第21話 ニート、叱られる

我輩はネコであり、こいつはニートである。


ネコとニートは、共通点がとても多い。

例えば、自分の居場所を作ることにかけては、他の生き物よりも上手であろう。


ある日、スッと現れては、

生活圏を少しずつ侵食し、自らのテリトリーを構築してしまうのである。

縄張りを作ることに長けていると言っても良いかもしれぬ。


しかし、ここに一つ問題が。


ネコは、皆も知っている通り、とても小さく可愛らしい生き物である。

寝返り一つ打ったとしても、畳一枚で十分足り、

仮に欲張ったとしても、所詮二枚程度のものである。


しかも、

ネコはある程度””と言うものをわきまえているから、

あれもこれも、と欲張ることはしない。


問題なのは、ニートの方だ。

図体は大きく、居場所をとる。

最近は二階の四畳半の部屋に居ついているが、

狭い狭いと文句をこぼし始めた。


猫は太っても、寒ブリ程度の大きさにしかならないが、

ニートが太ると、マナティみたいになってしまう。

マナティは愛らしいが、ニートは愛らしくない。


全く、ニートと言う生き物は、度し難い。


そんなニートにも、転機が訪れた。

と言うのも、前回の”床穴事件”のおかげである。


ニートが床に大きな穴を二つほどこさえた後に、

何があったかと言うと…。


少しだけ時間を遡ろう。

事件の起きる数十秒前。


ニートを置いて家族で買い物にでも行ってきたのだろうか。

父上・母上・妹の三人は一緒に帰ってきたのである。

昼下がりの閑静な住宅街のひと棟に。


そして、何やら楽しく話しながら、

玄関の扉を開いて、

入ったが最後−


両足を床の下に突っ込んだ、半べそ状態の息子が仁王立ちをしている。


家人にとっては、さぞ無念なことであっただろうに。


しかも、


「ネコ! ネコのせいだ! 僕のせいでは、断じてないぞ!」


と上半身をフリフリさせて、

必死に言い訳を言うのであるから、始末が悪い。


我輩は、玄関が開く音と同時に、

おやつをもらうため、階段のした近くまで降りてきていた。

故に、普段温厚な父上と母上の、絶望したご尊顔まで見てしまったのである。


とうとう堪忍袋の緒が切れてしまった両親たちは、

その晩に緊急家族法廷を開くことに決めたのだ。


裁判官はもちろん父上と母上。

検事は妹。

そして、映えある弁護士の席には、我輩が座った。

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