21 大怪獣総攻撃

「急いでマイア!! 早く早く!!」

「はい!!」


 マイアにとっては突然の出来事だった。


 上空から閃光が発生したと思えば、唐突の強大な嵐。さらに虚空の中から、異形の怪物が浮かび上がるように出現したのである。

 怪物の出現によって、マイア達が混乱に陥ってしまった。彼女達やアンジェラ達、そして人々が悲鳴を上げて逃げ惑う。


「何だよあれ!! 何だよあれ!!」

「どけよクソ!!」

「キャアアアア 痛い!! 痛い!!」


 怪物を理解出来ない人もいれば、他者を押しのける人もいる。果ては転んでしまい、踏み付けられる人も。

 彼らは一斉にして真後ろを向いていた。そこにはいつの間にか手足を生やした怪物と、もう一体の怪物が戦いを繰り広げている。


 その後者こそが、マイア達を助けてくれた龍巍だ。


 今まで無口な青年と思っていた彼が、実は異形の存在だったのである。その正体はジーナは最後まで言ってなかったのだが、いずれにしてもドラゴンにはない圧倒的な力を持っているようだ。

 

 そんな彼が怪物と戦っている。例え攻撃を加えられようとも、敵を倒さんとばかりに。


 何故そうしているのかは本人に聞かないと分からない。しかし彼が戦っている以上、何としてもここから逃げるしかない。


「アゾル!! 私に付いて来て!!」


 彼から救ってくれた命を、無駄にしない為に。


 そうしてアゾルやアンジェラ達と共に、出入り口である門へとたどり着いた。だがそこには住人が集まっており、前に進む事が出来ない。


「何やってんだよ!! 早くしろよ!!」

「早く!! 早く!!」


 恐らくは門辺りで詰まっているようだ。我先へと逃げようとする人々の影響だろうか。

 マイアは一応怪物側へと確認を取る。幸運にも二体はかなり離れた距離におり、巻き込まれる心配はないはず。


「な、何だ!? 地面が!!」


 だがそこに悲鳴が聞こえてきた。しかも何かを割るような鈍い音が出てくる。

 直後として足元の地面に亀裂が入った。それと共に門が突き破られ、下から何かが姿を現す。


 正体は怪物の後ろにあった鋭い突起物。


 まるで人間を見下ろすように出現したそれに、人々が来た道へと逆走する。門を陣取られた以上、街へと戻るしかない。

 さらに突起物の先端から光が集まるのが見えた。何をしでかすのか分かったマイアに、今まで感じた事がない悪寒が走る。


 ――キュオオオオオオオオオオオオン!!


 その突起物へと向かった者がいた。

 光り輝くような純白のドラゴン。その個体が突起物を掴むと、急いで上空へと傾けた。直後として先端から光線が照射。


 光線の熱と衝撃でマイア達が怯んでしまう。しかしそのドラゴンのおかげで、何とか助かる事が出来た。


 ――……ジーナさん!


 あのドラゴンは前にも会った。そしてさっき話されていた通り、今まで共にしていたジーナで間違いない。

 彼女が自分達人間を守ろうと奮闘しているのだ。一人でも多く逃がそうと、怪物を相手に頑張っているのである。


 ただ問題はどこに逃げるのかだ。幸いにも門は複数あるのだが、そこも人だかりが出来ないとは限らない。


「!!? キャアアア!!」


 突然、彼女の頭上を光線が掠めた。


 それが遠くの前方へと向かい、着弾爆発。その爆発で大勢の人々が巻き込まれてしまい、塵のように飛び散らせてしまった。

 人間の死体がゴロゴロと転がっていく。それはマイアの目の前で、人間が殺されたという事。それを見てしまった彼女に多大なショックを与えられるが、それを味わう隙はなかった。


 その光線が不意に射線を曲げ、近くの建物に直撃する。


 建物の上にそびえ立つ塔が、光線によって切り落とされてしまった。その時の爆発によって吹き飛ばされるマイア達。

 マイアが倒れたと同時に顔を上げると、アンジェラとハッドなど人々の姿が見えた。しかし彼らの頭上には、おぞましい音を投げながら落下する塔が……。


「アンジェラさん!!」



「ウワアアアアアアアアアアアア!!」



 耳元に残るようなアンジェラ達の悲鳴。それをかき消すように塔が落下する。

 無数の石ころが向かい、マイアは咄嗟に腕で防ぐ。そうして収まったのを契機に見上げると、目の前に広がっているのは倒れた塔と舞い上がった粉塵だけ。


「……アンジェラ……さん……ハッドさん……」


 身体から力が抜けるのが感じてしまう。さらに呆然として、その場から動く事が出来なかった。

 その目に焼き付けてしまった、二人の最期によって。


「……どう……して……」


 彼女達は自分達によくしてくれた。まだ死んではいけない存在のはずである。

 それなのに死んでしまった。それも自分を助けて死んでしまった。まだ彼女達には、未来があったはずなのに、それが消えてしまった。


 絶望がマイアを襲いかかる。周りから人々の悲鳴が聞こえているが、それが遠のくのが感じてしまった。

 やるせない気持ちで、立ち上がる事すら出来なくなる。


 ――……キュウ……キュウウウ……。


「……アゾル……? アゾル……!」

 

