06 世界が興味の対象
「そうか……あなたには味覚というのがないのか……」
村の中を歩いている途中、龍巍がさっきの訳を話していた。
ジーナが言うに、生物には食べ物を味わう味覚が存在するという。一方で龍巍には食べるという概念がない為、さっきのように何も感じないのだ。
「何だかそれって不便ね。違和感が出るとかある?」
「何故違和感を感じる必要があるんだ? そもそも俺とお前は違うだろうに」
「そうだけど……でもさぁ、やっぱ食べるってのは楽しい事だと思うのよ。いつかそれが分かる時が来て……」
グウウウウ……。
その時、ジーナの腹から妙な音が出てきた。
聞いた事もない音に、龍巍が怪訝に思う。
「何だ今のは?」
「あっ……え~と……腹の虫です……。とりあえず何か食べたいし、あの建物に行きましょう」
彼女がそう言って、一つの店へと指差す。
中に入れば、多数の人間が食事をしている。周りを見渡す龍巍の傍ら、ジーナが座り込む。
「すいませーん。豚の
「あいよ! 竈焼きにライス、酒ね!!」
ここまで見てきたのだが、人間の活動というのは龍巍達と全く違う。
争いもしなければ寄り添って集まっているし、今まで自分達がやった事のない行為をしている。龍巍からすればよく分からない存在である。
「……戸惑っているでしょう? この人々の生活に」
そう考えた龍巍に、ジーナが尋ねてきた。
実をいうと、確かに彼女の言う通りだ。
「人間もこの世界もよく分からない……興味深いと言えばそうだが……」
「ここはあなたの世界ではなく、私達の世界なのよ。まぁ、私が色々とサポートするから、次第に慣れると思うけど」
「…………」
何故ここまで、ジーナは自分に構うのか。
それを尋ねようとした時、「ほい、お待ちどお!!」と龍巍とジーナに何かが置かれた。見てみると、筒に入った液体のようである。
「これが酒よ。さっき味覚が感じないとか言ったけど、奢らせてもらうわ」
「こんなの貰っても困るが……」
「そう言わないの。とりあえず飲んでみなさい。何か感じるかもしれないわ」
それだけ言って、ジーナが酒を飲む。それから「ハァアア……」と息を吐いていた。
龍巍もその彼女を見た後、同じように酒を飲む。もちろん、味なんて全く感じなかったが。
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あれから村を出た後、彼女から様々な事を教えられた。
人間達の生活、森に存在するリスなどの生物、そして流れる川に滝(以前龍巍の姿を映していたのがそれらしい)。空が暗く感じたのなら、それは夜という。
しかし夜空に熱い曇が覆われ、強い雨と風が襲い掛かる。
嵐だと分かったジーナが、すぐに龍巍と共に洞穴に移動した。そこで雨宿りをしながら野宿をするという。
例の如く睡眠の概念がない為、寝る必要がない。ジーナが寝ている間、嵐という物を見つめる龍巍。
なおジーナが寝る前に言った。『綺麗な夜空が見える事もあれば、このような嵐が来る事もある。だから飽きない』だと。
彼女が言っていた事が何となく分かった。前の星空や嵐といった風景を見ると、実に飽きてこない。
そして理由が分からないが、それをジーナを教えてくれるという。つまり彼女はいなくてはならない。
今までそばにいただけと思っていた存在は、龍巍にとって必要な存在へとなっていた。彼女から教えられたい……そういう気持ちが、龍巍を動かす。
「んん……リュウギ……随分と早いわね……って寝てないか」
そうして明るくなった頃、ようやく彼女が目を覚ました。
龍巍は空から彼女へと振り向く。
「……ジーナ、早く行こう」
「えっ?」
「……まだこの世界の事をまだ知らない。新たな知識を……もっと与えてくれないか?」
「……寝ている間に何かあったのかしら……でも……」
ジーナは呆然としていたが、すぐに立ち上がった。
同時に、龍巍へと微笑みを見せる。
「そういうのは嫌いじゃないわ。なら早く行きましょう」
「……ああ」
その後、二人は旅を続けた。目の前に高い山があれば、二人して怪物の姿になって飛び越える。
