我輩はネコであり、こいつはニートである。

鎌田玄

第1話 ニート、せんべいを奪われる 1

我輩はネコであり、こいつはニートである。


昼過ぎくらいに起きて来て、おもむろに台所に行き、

なにやら戸棚に、その短い首を突っ込ませている。

つま先に力を入れる、そのプルプルとした指先を眺めると、

非常に滑稽だ。


しかし、我輩も少しばかり小腹が空いていた故、

馬鹿にするのも大概にして、

今もまさに、プルプル震えている足元に近寄る。


ててて。


アメリカンショートヘアーを祖先にもつ我輩の高貴な灰色の毛並み、

ペルシャ猫の血を引く親戚の血を強く引くキリリと引き締まった瞳、

百獣の王と似たDNA配列を感じさせる力強い発声のニャー。


これら全てを発散させて仕舞えば、この馬鹿なニートも、

我輩に何か美味なるものをよこすに違いない。

できれば、ししゃもを所望するにゃ。みでぃあむれあにゃ。


”ニャー。”


我輩は力強く、腹の底から、叫ぶのである。


しかし、

「…ネコはいいよな、なにもしなくても怒られないもんな」

そう毒を吐き、物色を再開するニート。


非常に不愉快である。

すね毛の一本一本まで、憎らしくなるほどである。


このまま無視するという手もあったが、なにぶん我輩も暇である。

暇とニートを天秤にかけ、ほんの数秒思案する。

思案して、


仕方なくニートを遊んでやろう。

と解を出し、


”にゃ。”


おい、構え、ニート。と我輩は声をかけるのであった。

非常に簡潔な言葉であるが、短いからこそ強力なのだ。

この馬鹿な人間は、20文字以上の言葉を理解できないに違いない。

そこまで忖度した上での、考えに考え抜かれた2文字である。


しかし、この馬鹿な人間は、我輩の2文字すら分からなかったのか、

戸棚からせんべいを取り出すと、

そのだらしなく垂れ下がった、つきたての餅のような下腹を

満足そうに掻きながら、居間へと向かった。


たゆん、たゆん。


掻くたびに、揺れている。ズボンの上に乗ったお餅。


本当なら、こんなつまらないニートなど捨て置いて、

日課の日向ぼっこにいそしむ、ということもあり得たわけであるが、

乗りかかった船なので、我輩は、ニートのあとを


ててて


と追うのであった。

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