12 二人の楽しいデート
あの後、龍巍達はトラヴィス帝国へと戻った。
誰にも気付かれないよう人間の姿を取り、すぐに何でも屋へと向かう。中に入ればアンジェラとハッド、そしてマイアとアゾルの姿が見えてきた。
「あっ……リュウギさん……ジーナさん……」
「マイア、アゾル。よかった……戻ってこれたのね」
「ええ……何とか……」
ジーナがマイア達へと駆け寄った。なおマイアからしてみれば、龍巍達は「自分を探していた後、諦めて戻って来た」という風に見えるだろう。
実はここに戻る前、龍巍はジーナから「自分達の正体を言うな」と口止めをされている。その方が面倒にならないらしい。
「……あの、私見たんです! 純白に光る四枚羽のドラゴンと……ドラゴンでもワイバーンでもない怪物を……。それが私を邪竜エキティムから助けてくれて……」
「ドラゴンでもワイバーンでもない怪物?」
「はい……ジーナさん方はご覧にならなかったようですが、ハッキリとエキティムを倒した所を見たのです……あれが一体何なのか……」
まるでこの世界に来て戸惑っている自分みたいだと、龍巍は思った。
一方でアゾルの方がこちらを見ている。それも何かを感付いているような様子で、龍巍から視線を離さなかった。
恐らくは正体を知ったのかもしれないが、とりあえず気にしない事にする。
「しっかし、そんなドラゴンもどきなんているもんか……? ドラゴンと見間違えたりとか……」
ハッドが怪訝そうな表情をして言ってきた。
そこにマイアが噛み付く。
「いえ! 確かにドラゴンとは全く違いました! 翼もなかったですし、両腕にも剣のような武器があったし……ただ何で怪物が私を助けてくれたのか、よく分からないんですよね……」
「…………」
彼女にとって、自分の存在が理解を超えた物なのだろう。そしてジーナもそれを分かっているからか、何も口を出してこない。
「まぁ、マイア達が無事で何よりだよ……。今日は飯を食って早く寝な。私がとびっきり美味しいのを作ってあげるからさ」
「……すいません、ありがとうございます……」
食事を用意するというアンジェラに、マイアが頭を下げた。
龍巍も付き添われる事になったが、やはり食べても味が分からない。もちろんジーナに口留めされているので、食べ物を放り込む形になった。
やがて空が暗くなり、夜となる。
その頃にはジーナ達が就寝して、静かな時間となった。そんな中で、龍巍は用意された部屋のベッドに座っている。
彼は窓から夜空を眺め、その変化を観察する。寝る必要がないので、ジーナが起きるまで見ているつもりだった。
「……リュウギ、入っていい?」
夜空から眺めていた龍巍の元に、声が聞こえてきた。どうやらドアの奥からのようである。
彼が返事をすると、そこからジーナが入ってきた。なお普段の服とは違い、白を基調とした寝間着に着替えている。
「……どうしたんだ?」
「……いや、ちょっと目が冴えちゃって……。それよりもまた夜空を見ていたのね」
「ああ……特にやる事がないからな。こういう空の変化は、何だか不思議な気持ちになる」
「……そう。よかったら、私も一緒にいいかな?」
真っ暗な部屋の中で、ジーナが微笑んでいるのが見えた。
龍巍が無言で頷くと、彼女がその隣に座る。妙に距離感が短いが、特に深い意味はないかもしれない。
「……言い忘れていたけど……ありがとうね」
「……何だ、急に?」
礼を言われた事をしたのだろうか。
龍巍がジーナへと振り向くと、彼女も同じように見合わせてくる。
「マイナとアゾルを助けてくれた事。あなたがいなかったら、今頃エキティムに食べられていたかもしれないしね」
「あれが助けるという事か? 俺はただお前に言われて、エキティムを倒しただけだが……」
「それが重要なのよ。あなたにとっては結果的に……あるいは偶然的にではあるけど、その行動のおかげでマイナ達の命が救われた。それに邪竜を倒した事で被害も少なくなる上に、あなたという存在によってワイバーンが戻ってくる事もない」
「……それが礼を言われた理由か」
お礼の理由が何となく分かった。そう考えた龍巍の手に、突然感触が伝わる。
見てみると、手の上にもう一つの手が置かれている。それはジーナの物に他ならない。
「前に、自分の世界の事を言ってくれたよね? あそこには敵以外いないって。確かにここにも敵がいるんだけど、同時に守るべき者もいると思うのよ」
