多すぎるべ。

 これだけ人がいるなら、その神の御神体とやらは、直ぐに見つかりそうだど」


 タームコームの冒険者は柄が悪い。

 だがここに集まった冒険者の中には、どう見ても坊っちゃん嬢ちゃんな、初々しい奴も居た。

 ギルド長のやつ、タームコームの街だけでなく、近隣の街にまで依頼を出しやがったな?


 面倒くせぇなぁ。

 こいつらが荒くれ者の糞だけで構成されていたら、まだ良かった。

 だがその中に新人の冒険者が居るとなると、ヤカラの冒険者から新人の冒険者を守ってやるという、余計な仕事まで追加される。


 はぁ。この依頼、断れるならマジで断りたかったぜ。

 よそ者が入り乱れた中での監督役なんて、割に合わねぇったらありゃしねぇ。


「おい! あれ見ろよ!

 天上天下のクランじやないか!?」


「嘘だろ!?

 確かあそこのクラン、バトリンピックの優勝者だよなあ!?」


「どれがそのリーダーなんだ?」


「見当たらないな。

 特徴ある容姿だから、居たら直ぐ解るのだが……」


 俺達の周囲にわらわらとミーハー冒険者達が集まり、サインをねだり始める。

 こいつらまだ駆け出しの冒険者なのか、皆目をキラキラさせていやがる。

 はあ。名前が売れるって面倒くせぇぜ。

 今やこのお陰で、娼館にすら行けなくなっているのだからな。


「天上天下の名前は天下に鳴り響いているど。

 有名人だべな。誇らしいべ」


「ケッ! 有名になったのは、リーダーのお陰だろ。

 別に俺達が凄え訳じゃねーよ」


「それでも、チームの勝利じゃないの」


「はあ。俺はただ剣を振れりゃあゴキゲンだってのに……。

 こんな事ならバトリンピックなんて出なきゃ良かったぜ……」


 バトリンピック。

 これは4年に一度、冒険者ギルド本部が主催する、冒険者による冒険者達の大会だ。


 これは死に直結し易い、冒険者の能力底上げを目的としている。

 前衛・中衛・後衛・参謀・支援・総合・団体など多数の部門があり、優勝者にはギルドから莫大な賞金が贈られる。

 開催地となった場所はお祭り状態として経済効果も高く、世の冒険者たちが非常に注目する大会なのだ。


「あ、あの、前衛の人っ!!

 こ、この鎧にっ!

 ささ、サイン貰えないでしょうかっ!?」


「お前さ、前衛の人って……。

 サイン強請るのなろ、名前くらいちゃんと覚えて……」


「わ、私は壁役の人にサインを貰いたいですっ!!」

「ぼ、僕もっ!!」

「俺はレンジャーの女の子からっ!!」

「ワイもやっ!!」


「だぁーーっ!!

 ウゼェんだよテメェらっ!!

 乳臭い雛鳥共が、寄ってくんじやねぇっ!!」


 俺はあんなお遊び大会なんて興味が無かった。

 なのに極悪非道なリーダーが、気が付いたら団体部門で参加を申し込みしてやがったんだよな。


 リーダーの言う事は絶対だ。

 ああ。俺も嫌々参加したよ。

 結果は、助右衛門は速攻で倒され、俺・ララ・ビビバは大怪我を負った。

 バトリンピックに出る様な猛者を相手にするには、俺達には早すぎたんだ。


「な、何故、拙者だけ、サインを願う者がいないので御座ろうか……」


「大会ではおめが1番役に立たなかったし、印象が薄いんでねえべか?」


「がーん。ひ、酷いで御座る」


 そんな過酷な大会の中で、一人だけ無傷で悠々としていた奴がいた。

 俺達、天上天下のリーダーだ。

 満身創痍な俺達を置いてけぼりにして、リーダーは1人で相手選手団と戦い、圧勝をもって優勝しやがったのだ。


 と言うか、まさか俺も優勝とかするとは思わなかったわ!

リーダー以外の俺達はヒーヒー言ってただけなのに、英雄視されるのは恥ずかしくてたまらん!

 あの糞ガキ……もとい、糞リーダーのせいで、俺達は晒し物だ。

 俺の安らかな日々を返せと言いたい。


「ほう。あれがかの有名な天上天下のクランか。

 噂通り、かなり強そうではないか」


「あんな奴より、俺達の方が強いッすよ。

 競技大会と実戦は違うって事が、駆け出しの雑魚には理解できねぇんスよ」


 そうそう。

 誰だか知らねぇが、気が合うな。

 別に俺達が強いんじゃなくて、リーダーが強いだけだ。

 それに競技大会と実践が違うってのも、その通りだ。

 誰だか知らねーが、ちゃんと本質を捉えている奴がいるじゃねーか。


「ねえソーダライト。

 今あたし達を指さしてた奴、あのジャミルじゃない?」


「あん? ジャミル?」


「ほら。西大陸で傭兵やっていた冒険者よ。

 目的の為には赤子でも手を掛けるって言う……」


「……へえ?

 こいつがあの悪名高いジャミル?」


 ララが指差す集団へ眼を向ける。

 そこには大量のならず者を率いる、七三分けの眼鏡をかけた、1人の男が立っていた。


「お初にお目にかかる。

 私はクラン『激震兵団』の頭領、ジャミル・ザナードだ。

 貴殿達はかの有名な、天上天下ではないか?」


「あ? お、おう。

 俺は天上天下の副リーダー、ソーダライト・ブルーガンだ。

 はじめまして……だよな?」


「ああ。勿論、初対面だ。

 話に聞いたが、本日、我々を監督するのは貴殿のクランらしいな?」


 ジャミル・ザナード。

 年齢は20代半ばで、整った容姿に、礼服の下に鎧を装備するスタイルは、護衛を行う貴族の執事に見える。

 だがその本性は、極悪残忍な裏社会の男と聞く。

 性格は残忍で、目的の為なら赤子でも容赦はしないクズだという噂だ。


「ああそうだ。

 今日の調査は、俺達が監督役を務める。

 それが何かあるのか?」


「ほう。やはりそうか。

 貴様らが監督役か」


 何だこいつ。

 ニヤニヤと嫌らしい笑みなんか浮かべて、気に入らねぇな。


「それはギルド長からの指名かね?

 バトリンピックに優勝する程のクランであるから、その優秀さを見込んで、監督役の声が掛かった。

 そんな所かね?」

 

「……そうだ。

 まさに、その通りだ」


「ほう。やはりそうか。

 では調査が始まる前に、貴様に言っておきたい事がある」

 

 そう言って、ジャミルは眼鏡を外し、鋭い眼光で俺を睨んだ。

 あ? 何こいつ、俺に殺気とか飛ばしてやがんの?


「良いか天上天下よ。

 私のクランには干渉するな。命令もするな。

 もし君達が私のクランに干渉するようなら、貴様らは生きて神殿から出られない」


「あ……?」


「間の抜けた声を出すな。

 これは命令だ。

 良いな天上天下よ」


 カチン。

 そんな音が俺の頭部から聞こえた。

 上等だ。

 それは俺への宣戦布告って事で良いんだな?


 いくら俺がバトリンピックの優勝に相応しくない実力だとしても、こいつ程度に舐められる程、弱くねぇ!

 俺とこいつがどちらが上から、体でわからせてやる!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る