第24話 ニート、叱られる 4
我輩は、ここで筆を置くことにする。
実は、かしこまった父上が
そろそろ一人暮らしをして自立したらどうかと提案し、
その一言にニートが驚愕する。
驚愕したために、声にならない叫び声もまた上げる。
余りにも五月蝿い鳴き声によって、天井がどんどんと脈打つのだ。
もちろん、声が天井を揺るがしているのではない。
風が吹けば桶屋が儲かるが如く、
ニートの叫び声が、二階の妹の部屋にまで到達し、機嫌の悪くなった妹が床を踏みならした結果、天井が脈打つのである。
しかし、ニートが泣こうが喚こうが、
父上の心持ちは堅い。
その堅さは、土佐のカツオ節よりも堅い。
一人暮らしに必要な資金、アパートの場所、仕送りの額、引越し業者、電気水道ガスの申し込み方法、家具の購入方法、エコバックの使い方、お金の貯め方、孤独との向き合い方…一つ一つ書き上げていては、紙面が足りなくなってしまうほど、事細かに説明し始めた。
ニートはたまったものではにゃい。
馬の耳に念仏、ニートの耳に自立話。
馬は微動だにせず聞いたふりを通すが、
ニートは即座に逃げようとす−
ニートは、まわりこまれてしまった▼
逃げ出したその先には、仁王立ちの母上。
顔は、暗黒微笑とも取れるような異形である。
なるほど、先ほどの母上とのアイコンタクト。
逃げようとした時を考慮して、母上を待機させていたのだ。
ニートは母上に捕まり、父上の元に戻された。
「それで、具体的な日にちになるけれど」
どうやら、本当にニートは
自立させられてしまうようである。
と、以上のように書くことは、
ニートに対して少しばかり残酷な気がして来た。
それ故、我輩は、
筆を置くことにしたのである。
了
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