第8話
夢を見ていた。
目の前には漆黒の服を身にまとった人々。
その一番端で見知った顔を見つける。
理恩は遺影の前に設置された遺族席でうつむいていた。その目は赤くはれあがり、時折肩を揺らしている。もうすでに涙は枯れ果ててしまったらしい。
ここは上原家の通夜の会場だった。
自分も参加した、理恩の父親の通夜。だがここに到着したのは開始後少し経ってからで、この場面を知っているはずがない。
これは自分の夢ではない。理恩の記憶からにじみ出てきたものだ。
理恩のすすり泣く声が耳に入ってくる。会場では僧が経を唱えているはずだが、それは遠く離れた場所から聞こえる音声のようで、よく聞き取れない。やはりこれは理恩が直接感じたものなのだ。
理恩は会場の中央に掲げられた遺影を見あげる。写真の父親は理恩を見守るように穏やかに微笑んでいた。
(お父さん……)
理恩の声が聞こえてくる。彼女は口を動かしていない。これは心の声だ。
(もう一回。もう一回だけでいいからお父さんの声、聞きたかったよ)
理恩の感情が直接伝わってくる。
深い悲しみと、それを超える後悔に押しつぶされそうになっていた。
『――――!』
理恩の名前を呼ぼうとするが、声が出ない。口から出る前に虚空に溶け、音にならずに消え去ってしまう。
(また会いたいよ、お父さん……)
自分の意思に反し、視界が上昇して徐々に遠ざかっていく。もがこうとしても、ここには自分の身体などというものは存在していなかった。
なす術もなく、ぷつりと世界から遮断された。
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