第8話 初戦闘

 吾輩はインフルエンザウィルスである。

 名前はまだない。


 名前は無いんだけど、さっき堕天使の女の子に自己紹介した時、僕は自分の事をインフルエンザウイルスと称した。

 なのであの子、僕の名前をインフル・エンザさんとか失礼な名詞で覚えてないだろうか?


 勿論、人間だった頃の■■■■と言う名前は有るのだが、あまりこの名前が好きでは無い。

 理由はどう考えても、名前負けしているからだ。


 あーまぁ……ならもうインフルさんでも、エンザさんでも、好きに呼んで貰えれば良いか。

 人間社会でインフルさんとか呼ばれた時には、完全にイジメかパワハラだけど、本名よりマシか。


 ――――さて、今僕は堕天使の少女と別れて、神殿の奥に進んでいる。

 奥に進んで階段を降りると、建造物って感じの作りが、一気にダンジョンって感じの素掘りになった。


 太陽の光が存在せず中はかなり暗いのだが、何も見えないと言う程ではない。

 湿度も程よく乾いているし、温度もそれなりに低いので、僕が生存するには都合のよい環境だ。

 しばらくはこの環境で、変異を繰り返して行くのも、良いかもしれない。


 そんな事を思いながら浮遊していると、前方から豚のような化物が自立歩行してきた。

 オオウ……。

 こいつ1匹で何枚のチャーシューが作れるのだろう?

 これは何という生物なんだ?


《回答:オークです。

 熊のような腕力に、猿のような器用さを有しています。

 ですが知能は高くありません》


 ほっほー?

 これがオークか。


 って言うか、かなりデカイんだな。

 身長で言えば、200cmを超えている。

 おまけにバカでっかい棍棒なんか持ってるし、こんなんに見つかったら、普通の人間なんて瞬殺されちゃうぞ?


 まぁ、そこはウィルスで良かったと言うべきか。

 ウィルスの大きさは顕微鏡でも無ければ目視できない。

 現にオークも僕を認識できていないようだし、そのまま素通りしようとしている。


 チッチッチッ。

 だがそこは問屋が卸さないよ。

 お前は人型になるための、最初の獲物だ。

 ここはお前に憑りついて、細胞を手に入れたり増殖したり、好き勝手やらせてもらうぞ!


 立ち去ろうとするオークの口から、体内への進入を試みる。

 うむ……。

 進入を試みようとしたのだが、口元まで来た時に、ちょっぴり抵抗を感じた。


 だってさ! 

 こんな豚の化物の身体の中に入り込めとか、それって拷問じゃない?

 いや、ウィルスに転生する方が拷問なんだろうけど、それでも豚の体内に入るとか嫌だろ!


 まぁ、そんな愚痴を言っても始まらないので、そこは我慢して、奴の口から体内に進入する。

 結果、心の葛藤は有ったものの、すんなりと進入出来た。

 これで人間の尊厳が1つ失われた気がする。


 進入後、どこに落ち着けば良いのかなぁとか考えていたら、やけに居心地の良い環境を見つけたので、そこに付着する事に決めた。

 ヒュゴーヒュゴー言ってるので、もしかしたらここは気道の近くなのかもしれない。


 さて!

 じゃあ細胞を取り込みますか。

 堕天使さんの細胞は上物過ぎて取り込む事ができなかったけど、コイツなら大丈夫だろ。

 だってこんな豚の化物に、上物感とかまったく感じないし。


 と、その時だった。

 気が付いたら、僕の真上に白い球体みたいな物が飛んで来た。

 なんぞこれ?


 気味が悪かったので、試しに分体の1つをぶつけてみる。

 すると、ぶつかった分体は白い球体に捉えられ、まるで酸を掛けられたように分解されてしまった。


 えええ!?

 マジで何ぞこれ!?

 せっかく生み出した分体が消滅しちゃったんだけど!


《回答:これは、オークの免疫です》


 はぁぁぁぁ!?

 免疫ぃ!?

 免疫って、体内にウィルスとかが入って来たらやっつけようとする、あの免疫ぃ!?


 分体をけしかけたのが行けなかったのか、白い球体が僕に向かって飛んできた。

 あかん。豚の免疫さん怒ってる?


 うごご!

 母体を守る分体が、あれよあれよと云う間に数を減らして行く。

 ヤバイ!

 身を守らねば!


 こいつら、完全に僕を敵視しているよな!?

 まぁ確かに、インフルエンザウィルスなんざ、宿主にとって敵以外の何物でもないんだろうけどさぁ!


 自分の分体をオークの免疫にけしかけて、どうにか倒せないか試みる。

 しかし結果は無残なものだ。

 次々と分体は消滅させられ、180個あった僕の分体が一気に30個まで減少してしまった。


 うごごごごご!

 すこぶるヤバイ!

 このままだと分体が完全に消滅して、母体に危険が及んでじう。

 って言うか、これどうやって倒すんだよ。


《回答:体内に入りこんだウィルスは、体外よりも早い速度で増殖する事が可能です。

 免疫を倒すには増殖を繰り返して、分体で免疫を包み込んで下さい。

 相手の溶解を上回る速度にて、免疫を分体でを包み込んで行けば、消滅させる事が可能です》


 なんと! 

 腐っても僕はウィルスだったって訳ね!?


 倒す方法がそれしか無いのなら、どんどん増殖するよ!

 増殖しなければ、やられちゃうよ!

 って言うかこいつら、マジで僕を滅ぼす気満々なんだけどさぁ!?


 スキル『増殖F』を使用して、分体を作り出す。

 すると外では分体を作り出すのに1分程度の時間がかかったが、体内では1秒もかからなかった。


 これは……行ける!?

 分体は母体でしか作り出す事ができないので、一度に作るのは限りがある。

 だが気合と根性で、このまま押し切ってやるぞ!


 分体を溶かそうとする免疫に、新たな分体を次々にぶつけて行く。

 するとようやく奴の溶解速度を上回ったのか、急に免疫の動きが悪くなって来た。

 よし! その調子だ!

 もうちょっとで免疫を消滅させる事ができるぞ!


《一定の数の増殖を行った為、『増殖F』が『増殖E』にレベルアップしました》


 おおお!?

 なんか急に増殖のスピードが上がった気がする。

 今までの10倍近くのスピードで、分体を生み出す事ができるぞ!?


 新たな分体作成速度は、僅か0.1秒だ。

 包む。包む。

 どんどん分体を生み出して、オークの免疫を包み込む。


 そうして死闘の末に、ようやく免疫を死滅させた。

 って言うか、意外に強かった……。


 結局、僕は分体を1,000体以上、作り出したのだが、それでも生き残った分体の数は400ほどだ。

 免疫1つ相手するのに、こんなに労力を使うのか……。

 もし相手が風邪薬とかだったら、果たして勝つことができたのだろうか……。


《オークの免疫細胞を取り込みました。

 免疫が低下した結果、オークは『風邪』状態になりました。

 免疫を倒して風邪状態にさせた為、『感染F』のスキルを獲得しました。

 一定の数の者を風邪状態に変化させた為、『風邪F』が『風邪E』にレベルアップしました》


 おおお!?

 なんかスキル的にえらい事になってきたんですけど!

 対象を風邪状態にさせると、こんなにスキルアップするの!?

 めっちゃ強くなった気がするんですけど!





《ステータス》

名前:なし

種族:インフルエンザウィルス(母体)

スキル:風邪E(New)・増殖E(New)・突然変異・分母転換・浮遊F・感染F(New)

所持細胞:堕天使・オーク(New)

分体数:400/10,000


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