第11話 ニート、涙する

「兄貴、いい加減バイトくらいしろよ!」

「…」


我輩はネコであり、こいつはニートである。

そして、今日は珍しくニートの妹もいるのだ。


どうやら今日は、試験かにゃにかで学校は早く終わったのだろう。

喜び勇んで帰ってき、居間を通り抜けようとした、

まさにその時、


真昼間からワイドショーに文句を言っている馬鹿に遭遇したというわけである。


この妹がなかなか見所のある、気骨のある娘であり、

洗面所で手洗い・うがいをきちんとしたのち、


ニートをこたつから摘出、

すぐさま正座をさせ、

社会教育を施す準備を整えた。


この間、時間にして、ししゃも一匹分。


まるで、後ろ首を掴まれた我輩のように

ニートが無抵抗であったということは、

書くまでもないだろう。


そういう我輩は、

遠からず、近からず、一定の距離を保ち、

二人の話をツマミに、ひと寝入りしようという算段なのにゃ。


妹は、語気を荒げながら、ニートを睨みつける。

その眼光は、獅子を彷彿とさせる、

素晴らしく気迫の篭ったものであった。


「なんか言ったらどうなの!?」

「…面目次第もございません」


ニートは、その丸々とした体をさらに丸め、

平身低頭、嵐が過ぎ去るのを待とうとしたにゃ。


このような論戦は、度々行われてきたが、

必ずニートが折れて、すごすご退散するという結果になるのである。

まあ、見ていてつまらなくはにゃいが、面白くもにゃい。


そして、

妹が眉間に極太のシワを寄せながら二階へ去ると、

決まってニートは、

飽きて台所でまどろんでいる我輩の元へやってきて


「これは敗北ではないのだよ、君。戦略的撤退というものだ。覚えておきたまえ」


と捨て台詞を吐き、そそくさと二階へ消えてしまうのである。


しかし、我輩もそのとき、にゃるほどと思ったわけにゃ。

ここからが大事なところ故、読者ネコ諸君、心して聞いてもらいたい。


ニートが今、一番恐れているのは、家から追い出されることである。

そして、妹に口答えをしようものなら、

妹は父上様や母上様にその愚かさを包み隠さず伝えるはずにゃ。


そうしたら、どうなるだろう。

必ず、きっと、絶対、やっぱり、本当に、マジで、

ニートはこの家から追い出されてしまうに違いにゃい。


自尊心が無駄に高く、それらしい言い訳だけはごまんと出てくる、

あのニートが、

あそこまで我慢している理由は、そこにあったのではないかと、

我輩は勉強してしまったのである。


我輩は、常に勉強しているということを、

読者ネコ諸君には、ぜひ、今日、覚えて帰ってもらいたいにゃ。


にゃふん。


我輩は、とてもいい気分で、また二人の論戦を描写していくのである。


どうせ今日も、いつものように、

一方的にニートが平謝りをするのかと思いきや、


「だが、妹よ。僕にも一つ言いたいことがあるのだ」


と、あのニートが抵抗をし始めたのである。


我輩はというと


”にゃ…!?”


開いた口が塞がらにゃかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る