「……守るべき者?」
「そう。さっきのマイア達のような人間もそう。あの子達は未だ戸惑っていたようだけど、きっとあなたを認めてくれる。そして………………わ、私とか……」
次第に彼女の顔が赤くなっていた。
前にもあったが、何故そうなるのか龍巍は気になってしまう。
「顔が赤いぞ?」
「こ! これは緊張していて……! でも何でだろうな……あなたとは全く別種族だというのに、どうして緊張してしまうのか……」
「…………」
「……それよりも、これも約束してくれるかしら……? 私や私が決めた者を守ってくれるって……その代わりに、私もあなたを守ってみせるから」
またもや約束が告げられた。
それが大事な事になっているのが、龍巍自身にも分かってきた。だからその約束を、しっかりと受け止めようとする。
「お前を守る……」
「うん、そうよ……私を守って……」
「……ああ……」
「…………」
返事した後、沈黙が流れた。
龍巍からは何も伝える事がないので、ジーナの返事を待つしなかった。そうすると、彼女が不意に立ち上がる。
「そ、そうだ……リュウギ、明日遊びに行かない?」
「遊びに?」
「ええ。明日、私とリュウギの休日なの。この帝国には色んな娯楽があるだろうから、味覚のないあなたでも楽しむ事が出来るはずよ。どうかな……?」
またもや「娯楽」と聞き慣れない言葉が出てきた。
もちろん龍巍はその意味を理解しようとする。
「娯楽……それも教えてくれるのか?」
「……ええ、明日にね」
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翌日となった。
朝食を終えた後、龍巍がジーナによって連れて行かれようとしていた。その彼女が外に出る前に、アンジェラへと声を掛ける。
「では行ってきますね。それとマイア達にも……」
「分かっているって。ちゃんと伝えとくよ」
昨日の事もあるので、アンジェラがしばらくマイア達を休ませるという。と言ってもマイアがすぐにでも働きたいとは言っていたので、昼時には再開させるらしい。
なおそのアンジェラが、何故かニヤニヤ顔をしている。
「あんまり羽目外さないようにね。あんたらみたいな若者って、すぐにヤってしまうんだから」
「やっ、やりませんよ! とにかく夕方には戻ってきますので!」
彼女へとそう言った後、龍巍達が街の中を歩く。
朝の時間という事もあって、やはり人が多い。龍巍が周りの人間達を見渡していると、ジーナがその腕を掴んでくる。
「あっ、アクセサリー屋だわ。ちょっと行ってみましょう」
そのまま龍巍を引っ張り、アクセサリー屋という所に入った。
中には指先ほどの光る物で敷き詰められている。ジーナが言うにはそれらがアクセサリーで、身体のどこかに付けておく事で効果的になるらしい。
「いっぱいあるわ……どれにしよう……」
「生きる上で必要な物か?」
「うーん……本当は必要ないけど、あった方が色々と楽しいって感じがするの。付けても損はしないわ」
そういう物なのかと龍巍が思った時、ジーナが二つのアクセサリーを手に取った。
片方に白く光る物が、もう片方に黒い物がはめられたタイプだ。その光る物には輪っかが付いている。
「リュウギ、ちょっと腕貸して」
「……? ああ……」
腕を差し出すと、そこに黒いアクセサリーを通してきた。
ジーナも自分の腕に白い方を通して、龍巍に見せつける。
「サイズピッタリ。それにお揃いね」
「……これが楽しい……」
「そう、気持ちオシャレになって楽しいでしょ? これ買ってくれるから、ちょっと待っててね」
アクセサリーを外した後、嬉しそうに奥へと入っていった。
龍巍はアクセサリーというのを眺めながら待つ事にする。ただそうしていると、外から謎の視線が感じる。
その方向を見やると、飛んでいるワイバーンが一体。しかも龍巍自身を睨んでいる。
「お待たせ。さてと、次に行きましょう」
「……!」
ちょうどそこにジーナが帰って来た。それからワイバーンへと振り向くが、それがどこにも見当たらない。
「どうしたの?」
「いや……それよりも行こうか」
「……うん」
ジーナが微笑みながら、龍巍の腕を引っ張る。
まだ「楽しみ」というのは、これから始まるらしい。
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