 そんな時だった。かけがえのない友達の声が聞こえてくる。

 悲しみに暮れている場合ではない……そう思ったマイアが振り向くと、アゾルがすぐそこにうずくまっていた。ただ片翼が岩に押し潰されており、赤い血を流している。


 自力で脱出不可能のようだ。すぐにマイアは駆け付け、岩をどかそうとする。


「待ってて!! すぐにどかすから!!」


 岩は重たかったが、どけない程ではなかった。全身の力を込めて、それを取り除く。

 翼はひん曲がっているが、それでもアゾルは生きている。アンジェラ達の死がまだ引きずられるが、それでも彼女達は無我夢中で離れようとした。


 ――ドオオオオオオオオオン!!


 耳を貫かんばかりの音が聞こえてきた。振り返ってみれば、光線の撃たれた形跡が見て取れる。

 さらにこの時、爆発のとは違う音が聞こえるのをマイアは感じた。まるで地面から這い出るような、不気味な音……。


 


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 ――オ゛オオオオオオオアアアアアア!!


 咆哮を上げた怨漸が、龍巍へと疾走してきた。

 足よりも長く太い両腕を使って、あたかも四足歩行のように向かってくる。さらに大きく跳躍をし、龍巍に飛び掛かった。


 龍巍は尻尾を使って、その軌道を逸らす。考え通り、叩き落された怨漸がすぐ近くへと落ちる。


 そこを武装を刺し貫こうとしたが、突起物からの光線がそれを阻んできた。咄嗟に武装で防ぐと、光線が曲がって家々に着弾。

 爆発と炎上。気付けば周りが火の海になっているようであり、人間達の悲鳴がさらに増している。

 

 ――敵……敵……。


 声が聞こえてくる。紛れもなく怨漸の言葉その物だ。

 その敵が今、触手に繋がれた突起物を三方に向けている。すると見逃さないとばかりに、背後のズメイが火球で応戦していく。


『こっちを向け!! 向くんだ!!』


 囮として買って出た彼の攻撃を、怨漸は黙って受け続けている。

 しかし振り返ろうともせず、長い尻尾で叩き落してしまった。彼が巨大な建物へと激突し、倒壊させてしまう。


『……ズメイ!』


 彼の姿が、瓦礫によって見えなくなってしまった。

 さらに怨漸がその突起物から光線を放つ。家を粉砕させ、地面を陥没させ、さらには怨漸ほどの大きさを持つ爆発。陥没した地面によって奈落に落ちる人間や、爆発に巻き込まれる人間。


 龍巍も防御しようとしたが、数発の光線をすべて防ぐ事が出来なかった。脇腹に光線が着弾し、青白い炎が噴出。

 強烈な痛みが走り、膝を付いてしまう。さらに足元から轟くような音が聞こえてくるのが感じた。


 直後として、地面から噴出する大量の水。


『……!! 地下水が!!』


 人々を守っていたジーナからの叫び。

 地下水という物は一つだけではなく、複数噴出していた。それが地面を覆い尽くし、街を巻き込む。


 辺りから人間の悲鳴が、無数に感じられる。しかし龍巍は戦闘を優先としているので、どうする事も出来ない。


 ――オ゛オオンン!!


 唸り声を上げながら迫り来る怨漸。

 太い両腕で龍巍を掴み、後ろへと押し出してくる。その影響で、龍巍の足元にある家がすり潰されてしまう。


 轟音を上げながら、二体が街のシンボルである宮殿へと入り込んだ。巨大な身体によって、宮殿もまた瓦礫へと粉砕されてしまう。


 その中で、怨漸が龍巍と共に倒れこんだ。


 上を取られた形になってしまい、さらに怨漸が殴打をしてくる。殴られるたびに龍巍の口から炎が垂れ流され、周りの瓦礫が飛び散る。

 さらに貫こうとばかりに突起物を向けてきた。しかしやられるばかりではなく、エネルギーを帯びた武装を振るう龍巍。

 エネルギーによって突起物を切断。残り二つとなった今、龍巍はさらに反撃を続ける。




 だがその瞬間、怨漸の姿が跡形もなく消えてしまった。


 ――……何?


 まるで最初からいなかったかのように、その姿が全く見当たらない。

 急いで辺りを探そうとした時、背後から衝撃が襲い掛かった。倒れ込みながらも振り返るも、そこには何もいない。

 ひとまずゆっくりと立ち上がろうとする龍巍。すると目の前の空間が裂けられ、いきなり怨漸が姿を現す。

 

 それは以前の時に見せた空間転移を、さらに強めたような能力。


 そう察した龍巍の首を、怨漸が乱暴に掴みかかった。崩壊しかけた宮殿へと叩き付けた後、鋭い鉤爪を向けてくる。

 それが真っすぐ、龍巍の腹部へと向かってきた。

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