その山を乗り越えると、不自然な物が見えてきた。樹木が円形上になぎ倒された場所であり、そこに何かがいるようである。
『あれはワイバーンの巣ね。ああやって樹をなぎ倒して、巣代わりにしているのよ』
『奴らは俺の敵か?』
『全く違うわ。それにワイバーン達の中に、小さいのがいるでしょう? 今は子作りの時期だから、間違いなく子供ね』
その子供を示した後、ジーナがゆっくりと降下した。
着地をすると、ワイバーン達がジーナへと頭を下げている。その際彼女が唸り声を上げて、その頭を上がらせた。
『大丈夫、あなた達の邪魔は一切しない。ただ子供達を見せてくれるかしら?』
ジーナが数匹の子供へと寄り添う。
子供は他のよりも小さく、形状も違う。ピーピーと鳴きながら、ジーナへと近付いてきている。
『…………』
その子供にも興味を抱く。龍巍は彼女達のそばに降下した。
しかし降り立った途端、ワイバーン達の様子が激変する。皆、龍巍に気付いたと思えば、一斉に震え上がった。子供に至っては、大きいワイバーンの陰へと隠れてしまう。
『皆、落ち着いて! 彼は危害を加えない! 大丈夫よ!!』
――ギュウウルルルル……。
――ピルルルルルルル……。
ジーナが落ち着かさせているようだが、一向に止まない。
龍巍は試しに、一体の子供に手を伸ばす。するとその子供を抱えた途端、金切り声を上げるワイバーン。
後からジーナから聞いた話では、ワイバーン達は龍巍から発する『禍々しい気配』を察知したと言う。
ジーナも以前は感じていたらしいが、彼女には『理性』があったので何とか平常心を保っていた。対し本能で動き、敵の気配を察知しやすいワイバーンには、龍巍がおぞましい何かに見えたようである。
試しに人間の姿になっても、ワイバーンは異質な龍巍に対して警戒を緩めなかった。仕方なく二人はワイバーンの巣から飛び立つ。
『…………』
『……もしかして落ち込んでいる? まぁ、気持ちは分かるけど』
『いや、奴ら変わった反応をするなと考えていた』
『ああそう……。まぁ、これで真の姿でいるとどうなるのか分かったでしょう? 私の言う通りにすれば何とかなるから』
『分かった……それよりも奥に何かが見えるぞ?』
『ん?』
ジーナがそれを確かめようと、ある崖へと降り立った。
奥の草原が広がっている中、明らかに自然的ではない物が見える。それが龍巍やジーナを包み込む程に大きい。
「……見えたわ。街だわ」
気が付くと、ジーナが人間の姿に戻っていた。
彼女が、龍巍へと笑顔を向けてくる。
「あれがこの一帯の帝国『トラヴィス帝国』よ」
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「この辺がやけに酷いな……」
男性の一人が、目の前を見てため息を吐いている。
近くに存在する村の住人であり、猟師を務めている。今は数人の仲間を連れて、森へと足を運んでいた。
その森の光景が酷い有様である。樹木が乱暴に折れていたり、樹に泥が纏っている。ここに来る途中にも、足が泥にハマる事もあった。
「昨日の嵐でこんなになったのか……想像もつかんなぁ……」
「今回は今まで以上に強かったからな。こうなるのも無理はない」
実は昨日、とてつもない嵐が起こったのだ。
強風で家が吹き飛ばされそうになったと思えば、次は昼のように明るくも激しい閃光。今まで嵐に見舞われた村人達であるが、今回はそれよりも強かったと思っている。
それが止んだ後、彼らはその翌日に周辺を調査。行ってみれば、狩猟によく使う森がこんな状態という事である。
「これじゃあ狩猟どころではないな。ひとまず辺りを調査して、可能なら木をどけるんだ」
「ああ。……ん? 何だあれ?」
「ああん?」
ある仲間が何かを発見したようだ。
他の村人が見てみると、倒れた樹木の中から妙な物が飛び出ている。全く見た事がない代物だ。
「……まるで鉤爪みたいだな……」
鈍い金属色で包まれており、湾曲している。それでいて無機質である。
まるで、獣の巨大な鉤爪のようだった。
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