第22話 ニート、叱られる 2
会議は踊る、されど進まず。
ニャーン会議の余りにも有名な一文であるが、
(もちろん、読者ネコ諸君も知っていることと思う)
我が家の緊急家族法廷が、踊ることはないようだ。
仮に踊るとしても、サンドバックとなったニートが
まな板の上の鯉のように跳ねる程度である。
なぜ、そうなるのか。
それもこれも、弁護人の席に我輩しかおらず、
ニートの立場を守ってくれる者がいないからであるのは明白じゃないか。
もう書くまでもないだろうが、会議は検事妹の活躍が目覚ましい。
「兄貴は、甘えすぎだ! いい加減、家から出て生活してみろ!」
まるで大ナタを振り回すがごとく、言葉を炸裂させていく。
まさに快刀乱麻と表現すべきところであろう。
「−!? Wait! wait!」
我輩の隣、座布団の上にちょこんと正座したニートは、
最近勉強したばかりの外国語を盾に、
法廷の決議を遅らせる牛歩戦術を採ることを、
太陽の沈む前から決めていたらしい。
通じないだろう言葉を駆使して、
明日から学校や仕事のある家人たちを
なんとか寝室に押し込んでしまおうと言う算段である。
ただ−
「Uh? What're you getting at? You're 【検閲により削除されました】」
ニートの誤算は、
妹は外国語がとても出来ることであった。
我輩も、驚きのあまり、
目をまん丸にして、顎が真下に外れてしまいそうになったにゃ。
「あ、ええ、っと、あ、はーわーゆ?」
「ブホッ」
バシッ!
青天の霹靂、寝耳に水、藪から棒に、ニートに妹。
あまりの驚きはニートも同じだったようで、
目線気持ち上方向、両手で天を仰ぐようにしながら、
我輩にもわからない日本語を話し始めた。
そして、話し終わるやいなや、ニートの隣、
両腕を組んで雰囲気を作っていた父上が吹き出して、
母上に頭を叩かれたのである。
「何がはーわーゆだよ!? バカ兄貴!」
「バカとはなんだ! バカとは!」
「バカだから、バカと言ってるんだよ!」
「…妹よ、馬鹿なんて…僕は鹿を見て馬と言うほど落ちぶれてはいないのだよ」
「…それって俗説なの、知ってるよね」
「−ッ!? だったら、長幼の序と言う言葉を知っているのか!?」
「朱子学に謝れ!」
旗色が悪い。非常に悪い。
父上や母上が介入するまでもなく、このままでは
ニートの強制退去が決まってしまうだろう。
いや、こうなることは、もう決まっていたのかもしれにゃい。
今までも、我が家のニートの立ち位置は、
不法入国者のような感じであった。それは事実にゃ。
しかし、政府(父上と母上のことである)は、
大規模な介入をすることはなく、
入国管理局(妹のことである)はヤキモキしていたのだ。
今回の一件は、入国管理局にとっては好機であった、
ようやく不法滞在しているニートを国外退去処分に出来る。
ようやく友人たちを家に招くことが出来る。
ようやく可愛い我輩を独り占めに出来る。
そう思っているに違いにゃい。
そして、我輩も、
意外とその将来は良いのではないかと思い始めた。
ニートの隣を去って、
ニートの正面にあぐら座りをしている妹へ向かうのであった。
「おいぃ、君は僕を見捨てると言うのか?」
見限るの間違いである。
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